医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.35
2015.10.25 発行
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巻頭言
医療の安全に関する研究会
理事長 島田康弘

 皆様にはお元気で活躍中のこととお喜び申し上げます。第20回の研究大会のご案内とお誘いを申し上げます。
 第20回研究大会は記念大会として、そしてちょうど医療事故調査が10月から開始されることも あり、「医療事故調査と医療の安全を考える」をテーマに組むこととしました。また、大会長を2人置きました。1人目は星城大学大学院健康支援学研究科 医療安全管理学講座教授の北野達也さんです。北野さんは医療安全学の専門家としてのお仕事を続けてこられています。2人目は南山大学法科大学院教授で弁護士そしてこの研究会の事務局長としてご活躍中の加藤良夫さんです。加藤さんは患者側弁護士としてもご活躍中です。また厚生労働省の医療事故調査制度の施行に係る検討会でも貴重な意見を言っておられます。
 大会長講演は医療事故調査と医療安全に関して、北野さんが「医療事故・調査の歴史、概要」、加藤さんが「専門家に期待されるもの」を語られます。続いて特別講演として朝日新聞青森総局長の出河雅彦さんに「医療界の自浄能力の現状と課題」について語っていただきます。出河さんは「ルポ医療事故」の著者としても有名な方です。
 昼食をはさんで午後の時間はすべてシンポジウム「医療事故調査が医療の安全に繋がっていくためには何が必要か」に費やされます。発表予定者は、地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター総長の上田裕一さん、医療法人顕鐘会神戸百年記念病院 麻酔科部長兼手術部長の尾崎孝平さん、元 千葉県がんセンター手術管理部で麻酔科医の志村福子さん、藤田保健衛生大学 副学長兼医学部肝臓・脾臓外科教授の杉岡篤さんです。コーディネーターとして加藤良夫さんと北野達也さんが加わります。すばらしいシンポジウムとなることを期待しています。フロアーからも活発な意見を期待しています。
 皆様と12月13日(日曜日)にウインクあいちでお会いできるのを楽しみにしております。



 
医療の安全に関する研究会
第20回研究大会
医療事故調査と医療の安全を考える

  
大会長 
北野達也(星城大学大学院健康支援学研究科
医療安全管理学講座 教授)
加藤良夫(南山大学法科大学院 教授 弁護士)
 
 9:30 受付開始
    総合司会:増田聖子(増田・横山法律事務所 弁護士)
 
9:55 開会の挨拶
    島田康弘(医療の安全に関する研究会理事長、名古屋大学名誉教授)
 
10:00 大会長講演 医療事故調査と医療安全
    「医療事故・調査の歴史、概要」     
    北野達也(星城大学大学院健康支援学研究科 医療安全管理学講座教授)
 
    「専門家に期待されるもの」     
    加藤良夫(南山大学法科大学院教授 弁護士)     
    座長:齋藤悦子 (摂南大学看護学部看護学科教授)
 
11:05 特別講演「医療界の自浄能力の現状と課題」     
    出河雅彦(朝日新聞青森総局長「ルポ医療事故」の著者)     
    座長:堤 寛(藤田保健衛生大学医学部病理学教授)
 
12:00 昼食休憩
 
13:00 シンポジウム「医療事故調査が医療の安全に繋がっていくためには何が必要か」                ここでは、いかにして医療事故の抽出力を高めていくか、
    同僚評価の文化をどのようにして育てていくか等についても
     討議したいと思っています
    上田裕一(地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター総長)
    尾崎孝平(医療法人顕鐘会神戸百年記念病院 麻酔科部長兼手術部長)
    志村福子(元 千葉県がんセンター手術管理部 麻酔科医)
    杉岡 篤(藤田保健衛生大学 副学長兼医学部肝臓・脾臓外科教授)
    コーディネーター:加藤良夫・北野達也
 
17:00 次期大会長挨拶 北野達也       閉会の挨拶 大会長
 
 研究大会に関する会場の詳細案内はこちらのURLサイトから 
 

 

大会長講演1
医療事故調査と医療安全 ~医療安全を捉え直す~


星城大学 経営学部 健康マネジメント系 医療マネジメントコース専攻長・教授

北野 達也


【はじめに】
 本年10月1日より新たな医療事故調査制度が施行されます。本来、医療事故などあってはならないことですが、公益財団法人日本医療機能評価機構医療事故防止事業部の報告によると、この10年間で21,823件(報告義務対象医療機関275施設+参加登録申請医療機関708施設:2014.9現在)もの医療事故が発生しており、また、医療事故情報収集等事業第41回報告書(2015年1月~3月)によると、報告義務対象医療機関(275施設)報告数932件(平均310.6件 / 月)、参加登録申請医療機関(729施設)報告数88件(平均29.3件 / 月)もの医療事故が発生しているとのことです。現在、医療安全対策加算算定条件として専従・専任の医療安全管理者の配置が義務付けられたものの、医療事故の未然予防・再発防止、さらには医療事故調査、医療事故訴訟・対応など、すべての業務を実践できる医療安全管理者の方が少ないのが現状です。医療の質・安全の確保のためには、各部署、各業務についてのマニュアル作成・配布することでなく、各施設の院内スタッフ全員に周知されることが前提であり、各々のマニュアルに基づきシミュレーション教育を実践されなければ何の意味もなされません。度々報道される医療事故は如何にして発生したのか・・・各施設における院内安全管理体制のあり方について疑問が残ります。今回の第20回研究大会においては、医療事故調査制度の目的を明確にし、医療安全管理体制構築のための新たな取り組み、問題解決の手法などについて述べ、皆様方と議論を深めたいと思います。
 
