医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.31
20111120 発行
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巻頭言
医療の安全に関する研究会
理事長 島田康弘

 皆様にはますますお元気で活躍中のことと存じます。第16回研究大会に際して巻頭言を申し上げます。
 第16回研究大会の大会長は愛知県立大学看護学部教授の藤原奈佳子先生です。先生は看護師の教育に携わってこられましたが、今回はこの視点で会を計画されています。場所は愛知県立大学の守山キャンパスです。
 大会のテーマは「医療の安全管理を考える~医療に安全と安心を」をあげておられます。大会長講演として「医療提供者と医療の受け手の立場から医療の安全を考える」を語られます。また特別講演として福岡市医師会立成人病センター院長の信友浩一先生による「医療の安全を患者は期待している?安心では!?」を持ってこられました。信友先生は前の九州大学で医療の安全について広く研究されてこられました。講演を期待しましょう。
 午前中の終わりには第9回本大会から実施しております医療の安全に関する川柳募集の優秀作品の紹介と表彰が行われます。今年は「入院に関する安全について」でありましたが1839通の応募がありました。川柳についてはじめからずっとみていただいているNHK学園の大木俊秀先生に、優秀作品のご紹介と楽しいご講評をお聞かせいただきます。
 今回は午後のすべてを使い、テーマ別討論が行われます。まず2つのテーマに分けられてそれぞれの講師から講演が行われます。テーマAは「医療空間の再考~医療安全を患者(利用者)の視点から考える~」を東京理科大学の郡裕美先生から講演していただきます。テーマBは「チーム医療とは何ですか?何ができるとよいですか?~エビデンスに基づいたチームトレーニング:チームSTEPPS~」を国立保健医療科学院の種田憲一郎先生から講演していただきます。フロアーのかたがたは2つの講演を聞いた後でテーマ別グループ討論に入る予定です。そして2つの討論を最終的に持ち寄って総合討論を行います。何か提言できるものができないかと期待しております。どうかフロアーの皆様の積極的なご意見をお聞かせください。
 皆様と12月3日に会場でお会いできるのを楽しみにしております。
 


 
医療の安全に関する研究会
第16回研究大会

「医療の安全管理を考える」
~医療に安全と安心を~

大会長
藤原奈佳子(愛知県立大学看護学部 教授)


 
 9:30  受付
      総合司会 増田聖子(増田法律事務所 弁護士)
10:00  開会の挨拶  
       島田康弘(医療の安全に関する研究会 理事長、名古屋大学 名誉教授)
10:05  大会長講演
     「医療提供者と医療の受け手の立場から医療の安全管理を考える」
       藤原奈佳子(愛知県立大学看護学部 教授)
       座長 堤 寛(藤田保健衛生大学医学部 教授)
10:35  特別講演
     「医療の安全を患者は期待している? 安心では!?」 
       信友浩一(福岡市医師会立成人病センター 院長)
       座長 酒井順哉(名城大学大学院都市情報学研究科 教授)
11:35  「医療の安全に関する川柳」 講評と表彰
        大木俊秀(NHK学園)
12:00  昼食休憩
13:10  テーマ別討論    
        司会 齋藤悦子(中京学院大学看護学部 教授)
13:10  テーマA
     「医療空間の再考~医療安全を患者(利用者)の視点から考える~」
        講師:郡 裕美(東京理科大学理工学部建築学科 講師、
                  スタジオ宙一級建築士事務所 主宰)
13:30   テーマB
     「チーム医療とは何ですか? 何ができるとよいですか?
      ~エビデンスに基づいたチームトレーニング:チームSTEPPS~」
        講師:種田憲一郎 (国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部
                    地域医療システム研究分野 上席主任研究官)
13:50  休憩
14:10  テーマ別グループ討論
        世話人(テーマA):藤原奈佳子、吉田嘉宏
         世話人(テーマB):齋藤悦子、北野達也
16:00  休憩
16:10  総合討論(各テーマのまとめ、および総合討論)
17:00  次期大会長挨拶
        加藤憲(愛知県医師会総合政策研究機構 主任研究員)
17:10  閉会の挨拶
        大会長 藤原奈佳子(愛知県立大学看護学部 教授)
18:20  懇親会


