医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.30
(2010.11.25発行)
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巻頭言
医療の安全に関する研究会
理事長 島田康弘
 皆様にはますますお元気でご活躍中のことと存じます。第15回研究大会のご案内とお誘いを申し上げます。
 第15回研究大会は大会長が星城大学教授の北野達也先生です。北野さんは、医療事故やリスクマネジメントなどを中心に活躍なさっている人です。場所は星城大学のキャンパス内で行われます。
 大会のテーマは「医療安全を捉え直す」で副題として「医療事故ゼロを目指して」をあげておられます。大会長講演として主題の「医療安全を捉え直す」を語られます。また特別講演として東北大学大学院教授の関田康慶先生による「医療安全のための効率的な計量分析」がなされます。
 午前中の終わりには第9回本大会から実施しております医療の安全に関する川柳募集の優秀作品の紹介と表彰が行われます。今年は2374通のご応募がありました。第9回からずっとみていただいているNHK学園の大木俊秀氏に、優秀作品のご紹介と楽しいご講評をお聞かせいただきます。
 本大会では昼食時間を使い、初めての試みである展示・模擬訓練あるいは医療機器装着体験など実際に自分で試してみる場所を提供なさっていることが特徴です。うまくいけばいいと考えています。出席者の皆様のお力添えが必要です。
 そして、午後の時間をすべて使いシンポジウム「医療事故ゼロを目指して」を行う予定です。今年は行政、医療者、医療機器メーカーなど多くの方々から意見をいただく予定です。そしてこのことを、大会長は、この研究大会で、とくに、市民の方々と一緒に再認識し、医療事故ゼロを目指してどのような仕組みが我が国に必要なのかということを議論したいと思ってこのシンポジウムを企画されました。医療事故ゼロを目指すことはすべての人々が望むことですが、いまだに実現されていません。どうかフロアの皆様の積極的なご意見をおきかせください。
 皆様と12月4日に星城大学でお会いできるのを楽しみにしております。    
 

 
医療の安全に関する研究会
第15回研究大会


テーマ「医療安全を捉え直す」
~医療事故ゼロを目指して~


大会長 北野達也(星城大学 経営学部 医療マネジメントコース主任・教授)

 
日 時:2009年12月12日(土) 10:00−17:00

場 所:南山大学 名古屋キャンパス B棟3階 B31教室
     (名古屋市昭和区山里町18 TEL.052-832-3111)

              <プログラム>
日 時:2010年12月4日(土曜日)10:00~17:00
会 場:星城大学4号館3階  東海市富貴ノ台2丁目172番地 ℡(052)601‐6000
参加費:一般 3,000円、会員 2,000円、学生 1,000円

どなたでも参加できます。郵便振替(口座番号:00870-7-104540 名義:医療の安全に関する研究会)にて参加費をお振り込みください。「参加証」をお送りします。当日参加も可能ですが、できるだけ事前申し込みをお願いします。

〈プログラム〉

09:30   受付
 
     総合司会:齋藤悦子(中京学院大学看護学部 教授)
 
10:00   開会の挨拶
     島田康弘(研究会理事長、名古屋大学名誉教授)
 
10:05  大会長講演 「医療安全を捉え直す」 
     講師:北野 達也(星城大学 経営学部 医療マネジメントコース主任・教授)
     座長:酒井 順哉(名城大学大学院都市情報学研究科 教授)
 
10:30  特別講演「医療安全のための効率的な計量分析」  
     講師:関田 康慶(東北大学大学院経済学研究科医療福祉講座
         医療福祉システム分野 教授
     座長:松葉 和久(名城大学薬学部 特任教授)
 
11:15  「医療の安全に関する川柳」 講評と表彰
     講評:大木俊秀(NHK学園)
 
11:30~13:55 *昼食休憩*
     展示・模擬訓練装置、医療機器装着体験、クイズ形式スタンプラリー
 
14:00~16:00
     シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」
     司会:増田 聖子(弁護士) 北野 達也
 
  1. 「安易なRST(呼吸サポートチーム)にもの申す!」  
     尾崎孝平(神戸百年記念病院 麻酔集中治療部 部長) 
 
  2.「行政からの提言」
     青木郁香(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 安全第一部
     医療機器安全課 主任専門員) 
 
  3. 「医療経営管理学研究者からの提言」
     河野 美絵(名古屋大学大学院 医学系研究科 健康社会医学専攻
     医療経営管理学 医学博士課程)
 