【医療安全管理における問題点】
1.医療倫理学など教育を受ける機会が少ない。実習時間が少ない。実地試験が無い。
   ⇒医療従事者養成のための統一カリキュラムの必要性。多職種連携全体教育の必要性。
2.Professional としての自覚
   ⇒人間性、利他主義、卓越性、説明責任を重視した教育体系必須。
3.事後の報告件数の集計・分析であり、登録医療機関、参加登録機関のみの報告で、全ての医療機関からの報告を集計・分析しているわけではない。⇒報告漏れのない組織・環境づくり。
   ⇒受診・入院時疾患からの見守り、予見(予測)能力養う。
4.航空・宇宙業界の分析手法(4M4E、SHELLなど)、ハインリッヒの法則。  
   ⇒収集した事例のうち、限られた事例のRCA分析のみで、分析に時間を要するわりに改善策見出せず、事例の多い医療業界では活用できない。
5.各医療機関ごとのレベル別分類・定義づけであり、事例件数で医療安全水準を判断。
   ⇒報告漏れもあり、医療安全水準が明確でない。
6.障害残存可能性、予期されぬ事故⇒判断基準が不明確。
7.医療事故調査制度の課題
   ⇒原因究明・再発防止のための内部調査が最大の目的。
8.各医療従事者の想定
   ⇒最悪の事態を想定、最善の処置を行なうこと!(By T.Kitano,1991)
 
【経験則・方法論から導き出された新たな手法】
1.医療安全管理者の業務の大半が事例収集・分析である。
   ⇒新たな医療安全モニタリング・システムなどの導入。
2.医療安全管理者の教育研修期間、研修カリキュラム内容の問題点。
   ⇒職種もさまざまであり、2~4年間専門職教育の必要性。特にNon-Technical Skill の強化。
3.医療事故を低減するための方法論   
①健康増進により受診・入院させない。
  ⇒今日の診療報酬制度の問題点   
②受診・入院時から患者疾患に応じた見守りサポート
   ⇒現在、開発を進めている「医療の質・安全管理フィードバック支援システム」導入により、根本原因分析(RCA)や、レベル別分類不要となり、インシデント・アクシデント情報収集・ 分析業務(医療安全管理者の業務の54%を占める。)の作業負担を減らすだけでなく、業務の大半を院内巡視強化、危険予測トレーニング強化、組織力強化など、院内安全管理体 制の再構築に寄与でき、院内のインシデント・アクシデントの低減を図る。   
③医療安全管理者の主な業務を未然予防、院内ラウンド、安全教育に費やせる環境づくり。
4.目的・目標、価値観が共有できず、組織再構築できない。
   ⇒受けた教育の違い⇒組織・人間関係を再構築
5.患者の方々からクレームが絶えない。医療訴訟になることも・・・。
   ⇒クリニカル・パス、北野式 Informed Consent(十分な説明⇒理解⇒納得⇒同意)の活用!
6.患者-医療者、医療者間コミュニケーションが図れない。
   ⇒医療コミュニケーション学の習得、臨床現場で実践できる調整役 / 交渉役を養成・配置!
7.各医療専門職も専門分化・専門特化し連携が図れない。
   ⇒おせっかいチーム(お供達チーム:Attendant Team)北野 結成!
8.医療安全管理体制構築のための継続的手法 現状把握⇒問題提起⇒改善策提案⇒全体周知⇒実行    ⇒再評価(By Kitano,1995)
9.医療安全管理者⇒総合的リスク・マネジャー、医療事故調査官(仮称)北野 の養成急務
   ⇒リスク・マネジャーは総合的リスク・マネジメントを実践する専門職であり、医療安全管理者とは異なります。欧米においては2~4年リスク・マネジャー認定資格養成教育課程があり、本邦においては医療安全管理者の教育体系も明確ではありません。
 
【今後の展望】
 院内において、組織横断的に取り組むことのできる調整役 / 交渉役(Coordinator/Negotiator)、である高度医療専門職としての医療安全管理者、院内感染対策管理者、医療事故調査官、院内評価調査者(surveyor)などの人材育成が急務であり、また、構成員である医療関係者一人一人が Cooperator(協同行動者)北野 となるべく、さらなる患者安全向上のための第一人者になることを願っています。これらの取り組みが結果として、各医療機関において患者本位で安全で安楽な質の高い医療提供の一端を担うものと考えております。
 
【終わりに】  医療従事者は患者の方々にとって安全で安楽な質の高い医療を継続的に提供し続けなければならず、当然のことながらそれらを行う使命があります。今回、医療の安全に関する研究会20周年に 寄せて、患者本位で安全で安楽な質の高い医療提供を基本とし、患者の権利を重視した安全文化の確立手法、医療安全管理者の研修のあり方、医療事故情報収集等事業のあり方等を体系的に捉え、医療安全管理体制構築のための新たな手法を見出したので、各医療機関で実践して頂ければ幸いかと存じます。
 今一度、“誰のための医療機関で、誰のための医療で、誰のための行政であるのか?”を自問自答され、患者本位の安全管理体制構築のさらなる重要性が認識されることを願っております。
 “Ask not what your profession can do for you, ask what you can do for your patients.” - John.F.Kennedy -(Changed by T. Kitano)
「あなた方の職業があなた方に何をもたらすかを問うのではなく、あなた方が患者さんのために何 ができるかを問いなさい。」を私の最後の言葉とします。
E-mail: onatik@k6.dion.ne.jp



 
大会長講演2

医療の安全につながる医療事故調査制度とするために
―患者の視点から医療事故調査制度を考える―

 