 
大会長講演 抄録
医療提供者と医療の受け手の立場から医療の安全管理を考える

愛知県立大学看護学部教授
藤原 奈佳子
【はじめに】
 これからの医療の基本的考え方について、厚生労働省は<医療の安心・信頼を確保するため、患者、国民の視点から、あるべき医療を実現すべく医療制度の構造改革を推進する>とした「医療制度改革大綱」を平成18年1月31日に公表した。患者の視点に立った安全・安心で質の高い医療体制の構築として、「医療情報の提供による適切な医療の選択の支援」、「医療機能の分化・連携の推進による切れ目のない医療の提供」そして、「在宅医療の充実による患者の生活の質 (QOL)の向上」の三本柱をあげている。そこでは主に医療が医療機関から地域、在宅療養へと継続して受けられるような場所の確保に焦点をあてた安全・安心の医療体制を推進しているが、これらは医療体制の構築を包括的に示しているものであり、個々の医療提供者と医療の受け手の視点からの言及はない。
 本稿ではまず医療提供者と医療の受け手の双方が受け止めている互いの関係を述べ、次に医療提供者の安全管理体制の実態について、安全と安心を区別した観点から医療の安全管理を考えてみたい。

【安全と安心】
 広辞苑によれば、「安全」は1.安らかで危険のないこと、2.物事が損傷したり、危害を受けたりするおそれのないこと、とあり、「安心」は心配・不安がなくて、心が安らぐこととある。インフォームドコンセントにおいて、X%で Yという危険性があると説明をするが、患者にとってはその危険性は0%か100%であり、自分がどちらに入るかということで Yという危険性に自分が陥ることへの不安を覚えることになる。また、説明をする側が相手の状況をいかに理解しているか、また双方の信頼関係の深さにより説明される者に生じる不安の程度も異なってくる。すなわち、「安全」は科学的に追求してゆくものであるが、「安心」は双方の信頼関係を含んだ結果として生じるのである。
 医療に関する情報が氾濫する現代社会では医療の受け手の期待感も様々である。医療の受け手の期待感を満たした安心できる医療を継続するためには双方の良好な信頼関係が欠かせない。安全は安心のために必須であるが、安心を得るためには相手への信頼も必要である。医療における信頼は「能力に対する期待」すなわち医療の受け手が関与している医療で期待されて当然という医療水準の保証と、さらに安定感をもたらす「相手への思いやり」から形成されるものであろう。

【医療提供者と医療の受け手の関係】
 医療における信頼関係について、医療法の第一条の二に「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。」とある。
 医師と患者との関係について、脊柱靱帯骨化症に関する調査研究班(厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業)の質問紙調査の研究成果を以下に紹介する。対象は医療機関に受診の頸椎疾患患者306名(男性212名、女性94名)およびこれらの患者の主治医であった。なお、頸椎疾患患者の診断病名は、後縦靱帯骨化症184名、頸椎症性脊髄症122名であった。患者の回答である<医師との関係>と医師の回答である<患者との関係>ともに回答があった231名について、医師が回答した<患者との関係>が「大変良好」と回答した116名のうち、患者が回答した<医師との関係>が「大変良好」が53名、「まあ良好」が38名、「普通」が22名、「あまり良くない」が2名、「悪い」が1名であった。医師が患者との関係を「大変良好」と考えている患者116名のうち、25名(21.6%)が<医師との関係>を「普通~悪い」と回答していた。特に医師が<患者との関係>が良好と思っているが、その患者は<医師との関係>をむしろ悪いと思っている場合の患者の特徴として、患者自身による日常生活評価で支障の程度が大きいこと、緊張・不安の状態であることなどが抽出された1)。
 この研究結果から、医療提供者と医療の受け手の互いの関係の感じ取り方に相違がないか常に医療提供者は気を配ることが必要であり、良質な医療を担保するためには、患者の日常生活での状況把握などが重要であることが示唆された。各医療職種のさらなる患者へのかかわりが必要となるであろう。
 医療提供者の医療の受け手への接近の様相は、その状況により、関わりの程度や方法は様々である。Virginia Avenel Henderson(1897-1996)は著述『看護の基本となるもの(Basic Principles Of Nursing Care)初版1961年』の中で<看護をする>ということは看護の対象となる人が何を欲しているかを知るために「その人の皮膚の内側に入る(to get inside the patient’ skin)」ことであると述べている。対象となる人の立場を考える、その人の身になるという一般的な表現よりさらに奥深く、強く印象に残る表現であり、医療提供者が医療の受け手に関わる際の心構えとなる名言である。