  4. 「医療安全管理者からの提言~医療安全への市民参加~」
     増田 伊佐世(特定医療法人沖縄徳州会 榛原総合病院
     外来看護師長・医療安全管理者)
 
  5. 「日常生活行動と転倒・転落事故防止策」
     山田 和政(星城大学 リハビリテーション学部 リハビリテーション学科
     理学療法学専攻 専攻長 教授)
 
  6. 「医療機器製造販売業 医療機器安全管理情報担当者からの提言」   
     近藤 俊雄(日本光電工業株式会社 品質管理統括部 安全管理部
     医療機器安全管理実施責任者)
 
16:00 総合討論
 
16:40 次期大会長挨拶
     藤原 奈佳子(愛知県立大学看護学部・大学院看護学研究科
     看護管理学 教授)
 
16:50 閉会の挨拶
     大会長 北野達也

 

 
大会長講演 抄録
医療安全を捉え直す~医療事故ゼロを目指して~

星城大学 経営学部 健康マネジメント系 医療マネジメントコース主任・教授
北野達也
【医療安全対策加算(入院初日) : 平成22年度診療報酬改定2010.4.1~】
 1.医療安全対策加算1  85点    2.医療安全対策加算2  35点
注1 別に厚生労働大臣が定める組織的な医療安全対策に係る施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者(第1節の入院基本料(特別入院基本料等を除く。)第3節の特定入院料又は第4節の短期滞在手術基本料のうち、医療安全対策加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、当該基準に係る区分に従い、入院初日に限りそれぞれ所定点数に加算する。
 2 組織的な感染防止対策に係る別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者については、感染防止対策加算として、更に所定点数に100点を加算する。
(1)医療安全対策加算の施設基準
 イ.医療安全対策加算1の施設基準
  ①医療安全対策に係る研修を受けた専従の薬剤師、看護師等が医療安全管理者として配置されていること。
  ②当該保険医療機関内に医療安全管理部門を設置し、組織的に医療安全対策を実施する体制が整備されていること。
  ③当該保険医療機関内に患者相談窓口を設置していること。
 ロ.医療安全対策加算2の施設基準
  ①医療安全対策に係る研修を受けた専任の薬剤師、看護師等が医療安全管理者として配置されていること。
  ②当該保険医療機関内に医療安全管理部門を設置し、組織的に医療安全対策を実施する体制が整備されていること。
  ③当該保険医療機関内に患者相談窓口を設置していること。
【医療安全管理体制再構築のための課題】 
 医療安全・医療の質の向上の取り組みについては、各部署、各業務のマニュアルを作成、配布することでなく、各施設の院内スタッフ全員に周知されることが前提であり、各々のマニュアルに基づき実践されなければ何の意味もなされません。
 度々報道される医療事故は如何にして発生したのか・・・各施設における院内安全管理体制のあり方について疑問が残ります。ここでは医療安全管理体制構築のための新たな取り組み、問題解決の手法などについて述べようと思います。
 医療安全対策加算を算定している施設(発送数1073施設、有効回答数640施設:有効回答率59.6%)を対象に実施した「医療安全管理対策の実施状況調査報告書(診療報酬改定結果に係る特別調査平成19年度調査)」によれば、医療安全管理者(専従)配置人数で1人配置は全体の89.1%(n=640)であり、病床規模の大小によるものの、同時多発事例対応、医療安全管理者不在時対応、院内24時間対応のための3クール体制など、適正人数配置が急務です。
【医療安全・医療の質向上のための医療専門職育成のあり方】   
① 医療従事者養成校卒後2年の臨床研修義務化、実地試験の義務化、資格更新制導入。
  (医療人育成研修、シミュレーション教育など)
② 最低限3専門分野:臨床経験の必要性、各分野3年以上臨床経験を踏まえたローテーションが好ましい。
③ 医療安全管理者現任者研修制度のあり方検討、適正配置などの問題点解決。
  「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針」→問題提起
厚生労働省医療安全対策検討会議、医療安全管理者の質の向上に関する検討作業部会作成(平成19年3月)
④ 医療安全管理者及び医療事故調査官(仮称)北野 など高度医療専門職養成校の設置→急務!
⑤ インシデント・アクシデント事例収集および分析手法の再検討。課題解決→特別講演へ。
⑥ 養成校、職能団体・学会・研究会、現場による三位一体の教育改革など。
【今後の展望】
 院内において、組織横断的に取り組むことのできる調整役 / 交渉役(Coordinator/Negotiator)、である高度医療専門職としての医療安全管理者、院内感染対策管理者、医療事故調査官、院内評価調査者(surveyor)などの人材育成が急務であり、また、構成員である医療関係者一人一人がCooperator(協同行動者)北野 となるべく、さらなる患者安全向上のための第一人者になることを願っています。これらの取り組みが結果として、各医療機関において患者本位で安全で安楽な質の高い医療提供の一端を担うものと考えております。
【終わりに】
 医療従事者は患者の方々にとって安全で安楽な質の高い医療を継続的に提供し続けなければならず、当然のことながらそれらを行う使命があります。
 今一度、“誰のための医療機関で、誰のための医療で、誰のための行政であるのか?”を自問自答され、患者本位の安全管理体制構築のさらなる重要性が認識されることを願っております。
“Ask not what your profession can do for you,
              ask what you can do for your patients.”
                    - John.F.Kennedy -(Changed by T.Kitano)
   「あなた方の職業があなた方に何をもたらすかを問うのではなく、
            あなた方が患者さんのために何ができるかを問いなさい。」
             を私の最後の言葉とします。    E-mail:onatik@k6.dion.ne.jp