南山大学法科大学院教授 弁護士
加藤 良夫

 重大な医療事故を発生させた医療機関は、『隠さない、逃げない、ごまかさない』という姿勢を基本にして、的確にピア・レビューのできる外部委員の参加を求め、速やかに、公正な事故調査を行う必要がある。診療関連死については病理解剖をする。被害者の「5つの願い」とりわけ「真相究明」及び「再発防止」の願いを正しく理解し、誠実に事故調査を行い説明責任を尽くすとともに再発防止策を立案して実践する。ところが現状では、診療関連死等について十分なレビューがなされているとは思われない。このような実情を踏まえると、事故情報を網羅的に集約しそれらを調査・分析し、積極的に、医療の質の向上につないでいく幅広い活動を担う第三者機関が必要である。
 しかし、医療界の中には、第三者機関に対する不安・不信の声もあり、新しく創設された院内中心の医療事故調査制度が本来の趣旨に沿って運用されるかどうか全く楽観できない。
 医療の世界は今でも決して風通しが良いわけではない。医療事故情報は相変わらず沈殿しがちである。「臭いものに蓋」の文化から「安全文化」へ大きく転換していくためには、医師等医療従事 者の意識改革が必要であるし、それなりの時間も必要となる。
 医師等にとって、安全な医療を患者に提供することは、職業人としての誇りであり、喜びであるはずである。医療の安全と質の向上を図ることよりも、訴訟や医事紛争を減らすべく患者の不平不満を表面的に押さえ込み保身を図ることに熱心になるのではいかにも悲しい話である。新しく創設された医療事故調査制度も医療安全の魂を失っては何ともならないもの(医師の保身のための道具でしかないもの)となろう。
 他方、日頃から患者のために誠心誠意、身を粉にして働いている中で誤って事故を発生させてしまったという場合や、被害者の「5つの願い」に応え事故直後正直にすべてを患者・家族に伝え、事故調査に対しても誠実に向き合って、ありのままを語り再発防止策の立案等に尽力している場合には、それらを高く評価して、「許し許される」という文化も必要となってくると考える。すなわち、「正直者が馬鹿を見る」ことのない仕組み(逆に、隠したりごまかしたりしようとすれば反ってひどい不利益を受けるという仕組み)も必要になる。
 「プロである以上、ベストを尽くす。もし間違ったことをしてそのため患者さんが死亡した時には、ご遺族等に対し率直にお詫びする。民事責任については賠償保険でカバーしてもらいたい。刑事については悪質なものでなければなるべく寛大であってほしい。日頃から一生懸命やってきていることも正しく評価してほしい。予期せず医療事故で患者を亡くしたご遺族のためにも、公正に事故を検証し、診療経過及びその医学的評価、死亡原因、改善点等を分かりやすく医療事故調査報告書の中に書き込み、それを遺族に手渡し、かつ直接お会いして説明報告をする。」  これがプロとしての医師の本来の姿であり、人々から信頼を得る唯一の道である。
 新しく創設された医療事故調査制度の中には、遺族への報告・説明を求めているところもあり、医療の安全を確保することとそのような活動を通して医療に対する人々からの信頼を高めることも重要なことである。
 良心的な医師等、医療被害者、患者・市民と力を合わせて、粘り強く、医療の質の向上・安全な医療に資する医療事故調査制度を構築し、医療に対する人々の信頼も高めていきたいと思っている。


 
特別講演
医療界の自浄能力の現状と課題

 

朝日新聞青森総局長
 
出河 雅彦

  
 1999年に起きた横浜市立大学附属病院の患者取り違え事故、東京都立広尾病院の薬剤誤投与事故などが契機となって、医療安全対策の重要性が認識されるようになり、医療界は様々な取り組みを行ってきた。医療安全という課題に対して医療界は「自浄能力」を発揮しているのか否か。最近のトピックスを事例に考えてみたい。
 
1.リピーター医師問題への医師会の取り組み
 日本医師会は「会員の倫理・資質向上委員会」の提言に基づき、2013年6月に医療事故を繰り返す医師を対象にした再教育制度を導入した。  これは、日本医師会の「医賠責調査委員会」に付託される事案の中から、医療事故を繰り返すなど問題のある医師について、「指導・改善委員会」が個別の事故事例を分析・調査し、指導が必要な会員の認定や、具体的な指導・改善目標の検討を行って、会長に答申するという仕組みで、具体的には、①過去10年間に「有責」と判断された医療事故を3回以上起こした②医療事故で1件5000万円以上の高額賠償金を複数回支払った③一般的な医療行為から見て適応のない手術を繰り返している④その他問題のある医師――が指導の対象となる。日本医師会によれば、制度導入から1年間に7人の医師に指導を行った。
 日本医師会は2004年4月に「診療報酬の不正請求や悪質な医療事故を繰り返す会員医師に対して除名を含めた処分を行い、公表する制度を2004年度中にスタートさせる」方針を当時の会長が明らかにし、その後、医療事故を繰り返す医師に再教育を課し、再教育の受講を拒否した場合に氏名を公表する、という具体的な制度案も示しながら、実際の導入には至らなかった。過去の経緯を考えれば、再教育制度の導入は、職能団体としての自浄作用を働かせた試みと評価できるものだが、指導の実効性や制度の有効性を客観的に検証し、その結果を国民に開示していくか否かなど、今後の取り組みを注視する必要がある。
 