 In the Nature of Nursing Nurse role is,” to get inside the patient’ skin and supplement his strength will or knowledge according to his needs.”(Virginia Avenel Henderson)


【医療安全管理体制の実際】
 厚生労働省は、平成14年8月30日に「医療法施行規則の一部を改正する省令」で、病院、有床診療所における安全管理のための体制の確保に関する安全管理体制を義務としてとりあげた。その後、平成18年には医療法及び薬事法改正により医療安全の確保に関する法律上の規定を新設し、医療機関の管理者に医療安全確保(1.医療の安全を確保するための指針の策定、2.従業者に対する研修の実施、3.その他の当該病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置)を義務づけた。さらに平成18年4月の診療報酬改定では、医療機関において専従の医療安全管理者を配置していること等を要件とした医療安全対策加算を新設し、診療報酬の面からも医療安全対策の充実を伴う改正をおこなった。こうした法的な整備に対応して、医療機関に医療安全に関する部門の組織への組み込みが推進された。平成19年3月、厚生労働省は、「医療安全対策検討会議、医療安全管理者の質の向上に関する検討作業部会」において、医療安全管理者の役割を具体的に検討し、「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針-医療安全管理者の質の向上のために-」を各医療施設に周知した。しかしながら、その役割や位置づけは組織毎に異なり、実態は明らかではない。そこで、医療の安全に関する研究会の平成23年度研究助成を得て平成23年8月に全国の100床以上の病院2,440施設を対象に医療安全管理体制の実態と安全管理研修のあり方に関する質問紙調査を実施し、554施設から回答があった。結果の一部を以下に示す。
 1.医療安全管理責任者の配置は調査時(平成23年8月)で96.0%であるが、その配置された年は平成12年以降が大部分であり、平成14年には19.1%であった。その後、平成19年までに400-499床が86.8%、500床以上が94.8%となった。一方、100-199床では平成18年に43.9%、平成19年に57.9%、平成21年75.4%、平成22年に94.2%と最近数年の間に配置されたところが多かった(図)。
 平成11年の患者取り違えが契機となり、特に小規模病院では上述の法整備が院内の医療安全管理体制整備に拍車をかけていることがうかがえる。
 2.医療安全管理室は200床以上の病院では9割以上の病院で配置されているが、200床未満病院では約6割の配置であった。
 3.医療安全管理者の業務配分は全施設平均で「医療事故防止のための情報収集、分析、対策、立案、評価」が36.5%と最も多く、次いで「医療安全管理体制の構築」18.9%、「医療安全に関する職員への教育・研修」18.8%、「安全文化の醸成」16.3%、「医療事故への対応」13.9%であった。
 4.医療安全管理者の業務内容にクレーム対応がある施設は61.7%であった。

【おわりに】
 法律や指針などハード面での整備は医療安全の確保に大きく貢献するが、安全体制の整備だけでは不十分である。
 厚生労働省は、平成20年6月18日に「安心と希望の医療確保ビジョン」を発表し、医療のこれからの方向性として、<医療は医療従事者と患者・家族の両者の協働作業である>という視点から従来の「治す医療」だけではなく、病を抱えながら生活する患者と、その家族の生活を、医療を通じて支援してゆく「支える医療」、さらにこれらを包括した「治し支える医療」という観点からの施策の推進を述べている。
 医療提供者と医療の受け手の互いの信頼関係を良好に保つソフト面での心がけが医療の受け手への安心感をもたらすであろう。ともすると、「安全・安心」と安全と安心をひとくくりにして扱われることもあるが、「安全」は提供側から提供できても、「安心」は提供者と受け手の相互作用による結果であり、提供者が一方的に提供できるものではない。受け手の反応を提供者が感じ取り、より良い信頼関係を築き上げる努力を含めた双方向のやりとりが必要であろう。医療安全管理体制づくりは始まりであり、さらなる安心が得られるような工夫と努力が医療提供者や医療職種養成の教育者には求められよう。

1)藤原奈佳子、他.頸椎疾患患者の医師-患者関係に及ぼす要因分析.社会医学研究、2008、
26(1)、41-52.