【医療安全管理体制構築のための継続的手法】

現状把握⇒問題提起⇒改善策提案⇒全体周知⇒実行⇒再評価

「医療環境教育学」星城大学経営学部健康マネジメント系医療マネジメントコース(北野)・テキストより抜粋

最悪の事態を想定し、最善の処置を行なえること! (By T.Kitano,2003)

 

 
特別講演 抄録
医療安全のための効率的な計量分析
東北大学大学院経済学研究科 医療福祉講座 医療福祉システム分野 教授
関田康慶
 病院の医療安全管理の現状分析と解決すべき主要課題、既存の管理方法や分析方法論の限界、新しい効果的・効率的医療安全管理の方法論等について述べる。
(1)病院医療安全管理の解決すべき主要課題
   ・病院の安全管理水準をどのように正確に把握できるか
   ・安全管理水準を客観的にモニタリングする方法は何か
   ・インシデント・アクシデントを減らす効果的・効率的方法は何か
   ・インシデント・アクシデントを減らす対策効果をどのように把握・測定できるか
   ・安全管理の病院体制はどうあるべきか
(2)既存の安全管理体制・方法や分析方法の限界
   ・インシデント・アクシデントが減っているという確認が難しい
   ・安全管理体制が、リスクの多いプロセスを把握するのが難しい
   ・安全管理情報が文章表現の場合が多く、集合的・計量的分析が困難
   ・インシデント・アクシデントの分析は単純集計が多く、複雑な要因把握が困難
   ・個別ケース要因分析手法のRCA、4M4E、SHEL等は医療と異なる別領域開発の方法論で、多くの時間を要するわりには分析による安全対策効果が弱い
   ・病院管理体制が、職員の意識向上を重点化している傾向にあり、計量的分析や効果的効率的対策が弱体
(3)新しい安全管理方法論の考え方
   開発している新しい安全管理方法の特徴は次のとおり。
   ・個別ケースの分析でなく、集合的にリスク分析をおこない、リスクの高いプロセスを発見し、リスクの高いプロセスを効率的にブロックする
   ・レベル別インシデント・アクシデント数を計量的視覚的に把握し、安全管理水準を容易に把握できる
   ・安全管理対策の効果を、計量的・視覚的、数値で把握できる
(4)新しい安全管理方法論
 ① リスクパス分析:レベル別インシデント・アクシデントを集合して、7W2H2Eの視点から分析表を作成し、ハイリスクパスを発見し、新たな対策を選択する
 ② 累積関数分析:レベル別インシデント・アクシデント数を計量的・視覚的・数値的に把握できるモニタリング関数(累積関数)を用いて、安全管理水準の把握や、安全管理対策の計量的効果を発見する
 ③ 分布関数分析:インシデント・アクシデントレベルの構成割合を把握して、安全管理対策の効果を、平均安全レベルの指標で数値評価する
 