2.特定機能病院の事故事例が浮き彫りにしたもの
 2015年6月、東京女子医科大学病院と群馬大学医学部附属病院が特定機能病院の承認を取り消された。
 東京女子医科大学病院は2001年に起きた心臓手術事故をめぐり、2002年から2007年までの5年間にわたって特定機能病院の承認を取り消されたことがある。この時は、①医療事故の院内報告制度が機能していなかった②遺族等からの指摘があるまで原因の究明や遺族への説明がなかった③手術に多くの関係者が関与していたのに事実関係が隠蔽されたうえ、隠蔽を目的とした記録の改ざんが行われた――というのが取り消しの理由だった。
 前回の取り消しから13年後に再び、特定機能病院の承認を取り消された理由は、小児の集中治療における人工呼吸中の鎮静目的での使用が「禁忌」とされているプロポフォールを継続投与された小児が死亡した事例に関連して、医療安全管理体制の問題点が指摘されたためである。具体的には、プロポフォールの禁忌情報が一部の医師以外に認識されていなかったことなど多岐にわたるが、2007年に特定機能病院の再承認を受けるに当たっての改善策の周知や実施状況の調査、見直しが行われていなかったことも今回指摘されたことは重大である。
 群馬大学医学部附属病院の取り消し理由は、同病院の特定の医師が2010年から2014年にかけて実施した肝臓の腹腔鏡手術で患者93人のうち8人が死亡した事案に関して医療安全管理体制の不備が明らかになったためである。死亡例のうち7例では死亡症例検討会を実施した資料や記録が確認されておらず、すべての死亡例について院内報告制度による報告がなされていなかった。東京女子医科大学病院が13年前に指摘されていたことが同じ特定機能病院で繰り返されたわけである。
 群馬大学医学部附属病院は過去に第一外科と第二外科が別々に生体肝移植を行い、移植手術に関連した医療事故をきっかけに実施診療科を一本化するという問題を起こしている。移植手術の可否を一例ごとに審査する倫理審査委員会において、移植対象患者の選定基準が二つの外科で異なることを問題点として指摘する意見が出されていたにもかかわらず、医療事故が発生するまで、移植手術の実施体制の見直しが図られることはなかった。特定機能病院の取り消しにつながった一連の腹腔鏡手術においても、保険適用外の手術法が倫理審査委員会の審査を受けないまま実施されており、今回も倫理審査体制が機能していなかったことが判明した。
 東京女子医科大学病院や群馬大学医学部附属病院のケースは、高度医療の開発・評価・提供を法律で義務づけられている特定機能病院においてすら、他院や自院での過去の教訓を医療安全管理に生かしていない実態を浮き彫りにした。
 
3.医療事故調査制度の運用に関して
 2015年10月、医療事故の再発防止を目的とする新たな調査制度がスタートした。この制度導入までには紆余曲折があり、厚生労働省が本格的な検討を始めてから8年を要した。調査の実施主体を公的な第三者機関とする当初の案は、医療界の一部の反対や政権交代の余波で立ち消えとなり、院内調査を柱とする制度となったうえ、遺族が希望するだけでは調査そのものが行われないことになった。
 この制度の対象となる医療事故は、「医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該病院等の管理者が予期しなかったもの」と定義された。また、医療者の個人責任追及が広がることを回避したい医療界の意見が尊重された結果、遺族への説明方法については「口頭又は書面若しくはその双方の適切な方法により行う」と規定され、医療機関側が必ずしも事故調査報告書を遺族に手渡さなくともよいことになった。
 調査対象の選定や遺族への説明方法について、医療機関に大きな裁量が与えられたとみることができるが、調査対象を恣意的に限定したり、調査や医療安全対策の検討に当たって遺族を「蚊帳の外」に置いたりする医療機関が出てくれば、医療への不信を招くことも予想される。医療界は、「医療安全」の必要性が認識され、事故調査制度が創設されるに至った原点、経緯をいま一度振り返る必要がある。


  

 
シンポジウム
医療事故調査と専門学会:日本心臓血管外科学会の対応を中心に

 

奈良県総合医療センター 総長
(日本心臓血管外科学会 理事長)
 
上田 裕一

  
はじめに
  わが国では1999年の重大医療事故が社会から大きく注目され、これらを契機に医療安全への取り組みが始まったといえる。2000年代前半には多くの医療事故報道から医療不信を招いて、また、過酷な病院の勤務環境からハイリスク医療の現場から医師が立ち去るという『医療崩壊』(小松秀樹 著)も問題となってきた。その一方で、医療安全への新たな取り組みは、2000年の Institute of Medicine(米国医療の質委員会/医学研究所)による『人は誰でも間違える:より安全な医療システムをめざして』の出版が嚆矢といえよう。「ほとんどの医療過誤は機能不全に陥ったシステムのなかで働く、善良な人間がおこしてしまうものであり、医療従事者も人間である以上、誰もが不完全であると言える」の記述は当時、鮮烈でもあった。その後、このような観点での医療事故調査の取り組みが大学病院を中心に始まったが、10年以上を経過した現在でも依然として、委員会のあり方や外部委員の参加の有無など、施設によって大きな差があるのが現状である。もとより、報道だけでは事故の詳細はほとんど不明であり、事故調査報告書に記載された原因分析と再発防止策が最も重要であるにも関わらず、「再発防止に努めます」では情報共有は全く不十分で、医療システムの不備や再発防止策が周知されていないといえる。また、多くの専門医は外部委員の役割や医療事故調査の手法について、十分な理解が得られていないと思われる。
 筆者は2002年から2012年まで17の院内医療事故調査委員会に参画し、また、日本心臓血管外科学会の医療安全委員会委員長を9年間務めた後、理事長を拝命しているが、個人的には心臓血管外科医としてハイリスクの診療に35年従事した経験と医療事故調査委員会への参画、そして日本心臓血管外科学会の対応について口演することにしたい。
 