 
特別講演 抄録
医療の安全を患者は期待している?安心では!?
福岡市医師会立成人病センター院長
信友 浩一
1.厚生省時代のエピソード(1988年)から
   医療事故の調査をしたい―>局長のコメント
    * 医療提供側の「安全」に対する基本的認識

2.医療の原点
  ①『症状』 ―> 診断 ―> 目標設定 ―> 治療
    =>診療;知性(サイエンス)・管理の世界
         安全性・有効性・効率性が問われる
   『症状』には必ず『不安』が伴う
  ②『不安』 ―> 察する―> 安心・一体感 
    =>診察;感性(アート)・共感の世界
         安心・共感・納得が問われる
3.対立する医療
   ① 診療という医師主体の医療
      病気モデル;対象は生[物的]命―>病人・病院
   ② 診察という患者参加の世界[患者主体の医療]
      生活モデル;対象は生活・人生―>患者・在宅

4.対立をどうにかするという政治と政策
   政治とは?
   政策とは?
 1)「医療評価および看護婦の役割認識における患者と看護婦の意見の相違に
関する実証分析」1991年
    患者さんが期待していることを医療提供者が感じ取れているか
 2)診療情報共有福岡宣言(2000年)
    我々は病気に伴う不安や死の恐怖を、先ず、共有します
 3)「ペイシェンツ・アイズ」2001年
    患者さんが医療に期待していること 
 4)医学会総会福岡宣言(2003年)
    納得の医療
 5)医療法改正(2006年)
    患者主体の医療、政策決定過程への関与

5.医療提供組織における選択
   院長ができる
   安全優先か安心優先か

 

 
テーマ別討論 抄録 テーマA 
医療空間の再考
-医療安全を患者(利用者)の視点から考える-
一級建築士 スタジオ宙一級建築士事務所主宰
東京理科大理工学部講師 日本建築家協会国際事業委員
郡 裕美
 「一部屋の中に長い間閉じこめられ、同じ壁や天井を毎日見て暮らすことで病人の神経がどんなに参ってしまうか。長煩いの病人で無ければ、とても想像がつかないでしょう。」
 ―フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書き」より―

はじめに
 医療空間について論じる前に、建築について少し話をしたい。
 建築には、シェルターとして外界から人間を守ったり、機能に従って効率よく作業を進める補助をしたりというハードな性能と、人間の心の動きやそこでの人間関係に大きな影響を与えるソフトの性能がある。ハード面は比較的わかりやすいので説明を省くが、ソフト面に関して少し説明をしたい。たとえば、人は、過ごす空間の違いによって気分が変わり、場合によっては体調までも変化する。快適な空間は人を幸せにし、心も体も健やかにする。一方、居心地の悪い部屋は人を不幸にし、時には病気を引き起こす。また、建築は、人間と社会の関係や、人間同士のコミュニケーションを調節したり、人間と自然が触れ合う機会を与えてくれたりする。
 建築は、その建設の目的に応じて求められる性能が違う。機能が変わればハードとソフトの内容とバランスが変わる。たとえば、工場などでは効率が最優先され、快適性のプライオリティーは低くなる。一方、住宅などでは機能性より快適性が重んじられる。
 それでは、医療建築に求められる性能は、どんなものだろう。

医療建築に求められる性能とは
 まず、医療建築の目的と機能について再確認したい。一言で表すと、その目的は、「人を癒す」こと。特筆すべき機能としては、「医療を施す」こと。つまり、医療建築は、大前提として「人を癒す」空間を提供しなければならないということだ。しかも、病院に来る人々は健康な人よりも心身ともに傷つきやすい状態にあり、普段より周りの環境に影響されやすくなっている。すなわち、医療空間は、一般の建築に比べて利用者のことをより深く考え、建築のソフト面をよく考慮した空間でなくてはならないということになる。
 しかし、実際は、先端技術を駆使した医療を提供するという機能を追求するばかりに、ハード面のみに主眼が置かれたバランスの悪い建築が多く見られる。窓ひとつない待合室で青白い蛍光灯の下、延々と診察を待っているうちに気が滅入ってしまった経験はだれでもあるだろう。私もそんな思いを持った患者のひとりである。もし、窓から心安らぐ景色が見えたなら、もし椅子の配置が違っていたら…、患者の視点をもう少し考慮してくれれば、既存の病院空間は大きく変わるのに、と思いながら医療施設を利用してきた。