 
シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」 抄録1
安易なRST普及にもの申す!
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部
尾崎孝平
 RST(Respiratory Care Support Team:呼吸ケアチーム)は、一般的に院内の呼吸療法の指導的な役割を果たすことを目的に設置されているように思われる。とくに集中治療室などの特殊ユニット以外で実施される人工呼吸管理、いわゆる「病棟人工呼吸」について、RST が呼吸管理全般について指導を行っている場合が多い。RST が発足して危険な事象の回避に効果があったとする報告が最近2~3年で急増し、基幹病院のみならず多くの病院で RST が設置されるようになってきた。さらに、RST は医師・看護師・臨床工学技士のみならず、理学療法士、栄養士、事務職など多くの職種をスタッフに加え、ICU さながらの包括的な呼吸管理を可能にするように進化しつつある。
 しかし、RST を普及・充実させることは、はたして人工呼吸管理中の事故を本当に減らすのであろうか? 長期的にみて RST はむしろコスメティックな安全管理を助長する可能性があるのではないかと危惧する。なぜならば、人工呼吸中の事故を防止するための最善策は、本学会が「人工呼吸器安全使用のための指針」で提唱するように、集中治療室もしくはそれに準じる場所で実施することである。したがって、この方針を最終的なゴールとして安全対策を組み上げていくべきであるが、RST が出張 ICU の役割を果たし、病棟呼吸管理を安易に是認する方針は、将来的に好ましくない安全対策であると考える。私達は最終的に目指す対策は「集中治療室もしくはそれに準じる場所で実施することである」と再度明言し、そのための施策を講じるべきであると考える。
 一方、病棟における現行の人工呼吸中管理は呼吸療法に習熟しないスタッフが実施しているために危険に満ちており、RST はこの点で大きな貢献をしていることも事実である。しかしながら、その基本的な問題点をそのままに RST だけを充実していくことには問題がある。たとえば、RSTに専従スタッフを確保している施設はほとんど無く、兼任業務で回診する形態でサポートしているために、RST の業務は必然的にアドバイス的なものが多くなり、不慣れな病棟スタッフにはむしろ負担となっている場合がある。また、RST は24時間体制では病棟人工呼吸をサポートできないために、実質業務とくに夜間帯の人工呼吸管理は結局病棟スタッフが実践することになる。RST普及の影にピットホールが存在することを指摘したい。
 したがって、RST は呼吸管理の指導的な役割を果たすことを本来の目的に据えるべきである。すなわち、教育プログラムを企画して院内全体のレベルを向上させるとともに、呼吸不全に陥りそうになっている患者を早期発見し、呼吸管理上のリスクの発掘に寄与すべきであると考える。

 

 
シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」 抄録2
行政からの提言~医療機器の安全使用のために~
(独) 医薬品医療機器総合機構 安全第一部 医療機器安全課
青木郁香.
 近年、医療事故は社会問題化しており、医療安全は病院経営の最も重要な課題となっている。医療機器の安全使用にあたっては、その特性を念頭におくべきである。その種類は非常に多く、メス・ピンセットや注射器から人工呼吸器、植込み型心臓ペースメーカ、人工関節、CT ・ MRI 装置など多種多様であり、これらを使用する医療従事者も医師、看護師、臨床工学技士、臨床検査技師、診療放射線技師などと幅が広い。
 我々、(独) 医薬品医療機器総合機構では、医療機器の市販後安全対策として、医療機器関連企業や医療機関から報告された不具合(薬事法第77条の4の2)やヒヤリ・ハット((財) 日本医療機能評価機構による医療事故情報収集等事業)などの事例について評価・分析を行い、学会や職能団体、業界団体、人間工学の専門家などの意見を聴取した上で安全対策を立案して厚生労働省に報告している。その分析結果から、医療機器の不具合やヒヤリ・ハットなどの原因は、医療機器自体とそれを提供する企業の問題、使用者や医療機関の問題、患者の病態により避けられない有害事象に大別できると考えている。まず、医療機器自体の問題として、設計不良や製造不良、破損や故障、機能の複雑化・高度化などがあり、それらに加え、企業から使用者に対して製品の取り扱い方法などについて適切に情報が伝達されないことも原因となりうる。次に、使用者や医療機関に由来するものとして、ひとつに使用者の知識・技術不足があげられる。医師や看護師などの卒前教育において医療機器について学ぶ機会は非常に少なく、臨床現場の業務の中で習得していくのが現状であり、その使用頻度により習熟度に差が生じる。また、医療機関での管理上の問題として、使用期間や耐用年数を超えた製品の使用や保守・点検の不足や未実施がある。さらに、使用環境や設置環境として、施設の電気・ガス設備の整備は当然であるが、医療機器を用いた患者管理に対する人員配置も影響を及ぼす。
 このように、医療機器では医薬品と異なり、それらを用いる使用者の技量、日頃の保守・点検などが不具合やヒヤリ・ハットなどに大きく影響することは特筆すべきことである。したがって、医療機関において医療機器を安全に使用するためには、①診療内容に適す機種の選定・購入、②使用者への教育・訓練の実施と正しい使用、③使用する環境の整備、④保守・点検の計画的な実施、⑤安全使用に関する情報管理が重要となる。
 本シンポジウムでは、医療機器の不具合やヒヤリ・ハットなどの具体例をあげ、安全使用するために、医療機関、企業、行政が、それぞれの立場でなすべきことについて考えてみたい。
 