1.院内医療事故調査委員会
 医療事故が発生した場合、院内に医療事故調査委員会を設置するか否かについては、病院長を含む執行部と医療安全管理部が各施設のマニュアル(医療法で策定が義務づけられている)に従って決定される。医療事故調査委員会は「医療過誤か否かの判断を行うのではない」ことを明確にして、事故原因を究明するスタンスに立ち、「なぜ医療事故が発生したのか」を突き詰めて検証すること、そして再発防止策を提言することが目的であることを銘記すべきである。すなわち、医療専門職として医療事故を医療機関の組織的問題と位置づけ、原因を解明し再発防止に役立てなければならないのである。この意味では、院内医療事故調査委員会は事故の原因分析の端緒であり、その目的は当該医療機関や病院管理者にとっては再発防止に向けた自律的対処であること、当事者の医療従事者にとっては将来の紛争の回避・解決につながること、医療界にとっては医療の安全と質の向上に資するものでなければならない。  院内医療事故調査委員会で問題となるのは、専門医療に関わる医療事故の場合、当事者や関係者(彼らだけが、院内ではその専門領域のエキスパートである)を委員から除外しているため、院内で調査すること自体が困難である、あるいは専門性の観点からは不十分な調査に留まることである。調査の対象領域の専門医や看護師や技師などの多職種が、十分納得できる専門性の高い調査を実施するためには、専門学会の調査への支援が不可欠である。さらに、前述のように専門医資格だけではなく、分析手法の知識と委員会に参加した経験がある外部委員が加わることによって、実効性のある調査が可能で信憑性と透明性を担保できる。この外部委員の招請には、学会および職能団体から地域や大学関連などを考慮して推薦されることが重要となる。さらにできれば、半数以上は外部委員で構成され、医療職以外には弁護士や有識者代表の参画も望まれる。
 
2.日本心臓血管外科学会の医療事故対応
 日本心臓血管外科学会は医療事故の軽重に関わらず、当該の施設長から要請があれば、院内事故調査委員会に外部委員を複数名、推薦してきた(年間4~5件)。委員会に参画して専門的評価を担当する学会員(専門医)にとっては、学会の同僚の医療内容を評価する重責を感じざるを得ないので、できる限り事故調査委員会への参加経験がある評議員1名は含めるよう努めてきた。外部委員には専門的医学知識だけではなく、専門領域の診療経験が十分にあること、すなわち医療の現場を知っていることが求められる。つまり、指導的立場の専門医が医療の現場を熟知しているとは限らないので推薦には、事例の専門性や診療経験を考慮して決定している。公平で正当な評価をするには、大学関連を越えた複数名の外部委員・専門医の参画が不可欠であるが、さらに医師だけではなく看護師や体外循環技師も必要に応じて推薦している。時には、推薦委員だけでの判断では不確定な要素が残ると委員が判断した場合には、理事会にその疑義内容を相談できる仕組み(外部委員を推薦する段階で施設長と覚書を交わしている)を設けており、日本心臓血管外科学会としての公正、中立な分析と判断となるようにしている。もちろん、推薦委員や理事会の全員には、守秘義務を徹底している。なお、調査委員会では十分な審議が行われるためには、委員長の裁量も大変重要であることは、言うまでもない。
 昨今、医療事故の範疇を超えた、いわゆる「医療の質」が問われる診療関連死亡が注目されている。単純な死亡率だけでは、心臓血管外科をはじめ手術死亡も想定される外科領域、また重症例や緊急手術などの場合には、個々の患者さんのリスクスコアを検討しなければ、診療実態の評価はできない。心臓血管外科では日本心臓血管外科手術データベース機構(JCVSD)に手術実績が登録されており、個々のリスクスコアに基づいて、本邦の標準的成績とのベンチマーキングも可能である。特に手術成績は執刀医だけではなく、心臓外科医と麻酔科医、多職種とのチーム体制、診断から適応判断や術後管理にまでの連続した診療体制が問われる。したがって、複数の診療科が参加する死亡症例および合併症例検討会が定期開催されているか、医療職の労務管理体制の視点からも評価することも重要と考えている。学会としては当該施設にとどまらず、「本邦の心臓血管外科医療の質が問われている」と理解して、適切な医療を提供できるように、全会員・専門医のためにもこの調査分析活動の推進は必須であると考えている。外部委員を依頼された院内事故調査委員会の報告書には、多くの学ぶことがあり、施設名や関係者は匿名化し、再発防止策を会員が共有できるよう活動も行っている。
 
おわりに
 『人は誰でも間違える』の第7章には医療関連学会と医療専門職団体の役割が記されているが、「医療関連学会や医療専門職団体は、医療におけるエラーを認識して予防に結びつける文化の形成に寄与することによって、患者の安全向上に重要な役割をはたすことができる。しかし、エラーを減らし患者の安全を高めるということについて、目に見える形で積極的な態度を示した学会や団体はほとんどない。会員間にそのような認識があっても、集団として行動をとっているものは少ない」と記載され、「学会や医療専門職団体は医療上のリスクの改革の支持者であるべきだ」と結んでいる。また、「医療専門職団体は、討論する機能を持っているというところに強みがある。総会、委員会 を通じて、標準、規範、提言を会員に発信できる。それらの結論を機関誌を通じて広めることもできる。しかし、これまでこれらの会議や総会が、患者の安全問題をはっきりと掲げたことはほとんどなかった」と厳しい見解も付されている。すなわち、真の医療の実績評価を可能にする唯一の存在は専門学会であり、社会にとっての医療を評価し改善するプロセスを主導しない限り、学会は自らの役割を果たしていないといえるのではないか。その重要な役割として、院内医療事故調査委員会へ各専門学会が関与する仕組みを早々に構築する必要があろう。

 

シンポジウム
Risk Vaccination

 