医療施設と保養施設
 「人を癒す」という観点でみると、療養施設と保養施設は同じ目的を持つ建物であり、同種類のソフトの性能が求められるはずだが、それらはそれぞれ全く違う方向に進化してしまった。保養所は温泉旅館やリゾート施設として、人々に安らぎを与える豊かな建築空間へと大発展している一方、医療施設は、巨大な機械のような無味乾燥な建築が多い。私は、医療空間を考える時、快適性を追求する保養所の建築から学ぶことがたくさんあると思う。今回、建築設計者の立場、また一患者の立場から、数々の建築の事例を示しながら、医療空間に求められるソフトの性能について考えてみたい。

患者の目から見た医療建築に求められるソフトの性能

(1)アメニティのある医療空間
生活環境の快適さや楽しさがあり、人の心に安らぎと幸せを与える空間、つまり、アメニティを配慮した医療空間が求められている。そこでは、患者は気持ちよく時間を過ごすことができ、病院にいることの精神的負担が軽くなり、気分も前向きになって回復力も増すはずだ。アメニティを充実させるためのいくつかのチェックポイントを考えてみた。

①患者の視点で空間設計
立っている時、座っている時、車いすの時、ベッドに寝ている時、視線の高さや方向はそれぞれ違い、見える世界が全く変わる。患者の視線を考慮して、インテリア、照明計画を設計する必要がある。

②人間に優しいデザイン
オフィスビルのような、よそよそしいデザインではなく、普段着やパジャマでも気後れしない、人間に優しい素材やデザイン、ヒューマンスケールな空間が望まれる。入院患者にとっては、病院は住まいでもある。

③多様で変化に富んだ空間
小さな町のように変化にとんだコモンスペースがほしい。図書コーナー、カフェ、ギャラリーなど、日常生活の延長として、学んだり、語り合ったり、くつろいだりできる場、また、テラスや中庭など気軽に屋外に出られる場所もあると良い。

④心のサポート空間
患者は、大きな不安や精神的なストレスを抱えている場合が多い。そんな時、祈りや瞑想の為の空間や、心癒される風景のある場所があると救われる。

⑤アートと触れ合う場
絵画や彫刻など芸術に触れる場や、本や DVDを閲覧、貸し出しする図書コーナー、院内コンサートが開ける場所などがほしい。現状ではアートはエントランスロビー等の外来棟にあることが多く、病院のイメージアップ戦略に使われるに留まっているように思える。病棟部にも積極的にアートを取り入れたい。

⑥自然と触れ合う場
欧米では、Hospital Gardenを設けることにより、自然との触れ合いが患者の回復に寄与するという研究がされている。散策できる庭や緑の風景の他、環境共生型のパッシブデザインを取り入れた自然光、自然換気ができる病院設計が望まれる。

⑦ユニバーサルデザイン
手すりを設置すれば安全というマニュアル的な考えでなく、手をつきたいところにカウンターを設けるなど、使いやすく親しみやすいデザインが望まれる。また、壁とドアの色の対比で入口を示す、床の素材の柔らかさの違いで領域を示すなど、五感に訴えかけるスヌーズレンの設計手法を取り入れれば、誰でも空間把握がしやすくなる。

(2)良質なコミュニケーションを誘発する空間
建築は人々のコミュニケーションにも大きく作用する。なぜか話が弾む空間、気まずく緊張する空間、だれもそんな経験があるだろう。インテリアの雰囲気、家具の配置、照明、音の響きなど、建築の様々な要素が微妙に作用しあって、人のコミュニケーションは誘発されたり阻害されたりする。もし、患者と医療従事者の健全なコミュニケーションが生まれやすい空間が提供できれば、患者はもっと安心して医療を受けることができる。また、患者と家族がリラックスして語り合える場があれば、入院生活を送りながらも家族関係が崩れることなく暮らせる。そんな空間のしつらえについて考察したい。

①患者と医者のコミュニケーション空間
シビアな検査結果、診断を聞くのは精神的苦痛を伴う。緊張感を軽減する思いやりのある空間がほしい。診察室や検査結果の説明を受ける部屋は、プライバシーを守りながらも窓から外の景色が見えるなど、医者、患者、両者のストレスを軽減できる空間設計が望まれる。