 
シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」 抄録3
医療経営管理学研究者からの提言
~医療安全を維持するための医療経営管理~
名古屋大学大学院医学系研究科 健康社会医学専攻 医療経営管理学 
医学博士課程
河野美絵
 近年、ニュースなどで医療事故について報道されることが少なくありません。そして、医療経営管理の中でも医療安全の確保は重要な課題です。そして、医療者側だけではなく、患者さんやその家族、国民全体が「医療事故ゼロ」を願い、それが当然であると考えています。医療事故防止、医療安全の確保のために、医療機関の管理者は何ができるのか、何をすべきなのでしょうか。
 医療安全を確保・維持するための医療経営管理について考えてみたいと思います。医療事故をゼロにする、つまり医療安全を確保すると言い変えることができるでしょう。それでは、医療安全を確保するためにはどうすればよいのでしょうか? 医療安全を確保するためには、医療機関のハード面、ソフト面の両方での対策が必要になります。しかしながら、医療機関のハード面、ソフト面で医療事故を完全に防止するための整備をすることは困難であるのが現実です。ハード面を見てみれば、病院が老朽化している、病室の入り口や廊下が狭いなどの医療事故のリスクが存在しています。ソフト面でみても、医師や看護師などの医療者の不足や診療や投薬などの医療行為におけるシステム体系の不備、組織の未熟さなどが挙げられるでしょう。だからといって、「医療事故が起こるのは仕方がない」「医療事故をゼロにすることは無理だ」と言いたいのではありません。現実問題として、ハード面を整備するには、やはりコストがかかってしまいます。昨今の病院経営の厳しさから簡単に実施できないことは想像できるかと思います。さらに、ソフト面でも医師や看護師不足は多くの医療機関が抱えている問題です。また、医療従事者の人員を確保できても、それぞれの職種での連携が取れていなければチームとしてのパフォーマンスは低下しますし、組織が未熟であればなおさらヒューマンエラーのリスクが潜んでいます。これらの課題に対処するためには病院経営者や管理者の運営管理が重要なカギを握っているのです。
 例えば、「コスト削減」です。昨今の厳しい病院経営の困難さからコスト削減を行うことが少なくありません。確かに無駄なものは削減すべきでしょうが、本来必要な「医療安全」に関連することまでコスト削減すべきではありません。病院経営者や管理者はそれらを十分に見極めることが大切なのです。
 本シンポジウムでは、これらのことを踏まえて医療経営管理学の視点から「医療事故ゼロ」にするための提言をさせていただきたいと思います。 

 
  
シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」 抄録4
患者・市民の医療参加
~患者・医療者間のコミュニケーション・ギャップを埋めるために~