神戸百年記念病院 麻酔集中治療部 / 尾崎塾
 
尾崎 孝平

 ギリシャ経済の破綻は、国民気質ともいえる恩顧主義に深く関係しているといわれる。個々個人の性格が国家の存亡に影響することに驚きを感じた。同時に、我が国の医療にも酷似する考え方があるのではないかと危惧する。つまり、リスクに対する考え方が健全かと問われると、私は怪しい と感じてしまう。
 恥の文化なのか、あるいは自尊心のためか、トラブルから目を背け、自己防衛を優先する医療者が我が国には少なからず存在する。しかし、彼らはギリシャ経済が破綻する道と同じ道を歩むことになり、最終的に猜疑心と不幸のスパイラルに陥って、患者のみならず家族や同僚にまで更なる不幸を与え、訴訟を招来する。
 医療事故訴訟は、事故そのものの原因に対してよりも、医療と医療者に対する不信感から発生していると言っても過言ではない。現在までに私は27件の医療事故訴訟の鑑定書意見書を提出してきたが、例外なくこの感覚が存在する。言い換えると、トラブルが起きた時にこそ患者とその家族に積極的に向き合い、彼らを中心に置く対応を図ることで、多くの不幸を回避できると思えてならない。
 そのためには、事故と不誠実な対応がどのように不幸を生むのかを疑似体験すべきであると考える。正論を百回唱えるよりも、不幸がどのような形で生じるかを具体的に知るべきで、その方が遥かに効果的であると考え、私は Risk Vaccination という概念を提唱している。すなわち、問題となった医療の危険事象を認識することに加え、医療者の心の奥底に潜む危険な逃避的思考が発動しないように、疑似体験(免疫)を持つべきであると考える。
 そのための施策として、医療者が医療事故訴訟の鑑定意見書を顕名で書くことを提案する。現行の訴訟に限らず、過去の問題事例を数名の臨床家が互いを知らずに鑑定書を仕上げる。実際に鑑定書を書くと、その筆は非常に重く、心に苦く、自身の甘さを痛感することになる。そして、虚言者にならないために、自身が述べた正しく安全な診療を実践せざるを得なくなる。
 さらに、複数の医療者が同じ事件に対して複数の意見を正式に述べることで、様々な考え方、異なる判断が存在することが明示される。このことは司法や患者側が、一部の鑑定医の意見だけに固執せず、現在の医療に存在する複雑な問題を理解し、正しい判断を下す大きな助けになると考える。
 あまりにも教科書的な鑑定意見は、実診療を行う医療者側の不利になり、自分達の首を絞める行為であり、同業者評価を控えるべきであると異議を唱える医療者がいる。一見、道理が通っているように思えるこの反論は、繰り返される次の事故を防止する障壁になっていることを忘れてはならない。仮に医療者が不利になるような状況が存在すれば、むしろ医療事故を契機に詳細を明らかにして、医療制度や教育システムを改革したり、労働条件を改善する努力をしたりすべきである。そのためにも医療者は鑑定意見を通して、正式に声を上げるべきである。


シンポジウム
内部通報と医療安全

 

元 千葉県がんセンター手術管理部 麻酔科医
 
志村 福子
 初めまして。志村福子です。シンポジストとして、このシンポジウム「医療事故調査が医療の安全に繋がっていくためには何が必要か」というテーマでお話しをさせていただく予定でしたが、急な病を得て、出席が出来なくなりました。そこで、予めいただいたご質問に、答えさせていただくという形で参加させていただくことにいたしました。
 まず簡単に経過の説明をさせていただきます。私は、2007年千葉県がんセンターに非常勤の麻酔科医として週3~4日の勤務を始め、2010年4月に常勤の麻酔科医となりました。その間に、①消化器外科の手術で再手術が相次いでおり、とくに、腹腔鏡を用いた手術で、重篤な偶発症で長期入院となり、後遺症も残った症例や、術後早期の死亡症例があったこと、②複数の歯科医師が麻酔の研修目的で雇用されていたものの、患者にはその説明はなく、また、指導体制が不十分で、歯科医師の関与した麻酔症例で医療事故が複数回起きていたことを目撃し、これらの問題を在職中に当時のセンター長に内部通報しました。しかし、センター長にまったく改善しようという意志は見られず、また麻酔科の直属の上司から、麻酔業務からすべて外されるなどのパワーハラスメントを受け、退職せざるをえなくなりました。退職後も、千葉県病院局や、厚生労働省に内部告発をおこなったものの、事態の改善に結びつくことはありませんでした。結局、2014年、週刊朝日によって出された告発記事により事態が表面化し、第三者委員会が開催されるという運びになりました。報告結果は、皆さんがご存じの通りです。
 
1.なぜ、どんな思いで、内部通報をされたのでしょうか。
 私にとって一番の衝撃であったのは、2008年11月の医療事故です。これは、第三者委員会で検討された医療事故症例5にあたります。胃癌の腹腔鏡手術を受けた患者が、術直後より容態が悪く、縫合不全により翌日再手術となり、その手術中に心停止し、蘇生したものの、脳は重篤な傷害を受け、遷延性意識障害となったものです。
 この症例は、術者の技量は、腹腔鏡手術を施行できる水準に達していなかったという評価です。ですが、この症例の予後に致命的な影響を及ぼしたのは、麻酔管理です。この心停止の原因は再手術前から容態が悪く、ショック状態となっていた患者に対し、歯科医師が、健常人に対する通常量の麻酔薬と硬膜外麻酔薬を投与し、急激な血圧低下を起こしたことによると考えられます。さらに、容態が悪い患者にも関わらず、部長は導入直後から患者の側から離れており、不在でした。また、家族は、歯科医師が麻酔を担当していたことを全く知らされていませんでした。
 このような医療事故が起こっても、腹腔鏡手術は中止にならず、また事故調査委員会も開かれませんでした。その後も、腹腔鏡手術の術後早期の再手術事例や、術後死亡が相次いだり、また歯科医師の関与した麻酔で医療事故が起きました。関係者には、自分たちの行いを振り返る様子が無く、このまま放置してはいけないという強い危機感を持ち、内部通報を始めました。
 