②分散する談話コーナー
患者と家族、患者と見舞客が周りに気がねせず、気軽に話が出来る場所がほしい。大きな談話室が1つあるより、たとえば廊下にふくらみを持たせそこにソファを置くなど、個室でなくても良いので、複数の談話コーナーがあるのが望ましい。

③多様なコミュニケーション空間
入院患者が家族といっしょに食事ができるよう、簡単なキッチンがあるダイニングコーナー、ソファに座って一緒にくつろげるリビングコーナーなど、患者の多様な人間関係を支える空間があるとよい。

④多床室でのプライバシー
最近の多床室では、各患者がカーテンを閉めているケースが多く、廊下側の患者の空間は閉鎖的になりやすい。低い衝立や、半透明なカーテンの併用など、病室内のプライバシーコントロールの新しいデザインが望まれる。

⑤メディカルコンシェルジェ、相談窓口
プライバシーを保ちながら、気楽に相談できる窓口がほしい。利用者がリラックスできるようなアットホームな雰囲気が望ましい。電子メールや電話による予約や相談も併用し、利用しやすい仕組みが必要だ。

⑥インターネットを通じてのコミュニケーション
全館の無線WIFIサービスで、病室でもインターネットを使った情報検索、家族や社会とのスムーズな交流ができるとよい。

(3)多様なニーズに対応する空間
今後、医療のかたちはどんどん変化してゆくだろう。予防医学、通院治療センター、終末期医療、在宅ホスピスの発達で、町と病院の垣根は取り払われ、病院は地域と密接な関係を持っていくことになる。ここにあげた例の他にも、各医療施設の性格によって、また、その立地や地域の特性によって、それぞれ違った様々なニーズが今後も生まれてくると思う。患者や病院利用者の意見を聞きながら、ハード面、ソフト面両方の変化を受け入れる仕組みを作っていくことが大切だと思う。

①子供のための空間
子供が安全に遊べるキッズコーナーがほしい。
安全で快適な授乳コーナー、おむつ交換の場所も必要である。

②オフィスセンター
インターネット、コピー、プリントサービスが使えるオフィスセンターがあると良い。

③情報提供の為の空間
医療のインフォメーションセンター、予防医学や健康指導の教育センターもあるとよい。

④霊安室の空間配慮
昨今、病院で亡くなる人が増えている。亡くなった後も人間の尊厳を守るべく、霊安室の配置としつらえ、遺体、家族の動線などには、注意深い心配りが必要だ。

(4)医療従事者の働く環境にも配慮を
医療空間の改善を、患者が使う場所のみにとどめることなく建物全体に広げる必要がある。労働環境が改善されれば、そこで働く医療従事者のストレスは軽減され、コミュニケーションもスムーズに行われ、医療事故の減少にもつながるだろう。働く人の心の健康が保障されなければ、患者の安全は確保されない。昨年行ったある大学病院での医療空間の実状のリサーチを紹介しながら、医療従事者にとってのアメニティについても触れたい。

結び
 医療建築の設計は、通常、医療機関の経営者側からの委託で行われる。つまり、建築設計者は、経営側の経済性、効率性、機能性などを最重視しがちになる。また、医療の様々なニーズに応えながら医療従事者が使いやすい医療建築を設計するのは、それだけで既に難易度の高い業務であるため、ともすれば相反する患者からのニーズも満足させるのは、単独の設計者では至難の技だ。
 医療施設の新築や増改築に際して作られる建設準備委員会に、住宅や集合住宅など居住環境の設計を専門とする建築設計者を利用者の代弁者として迎え入れたらどうだろうか。図面を読んで空間を把握できる設計者が参加すれば、医療環境を作る課程で、利用者の視点を考慮した、より具体的な提案をすることができると思う。
 前時代的な「病院らしさ」を抜け出して、明るくて気持ちの良い空間を提供できれば、医療建築は情報発信や教育活動も含む、地域の新しいコミュニティーの拠点になっていくだろう。
 患者が健康を取り戻し、心身ともに癒される、安心で安全な医療空間の実現の為に、建築家であり一患者である私の視点が役立つことを願う。
 

