名城大学理工学部 応用化学科 永田研究室
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論文審査の問題(「現代化学」11月号より)2021/11/03(水)

 「現代化学」の11月号、有賀克彦先生の「論文審査は本当にきちんとされているのか?」という記事を拝読しました。JACSのアソシエイト・エディターを務められた中村栄一先生のコメントも合わせて読むと、おおむね「各国学会が発行している学術雑誌の査読はきちんと行われている。一方、一部の商業学術雑誌の方針には疑問あり」ということになるかと思います。

 中村先生が指摘される商業誌の問題点として、「時流に乗るのは仕方ないとしても、『流行の研究を作り出す』ことを狙っているところに問題がある」と書かれています。敏腕の雑誌編集者であれば、「流行を作り出す」ことは、利益を最大化するための理想的なあり方でしょう。とは言え、彼らは「商業誌の編集者」なのですから、「利益を追求する」ことは当然です。だとすると、問題は、そのような商業誌のあり方に乗っかっている研究者の心構え、ということになりますね。要するに、「Nature系の雑誌にたくさん論文を出すために、研究戦略を最適化する」みたいな方向に行ってしまうと、それはちょっと違うんじゃないの、ということになります。

 有賀先生はBCSJ(日本化学会の欧文誌)の編集委員長を務めていらっしゃいます。私の学生時代は、BCSJはハードルの低い雑誌で、よっぽどへぼい内容でなければ、データや議論の形式をきちんと整えればだいたい受理してもらえました。今はまったく様変わりしていて、私ぐらいのレベルだと、かなり気合を入れないと投稿できないハイエンドジャーナルになってしまいました。しかしこれは喜ばしいことです。国の化学会の主力雑誌は、その国の化学の研究レベルを反映します。BCSJがぼちぼちだった時代も、日本化学会の速報誌 Chemistry Letters はレベルが高く、日本の化学研究は国際的に高く評価されていました。有賀先生は「BCSJのハードルをあまり高くするつもりはない」とおっしゃってますが、自然に高くなっていくのは歓迎すべきことだと思います。

 ただ一方で、もっと「気軽に出せる」雑誌はあってもよいと思うのですね。上記の記事の中で、東北大の西原洋知先生からの「論文はすべてオープンアクセス、掲載料を払えば即掲載、入り口の審査ではなく事後評価で価値を決める」というご提案が紹介されています。私はこの方向性には賛同しますが、事前審査はやはり必要かなと思います。論文が「査読付きで公開されたかどうか」には、一定の重みがあると思うからです。いわゆる「メガジャーナル」がそちらの方向性ですが、掲載料が高いんですよね。

 日本化学会のメガジャーナルを作って、「ハイインパクトな仕事は BCSJ, そうでもない仕事はメガジャーナル」という流れが確立すれば、日本の化学研究がまた活性化するんじゃないかな、と感じます。投稿するのは日本人ばっかりになるかもしれませんけど、昔の BCSJ だって Chemistry Letters だってそうだったし、そこから徐々に地位を上げていったわけです。「国際化」の呪縛に最初からとらわれることもないんじゃないかな、と思います。冊子体を航空便で送っていた時代とは違って、オープンアクセスの電子ジャーナルなら世界中どこからでも読めるわけですからね。

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