2.その際、迷い、悩みはありませんでしたか。
 全くありません。人命がかかっておりますし、医療事故の当事者達(消化器外科医師・麻酔科部長・歯科麻酔科医)は、自らの医療行為自体や体制に問題があるという認識を全く持っておらず、当事者からの自主的な改善は期待できないと思い、誰かが声に出して言うしかないと考えました。
 
3.リアクションは想定通りでしたか。
 実は、千葉県がんセンターの麻酔科部長はパワーハラスメントの常習者で、過去にも被害者がおり、主に立場の弱い研修医や、看護師が対象となっていました。部長からは嫌がらせを受けることは覚悟していたので、仕事を外されたことには、驚きませんでした。  ただし、一番権限を持ち、中立的な立場を取るべきセンター長も、パワーハラスメントを放置し、また腹腔鏡手術に対しても何の対策も取らなかったことに、強い憤りを覚えました。
 
4.院内で事故調査を公正にできると思われますか。
 自分の経験から申し上げると、残念ながら、院内のみでは公正に出来るとは思いません。一般的に医師間では、医療事故に対して、一言物申すという行為が、タブーと捉えられています。事実、がんセンターでは、手術室に出入りする多くの外科系医師や看護師が、消化器外科の手術には問題が多いと認識していました。しかし、自分も医療事故を起こすかもしれないし、それに関して批判を受けるのは困るという間違った共感、意見をすることが相手への個人攻撃に捉えられ、職場の人間関係に影響するかも、場合によっては嫌がらせを受けるかもしれないなど、様々な理由で、多くの職員は見て見ぬふりをしていました。 (私の就職する前にも、千葉県がんセンター内で内部通報したところ、違法行為をおこなった当事者だけでなく、通報者も退職勧奨を受け、結局双方辞職したという先例があったと伺っています。)
 
5.どうしたら、医療事故について同僚評価がきちんとできるようになるでしょうか。
 診療の質および安全性を改善する目的で、偶発症が起きたケース、死亡したケースを医療関係者で振り返る検討会を M&M(mortality & morbidity:合併症と死亡)カンファレンスといい、臨床研修指定病院では必ず開催することとされています。この検討会の重要な目的は、①事故が起きた状況 ②事故が何故起きたか ③どうしたら、この事故を防げたかを皆で考え、次の診療の改善につなげることです。また、このカンファレンスは、個人の責任追及を行う場ではないとされています。しかし、まったくカンファレンスを開かない、開いても出席率が悪く、形骸化しているなど、現場の医療者の関心はまだまだ低く、病院によっても差があるように思います。
 M&M カンファに限定されずとも、自らの医療行為が妥当であったかを常に客観的に判断する姿勢を持ち診療に当たること、必要なら他科の医師に対しても意見することが、医療安全管理上、医療者の責務であると考え、医療関係者の意識改革を継続的に行っていくことが必要ではないかと思います。
 
6.当日、参加者に言っておきたいこと等あればどうぞ。
 千葉県がんセンターのように、ここまで医療事故を放置している病院は他には無いだろうと思っていました。ところが、群馬大学、ついで神戸国際フロンティアメディカルセンターの医療事故が相次いで報道され、その詳細が分かるにつれ、日本全国にもまだまだ同じような病院が存在しているのではないかと、多くの方々に疑念を抱かせたのではないかと思いました。一医療者として非常に残念に思います。
 医療は年々高度化・複雑化しており、日々様々な治療法や新技術が導入されています。しかし、それらの医療行為の安全管理は、現場の医師の裁量に任されており、外部からの監査を受けることは無いのが実情です。このような現場の閉鎖的な状況が、今回報道された複数の大病院で繰り返された医療事故に繋がったと思います。
 今後、同様の事例を繰り返さないためには、現場の医師の倫理感に一任するのは不十分であり、学会・行政など外部からの監査も必要であると考えます。さらに、医療の積極的な情報開示をもっと進めていく必要があるのではないかと思います。 ”


シンポジウム
大学病院における医療事故の抽出と同僚評価の取り組みと今後の展望

 

藤田保健衛生大学 副学長、肝・脾外科 教授
 
杉岡 篤

はじめに
 医療事故調査制度の法制化に伴い、医療事故の抽出と同僚評価はこれまで以上に重要となるとともに、大学病院には支援組織としての役割も期待されている。
 医療者の自浄作用としての医療事故報告制度は医療安全の根幹であるが、事故報告制度のみでは医療事故の迅速な抽出は困難である。報告の遅れによって適切な状況把握や物品・データの確保等の対応ができなければ、同僚評価による原因究明及び再発防止の機会も失われる。もとより、医療者にとって重大事故発生時には患者救命のための初期対応が最優先事項であるため、当事者のみによる迅速な報告及び適切な対応には限界があり、それを補完し支援するシステムの構築が重要な課題である。
 