 
テーマ別討論 抄録 テーマB
チーム医療とは何ですか?何ができるとよいですか?
-エビデンスに基づいたチームトレーニング:チームSTEPPS-
国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部
地域システム研究分野上席主任研究官
種田 憲一郎.
チーム医療の重要性は近年とくに強調され、その推進のために多くの取り組みが行われている。しかしながら、多くの場合、多職種の医療人が集まって「グループ」「集団」を作ることのみが強調されているように感じている。個々の医療人の知識と技術が十分に活かされて、真の「チーム」として最大のパフォーマンスが発揮されるためには、何ができるとよいのだろうか。またその際にチームとしての訓練なしに、他の医療人とともにベストの「チーム医療」を患者に提供することができるのだろうか。チームトレーニングの必要性が、多くの医療事故によって示唆されている。米国の JCAHO(現在の Joint Commission)によると、1995年~ 2005年の間に報告された3400件余りの事故の根本原因のほとんどがコミュニケーションをはじめとするチームワークの課題であることが指摘されている。
 米国科学アカデミーの IOM(米国医学院)から1999年に出された報告書では、航空業界の CRMの概念を応用した多職種によるチームトレーニングの必要性が既に言及されている。そして DOD(米国国防総省)の研究助成によって、1995年ごろから研究がすすめられ、2005年に AHRQ(米国医療研究品質局)の協力のもと、チームワーク・システム“チーム STEPPS(チームステップス) ”が開発された。これは先の CRMや軍隊におけるチームワークの研究をはじめとした HRO S(High-Reliability Organization:高信頼性組織)の20年余りにわたるエビデンスに基づいて開発されたプログラムである。
 “チーム STEPPS”とは、「Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety」の略で、医療の質・患者安全向上のためのチームワーク・システムである。“チームSTEPPS”では、チーム医療の実践に必要な4つのコンピテンシー(顕在化能力、業績直結能力)を掲げている:「リーダーシップ」「状況モニター」「相互支援」「コミュニケーション」。(図)。
チームコンピテンシーのアウトカム:
  知識
   -メンタルモデルの共有
  態度
   -相互の信頼
   -チーム志向
  パフォーマンス
   -適応性
   -正確性
   -生産性
   -有効性
   -安全性
         図 チームコンピテンシーの枠組みとアウトカム
 

これらのコンピテンシーは個々に独立したものでなく相互に強く関連し合っている。医療チームのメンバーがこれら4つのコンピテンシーを実践することで、「知識」「態度」「パフォーマンス」の3つの側面からアウトカムが得られる。即ち「知識」として患者ケアにかかわる状況に関して共通理解が得られ(メンタルモデルの共有)、「態度」として相互の信頼とチーム志向が生まれ、そして最終的に、適応性・正確性・生産性・有効性・安全性の面から、チームの「パフォーマンス」が向上するとされている。チームに求められる4つのコンピテンシーに期待される「行動とスキル」「ツールと戦略」を表で示す。

チームとしてのスキルは生来、皆が持っているものではない。したがって学ばなければ実践できない。限られた医療人だけが経験に基づいてチーム医療を実践できるのではなく、医療に関わる全ての人たちが、チームとして協働するために必要なコンピテンシーを体系的に学び、実践することが期待されている。そしてチームSTEPPSの最終的に目指す患者安全文化(患者の安全を最優先する)が醸成されたとき、患者にとって安全な組織であるだけでなく、そこで働く全てのスタッフにとっても安心して働ける職場ではないだろうか。チームSTEPPSの成果として看護職の離職率の低下なども報告されている。



 

 医療の安全に関する「川柳」公募 入賞作品決定
第八回テーマ「入院に関する安全」
 医療の安全に関する研究会では、医療の安全に関する関心を高め、会の広報などに使用することを目的に医療の安全に関する川柳を一般から広く募集することを企画しました。
 第八回の今回は「入院に関する安全」をテーマとして募集したところ全国から一八〇〇通を超える応募があり、NHK学園の大木俊秀先生に選考を依頼して、四〇作品を選出していただきました。
 この候補作品の中から常任理事会において最優秀作品を決定しました。一二月三日の研究大会で選者の大木俊秀先生から選考の経過や作品の選評発表をいただきます。