特定医療法人沖縄徳洲会 榛原総合病院 医療安全管理者
増田伊佐世
 医療安全管理者として、①医療事故を防止するための体制の整備や対策立案 ②職員の医療安全教育 ③医療事故発生時の対応、調査および検証 ④医療安全に関わる患者対応等の役割を、3年あまり担ってきた。その中で、徐々にウエイトが大きくなってきたのが、④の医療安全に関わる患者対応である。
 医療者側に過失のある、いわゆる医療過誤の場合はもちろんのこと、説明が足りないために患者・家族に不信感を与えてしまった事例や、苦情から医療者に対する暴力に発展してしまった事例などにも、医療安全管理者として関わってきた。当初は、患者・家族の話を伺うことで精いっぱいで、自らが医療者であるために医療者側の代弁者となってしまうことも多かった。患者・家族の立場に近づくにはどうしたらいいのか、そんな悩みの中で出会ったのが、「医療コンフリクト・マネジメント=メディエーション」である。
 コンフリクトとは、紛争、心の葛藤や価値観のずれと訳されるが、医療におけるコンフリクト・マネジメントでは、「医療事故という不幸な出来事をめぐって患者側、医療者側双方に生じた感情的混乱や関係不信、生活環境の変化などさまざまな問題を、訴訟のように敵対的・限定的にではなく、対話を通してできる限り協働的かつ柔軟に解決していこうとする考え方」であるとされている。医療訴訟は患者と医療者双方の医療に対する認識の隔たりにより起こることが多い。患者の多くは「医療は安全で万能だ」と考えており、医療者の多くは「医療は危険で不完全だ」と考えている。患者から「治らなかったのは医療ミスではないか」と疑念をもたれることも時にはある。医師の多忙による説明不足や、わかりにくい医療用語の使用などもその原因となる。
 そのような患者の疑問や不信の解決のために、院内医療メディエーター(医療対話促進者)の育成が急がれている。メディエーターは当事者間の対話を促進する橋渡し役として、対話が協調的になるように配慮しながら両当事者の共存可能な根本的なニーズを引き出す役割を持つ。訴訟では患者と医療者の位置は対決的な構図となり、患者側のニーズである真相の究明や誠意ある謝罪は得られない。訴訟に至る前に患者、医療者双方が話し合いのテーブルにつき、互いに「逃げない、隠さない、ごまかさない」態度で臨むことで真のニーズに気づくことができる。
 とはいえ、医療事故(過失の有無を問わず)の発生そのものをゼロに近づけるためには、発生後の対話だけではこと足りない。今年度は、グループ病院全体で取り組んでいる地域住民への医療講演を活用し、医療安全の話をさせていただいている。人間が関わる以上、医療にも絶対の安全はないこと、医療事故防止のためには患者にも医療チームの一員として協力していただく必要があることを啓蒙している。結果が表れるまでには時間を要すると思われるが、地道な活動として報告させていただく。
 
 
シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」 抄録5
日常生活行動と転倒・転落事故防止策
星城大学リハビリテーション学部
山田和政
 高齢者の「転倒・転落事故」が社会の大きな問題(関心事)となって久しい。多くの病院や高齢者関連施設では、転倒・転落リスクマネジメント委員会を立ち上げ、様々な防止対策が取られている。
 防止対策は、『職員一人一人の転倒・転落事故防止に対する意識付けと見守りの徹底・継続』が基本である。そのため、転倒・転落歴や心身機能状態、薬物服用の有無等の項目からなる転倒・転落リスクアセスメントが広く一般に取り入れられており、ハイリスク、ローリスク者の抽出と、それに応じた見守りが行われている。また、見守りを補助する監視策として、離床センサーマットや座コールマットをはじめとする転倒・転落防止関連機器が、必要に応じて導入・活用されている。
 しかし、現場では、日々、多忙な業務に追われ、転倒・転落事故防止に対する意識が薄れ、見守りが徹底して行えていないのが現状ではないだろうか。まさしく「言うは易く行うは難し」である。
 これまでに我々は、本学関連施設の特別養護老人ホームにおいて、多忙な業務の中で、職員が無理なく「見守りの機会」を増やすための方策を考案し、それに取り組んできた。その結果、見守り回数が増加し、転倒・転落事故発生件数が減少するとともに、職員の転倒・転落防止に対する意識も向上した。
 また、日中に限らず、夜間の転倒・転落事故も多い。このことは必ずしも“夜間であっても眠っているとは限らない”ということを意味している。そのため、職員数の少ない夜勤帯において、より「効率的な見守り」を行うには、誰を、どの時間帯に(どのタイミングで)見守りを行えば良いのか、具体的に把握できれば良いのではないかと考える。そこで、現在、同施設入居者の夜間の日常生活行動の調査・把握を進めている。
 果たして、日常生活行動を把握することで転倒・転落事故発生件数を減少させることは出来るのか、これまでの取り組みを含めてお話しさせて頂く予定である。
 