医療事故抽出
 重大事故発生現場において、当事者のみで適切な初期対応を行うことは困難であり、組織としての支援システムの構築と対応訓練が不可欠である。具体的には、迅速な事故報告の支援、緊急患者対応チーム(MET)による患者初期対応の支援、安全管理室員等による記録・物品資料等確保の支援などがきわめて有用である。
 重大事故の抽出には迅速性が不可欠であるが、合併症などとの鑑別が困難な場合には必ずしも迅速な報告が得られない場合がある。当院ではそのような事例に関しても医療事故の可能性を否定するために、種々の報告システムを設け、重大事故の遺漏なき抽出を心がけている。特に、合併症報告、院内患者死亡報告、早期入院患者死亡報告(特に入院後30日以内や手術後30日以内に死亡した症例)を抽出し、安全管理室で評価している。また手術患者においては、事故報告がなくとも、出血量、手術時間、術式変更、再手術などの項目で自動抽出、評価を行い、問題点の早期発見に努めている。
 以上のような取り組みにより、重大事故の抽出はほぼ網羅されるが、課題は迅速性である。信頼を得た安全管理室員においては、WOM(口コミ)という自律的情報伝達が迅速な事故抽出を可能にしている場合も少なくない。今後は事故抽出の支援体制を強化するとともに、報告文化の醸成により自律的で迅速な事故報告体制の確立を目指すべきである。
 
同僚評価制度
 重大事故に対しては、調査・分析に基づく原因の究明と再発防止策の立案が必要である。今後はさらに、重大な(死亡)事故に対しては第三者機関への届出の判断が求められることになる。当院では重大事故発生時には、病院長はただちに幹部会を招集し異状死の有無を判定し、さらに緊急院内事例検討会を開催し予期せぬ死亡・死産か否かを判定する。予期せぬ死亡・死産と認定されれば、第三者機関への報告とともに外部委員を加えた院内事故調査委員会を開催する。さらに第三者機関の評価等に応じて外部委員中心の院外事故調査委員会を開催する場合もありうる。
 適正な同僚評価においては、そのすべての段階において中立・公正性、透明性など第三者性を担保するとともに高い専門性を求められている。しかし現実にはそのすべてを満足する人選は大学病院であっても困難である。また学会等の専門家集団もある意味では限定された集団であり、厳密な意味での第三者性を担保することは不可能である。事故調査委員としての適性は、高い専門性とともに、第三者性の有無に拘わらず高い自浄意識を持つか否かに依存する。実際に両者を兼ね備えた医療者は限られており、第三者性や専門性のみで人選することは適切ではない。その意味で、院内事故調査委員の人選は限定され、第三者性の担保は困難であるという欠点がある反面、持続的な同僚評価に基づいた適正な委員の人選が可能であるという利点は大きい。
 今後第三者機関での評価が加わることにより、第三者性の検証も行われることになる。その結果、院内事故調査委員会の検討結果のみならず、当該施設での院内事故調査委員会自体の適格性及び自浄能力も検証されることになると考えられる。
 
支援組織としての大学病院の役割
 今後大学病院は、自施設における事故調査のみならず、他施設の事故調査に対する支援組織としての役割も求められている。他施設の重大事故を検証するには、自施設以上に迅速な事故抽出と記録、物品等の確保に基づく適切な同僚評価が重要となる。しかしながら医療安全業務は各医療機関にとって既に飽和状態にある。すべての医療施設を網羅した実効的な医療安全管理システムを構築するためには、医療事故のみでなく日常診療全般における連携体制の構築が不可欠であり、常に顔のみえる関係として信頼関係を構築することが先決であろう。大学病院は、地域医師会、基幹病院とともに有機的なネットワークを構築したうえで支援システムを提供するべきであり、愛知県では既存の「医師会医療安全支援センター」等の役割が期待されるところである。
 
おわりに
 医療事故調査制度の法制化に伴い、医療安全における大学病院の果たすべき役割も増大する。今後大学病院は、重大事故の抽出と同僚評価のシステムを確立するとともに、地域の有機的なネットワーク構築を介して支援システムを提供し、自浄作用による真の医療安全の確立に貢献すべきである。自浄的な医療安全という価値観を共有することで健全な医療のさらなる発展が期待される。

 
医療の安全に関する研究会 総会議事録
 

日 時 2015年6月27日(土)午後2時00分~4時40分
場 所 名城大学名駅サテライト(MSAT)会議室
出席者 以下のとおり14名、他に委任状38名
    島田康弘、加藤良夫、北野達也、齋藤悦子、酒井順哉、増田聖子、松葉和久、池田卓也、中田精三、杉浦伸一、土屋文人、土屋逸子、松山健、品田知子(敬称略)
 
議 題
1.決算の承認の件  齋藤常任理事より、別紙資料(平成26年度会計報告書等)にもとづき決算報告、品田知子監事の監査報告を受け、決算案を承認した。

2.予算の承認の件  増田常任理事より別紙「平成27年度予算案」提案。予備費が少額の点等について指摘がなされた。「研究大会費」が少ないこと等について意見交換がなされ、別紙のとおり予算案を修正(分科会補助費を5万円減額した上で、研究大会費として5万円を増額する修正)のうえ承認した。

3.研究大会の準備状況報告の件 別紙チラシ案に基づき、本年12月13日(日)午前9時30分からウインクあいち小ホールにて第20回研究大会が開かれること、大会のテーマは「医療事故調査と医療の安全を考える」であること、ならびにその準備状況が報告され、若干の意見交換がなされた。

4.次年度の研究大会(第21回)について 次年度も、大会長、テーマについて、本年度の大会を継続するものとする。

5.20年誌の出版について  松山理事が作業担当することとなった。
 
6.川柳集の出版について 選評、イラストの進捗状況が報告された。

7.その他  北野常任理事より、10月25日(日)ウインクあいち小会議室において、当会主催のプレシンポジウムとしてコーチングについて学習する企画が提案され、承認した。

 





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