●最優秀賞句
看護師が走るのを見てベル押せず  大阪府吹田市  高橋節子
 
●ノミネート作品 
付き添いの女房ついでに診てもらい  福岡県 濱 常治
寂しくてナースコールを押しちゃった  愛知県 八木 航
病室の窓から見えるネオン街     佐賀県 原峻一郎
同部屋の猛者(もさ)は時々酒臭し      東京都 黒岩勇一
景色よし食事バツグン医師も良し   千葉県 青島忠治
同室にとても元気な人がいる     鳥取県 門脇かずお
一つ家(や)に医師(せんせい)と寝る頼もしさ     東京都 小畑和裕
看護師がお帰りという三回目     新潟県 荒井千代子
入院と言われ内心ホッとする     三重県 松井喜四郎
夜中でも天使は羽を休めない     京都府 福井敦男
入院で病人らしくなってゆく       東京都 上條直子
入院は神さまからのロスタイム    埼玉県 鈴木良二
人生の冬休みよと子に言われ     三重県 森 芳生
入院で妻からは自由になれる     兵庫県 石垣長司
即入院拒否権持てぬ承諾書      鳥取県 山根茂雄
病床で手足鍛える心意気       大阪府 問屋啓二郎
隣床の人去り秋の虫の声       千葉県 斉藤 進
入院もたまにはええとうちの母    島根県 角森玲子
足の怪我病室同志メール打ち     埼玉県 金丸芳子
検査だと言われ入院もう二十日    滋賀県 本田秀雄
居心地が家よりいいと長居する    大阪府 上野浩子
安静を美人の看護師が乱す      東京都 武藤喜明
ナースより世話してくれる部屋の主  茨城県 山田嘉隆
入院の食事でメタボ治せそう     北海道 西谷 勲
回診で会うだけなんてさびしいワ   静岡県 大場由美子
入院のわけは知らないご本人     広島県 常國喜好
ドク・ナース素敵退院延ばしたい   神奈川県 藤井 学
退院が決まって医師の素っ気無さ   千葉県 梶 政幸
退院といわれたとたん熱を出し    東京都 下津輝八洲
頑固さは完治せぬまま退院す     愛知県 松永智文
退院の広きロビーで抱く吾子      佐賀県 東家芳寛
入院で技量審査をする患者       北海道 穂苅 敏
アラフォーの勝負下着は入院用    大阪府 原戸美都子
六人部屋プライバシーは何もない   愛知県 伊藤弘子
相方の具合気になる二人部屋     奈良県 林 貞行
お隣の病名を知る医者の声      神奈川県 阿部 浩
入院早々ベッドから落ち骨を折り   大阪府 亀川富雄
入院費まずは心配我が身より     茨城県 大山浩明
退院の会計票に偏頭痛         新潟県 橋立英樹

 
 
医療の安全に関する研究会 理事会議事録
日 時 2011年6月11日(土)午後1時30分~2時45分
場 所 名城大学名駅サテライト(MSAT)会議室
出席者 14名、委任状9名
  島田康弘、加藤良夫、齋藤悦子、酒井順哉、堤寛、増田聖子、松葉和久、吉田嘉宏、
  池田卓也、稲垣克巳、加藤憲、品田知子、藤原奈佳子、寺町教詞(敬称略)

議題
1.決算の承認
 齋藤常任理事より資料(平成22年度会計報告書等)にもとづき決算報告、寺町監事より監査報告を受け承認した。
2.予算の承認
 増田常任理事より資料(平成23年度予算案)にもとづき提案、承認した。
3.研究大会の準備状況報告
 藤原理事(大会長)より資料(企画案)について報告をうけ、当日の役割分担等を決定した。
4.来年の研究大会(第17回)について
 次期大会長としては、加藤憲理事に決定した。

 
医療の安全に関する研究会 総会議事録
日 時 2011年6月11日(土)午後2時45分~3時
場 所 名城大学名駅サテライト(MSAT)会議室
出席者 14名、委任状55名
  島田康弘、加藤良夫、齋藤悦子、酒井順哉、堤寛、増田聖子、松葉和久、吉田嘉宏、
  池田卓也、稲垣克巳、加藤憲、品田知子、藤原奈佳子、寺町教詞(敬称略)

議題
1.決算の承   齋藤常任理事より資料(平成22年度会計報告書等)にもとづき決算報告、寺町監事より監査報告を受け承認した。
2.予算の承認
 増田常任理事より資料(平成23年度予算案)にもとづき提案、承認した。
3.研究大会の準備状況報告
 藤原理事(大会長)より資料(企画案)について報告をうけ、当日の役割分担等を報告した。
4.来年の研究大会(第17回)について
 次期大会長としては、加藤憲理事に決定した。





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