 
シンポジウム「医療事故ゼロを目指して」 抄録6
医療機器製造販売業 医療機器安全管理情報担当者からの提言
日本光電工業㈱ 品質管理統括部 安全管理部 安全管理情報担当
近藤俊雄
 お世話になります。
 私は、日本光電工業株式会社の安全管理情報担当近藤と申します。
 現在、全国16名の担当により施設様訪問は、継続しておりますが、メーカーの安全管理担当者って(?)と、余り知られていないようなので簡単な説明をさせていただきます。
 平成16年に発出されました GVP 省令にて、医療機器製造販売業、医薬品製造販売業は、社内に、医療機器(医薬品)安全情報担当者の設置が義務付けられました。
 自社製品について、薬事法の管理項目である、安全性、有効性、品質が、市場の適正使用の上で維持されているかを、特に安全性の面から情報の収集と提供をする担当者です。
 業務は、安全性情報の収集と提供、提案と短い言葉でありますが多くの内容を含みます。
 平成19年には、改正医療法により、各施設様が我々製造販売業者に積極的に情報提供を求めるようになりました。
 その表れとして、平成21年度の1年間に東海三県担当である、私近藤の施設様での安全講習会の実施件数は、年間118件、総受講者数は、7,300人に達しております。
 私ども、日本光電工業株式会社は、生体情報モニターを主力製品として販売しています。モニターは、バイタルサインの変化を医療従事者にお知らせするという重要な役割を担っていますが、そのような私どもへ持ち込まれる相談、質問も多岐にわたります。
 そこから見えてくる、もう一超えの提案をさせていただこうと考えます。
 
   第一に、情報収集と分配のシステムが院内で構築がされているか?
   第二に、情報共有のシステムが院内に構築されているか?
   第三に、安全維持システムが身近に必要だとの考えが徹底されているか?
   
 ほとんどの施設様にあって、それらは、今さらと言いたくなる領域だと思いますが、今後のもう一越えを担う大きな要因であると考えます。
 


 医療の安全に関する「川柳」公募 入賞作品決定
第七回テーマ「検査」
  医療の安全に関する研究会では、医療の安全に関する関心を高め、会の広報などに使用することを目的に医療の安全に関する川柳を一般から広く募集することを企画しました。
  第七回の今回は「検査」をテーマとして募集したところ全国から二千通を超える応募があり、NHK学園の大木俊秀先生に選考を依頼して、四〇作品を選出していただきました。
  この候補作品の中から常任理事会において最優秀作品を決定しました。一二月四日の研究大会で選者の大木俊秀先生から選考の経過や作品の選評発表をいただきます。

●最優秀賞句
検査値に出ない不調は放っとかれ    埼玉県ふじみ野市   梶田美保

●ノミネート作品
一年に一度身体の声を聞く       神奈川県  菊地恵子
健康でないと耐えられない検査     新潟県   橋立英樹
検査日が決まり具合が悪くなり     群馬県   佐藤三郎
この前と同じ検査をまたするの     佐賀県   原峻一郎
医者任せなんの検査かわからない    大阪府   北川康宏
検査値は医師からもらう通信簿     鹿児島県  畠中道子
バリウムは年に一度の罰ゲーム     千葉県   前原貴正
正常値車で言えば車検パス       東京都   鈴木 保
ご老体検査器具見てあとずさり     三重県   小林秀夫
新機器に萎びた乳房引っぱられ     福岡県   大澤幸子
検査終え点滴うけるほど疲れ      宮城県   樫山昭章
検査して寝ていた病気目を覚まし    三重県   上田公美彦
結果よりお金が気にかかる検査     奈良県   田村靖彦
あと何本わたし貧血なんやけど     石川県   小間井一美
いたくない検査になにか物足りず    東京都   木内美紀
まず検査あれもこれものお品書き    東京都   宮川和久
病人の気分にさせる検査室       北海道   松田佳子
数値より身体を看てよ触ってよ     東京都   加藤義男
検査漬け終ったあとは薬漬け      東京都   小川喜洋
渡された検査結果は他人のもの     千葉県   後藤直美
尿検査あふれるほどはいりません    愛媛県   黒川きよし
その検査要か不要かまず検査      静岡県   満川恒朗
どの検査受けるべきかをまず仕分け   愛知県   猪口和則
セカンドの医院で又も検査漬け     奈良県   森本征司
心臓が飛び出しそうな脳検査      徳島県   長谷英子
ほうれん草食べてためた血また取られ  愛知県   斉藤健正
手術前検査検査でダウンする      兵庫県   石田るみ子
手術より検査のほうが命がけ      千葉県   上中直樹
数値見てわからぬままの異状なし    埼玉県   木村幸代
異常なし異常なしこそ要注意      大分県   宮津健一
症状があるのに検査みんなパス     群馬県   宮下自由
この数値でこんなに元気医者怪訝    埼玉県   内田順裕
胃カメラにリアルタイムで脅かされ   神奈川県  杉井 弘
血糖値メタボ亭主を監視する      福岡県   濱 常治
年一度妻と仲良くドック入り      新潟県   神田雪子
検査前優等生のくらしする       静岡県   森 照子
採血のあとのメニューは豪華版     群馬県   常見三吉
検査後は五臓六腑で酒を飲む      北海道   佐藤文浩
正常値見て笑みかわす医者患者     北海道   飛塚 優


 
 
医療の安全に関する研究会 理事会議事録
日 時 平成22年6月12日 13時から
場 所 名城大学名駅サテライト
出席者 島田康弘 加藤良夫 松葉和久 吉田嘉弘 齋藤悦子 増田聖子
    稲垣克巳 江場康雄 天野 寛 加藤 憲 藤原奈佳子
    委任状出席  堤  寛 芦澤直文 池田卓也 篠崎良勝 鈴木俊夫 出元明美
           藤原祥裕 山内桂子 酒井順哉 北野達也
定足数を満たしていることを確認

1 齋藤常任理事から決算報告 
  監査報告書のとおり監査報告
  異議なく承認する
2 増田常任理事から予算案提案
  異議なく承認する
3 役員改選
  島田理事長から別紙のとおり役員案を提案
  異議なく承認する
 
医療の安全に関する研究会 総会議事録
日 時 平成22年6月12日 13時30分から
場 所 名城大学名駅サテライト
出席者 島田康弘 加藤良夫 松葉和久 吉田嘉弘 齋藤悦子 酒井順哉 増田聖子
    稲垣克巳 江場康雄 天野 寛 加藤 憲 藤原奈佳子 北野達也   
    委任状出席  66名 
定足数を満たしていることを確認

1~3 理事会に同じ
4 研究大会の準備状況
  北野大会長から別紙チラシ案に従って、準備状況を説明
   同じフロアーの2階に食堂があり、利用が可能となる
   2時間半スタンプラリーをして、数をあつめると商品がもらえるようにする
   内視鏡操作のシミュレーションを可能とする 整理券を配るか検討中
   食堂にポスター掲示をする(学生を中心、プレゼンテーションはなしとする)
   4階に講師控え室、理事会会場とする
   尾崎医師も承諾済み:人工呼吸器管理を中心にして
   青木先生、河野先生は、臨床工学技師出身
   星城大の山田先生は、理学療法士
   オリンパスに依頼して、内視鏡による腸管穿孔防止についての取り組みを予定
   学生だけで75名以上が参加する予定 450名の会場
  議論のうえ、北野大会長に、チラシ案の方向で、さらに検討をいただき、一任することとなった。
5 来年の大会長について
  藤原奈佳子先生にお願いすることとした。
   医療安全管理者のあり方を中心に大会のテーマをご検討いただく

平成22年度 医療の安全に関する研究会 役員

理事長   島田 康弘  名古屋大学名誉教授、日本聴能言語福祉学院 学科長
常任理事
・事務局長 加藤 良夫  南山大学法科大学院 教授、弁護士
常任理事 北野 達也  星城大学経営学部 医療マネジメントコース主任・教授
       齋藤 悦子  中京学院大学看護学部 教授
       酒井 順哉  名城大学大学院都市情報学研究科 保健医療情報学 教授
       堤   寛  藤田保健衛生大学医学部第一病理学 教授
       増田 聖子  増田法律事務所 弁護士
       松葉 和久  名城大学薬学部 特任教授
       吉田 嘉宏  医療を良くする会 代表世話人
理事    芦澤 直文  前横浜逓信病院 院長
       天野  寛  愛知県医師会総合政策研究機構
       池田 卓也  医療法人淀井病院 顧問
       稲垣 克巳  「克彦の青春を返して」著者
       江場 康雄  株式会社エバ 代表取締役
       加藤  憲  愛知県医師会総合政策研究機構 主席研究員
       品田 知子  元富士通名古屋支店健康相談室 保健師
       篠崎 良勝  八戸大学人間健康学部 准教授
       鈴木 俊夫  鈴木歯科医院 院長
       出元 明美  陣痛促進剤による被害を考える会 代表
       藤原 奈佳子 愛知県立大学看護学部 教授
       藤原 祥裕  愛知医科大学 教授
       山内 桂子  東京海上日動メディカルサービス株式会社 主席研究員
監事    多田  元  南山大学法科大学院 教授、弁護士
       寺町 教詞  東海医療科学専門学校 非常勤講師




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