医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.29
(2009.10.1発行)
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巻頭言
医療の安全に関する研究会
理事長 島田康弘
皆様にはますますお元気でご活躍中のことと存じます。第14 回研究大会のご案内と巻頭言を申し上げます。
第14 回研究大会は大会長が弁護士の増田聖子先生です。増田さんは、医療事故と患者の人権問題を専門とする弁護士です。場所は南山大学のキャンパス内で行われます。
大会のテーマは「医療事故を医療の安全につなげるために」で副題は「医療の安全のための多角的アプローチ」です。大会長講演として主題の「医療事故を医療の安全につなげるために」を語られます。また特別講演として本会の常任理事であられる松葉和久先生による「薬物療法の安全へのアプローチ」がなされます。
午前中の終わりには第9 回本大会から実施しております医療の安全に関する川柳募集の優秀作品の紹介と表彰が行われます。今年は2380 通のご応募がありました。第9 回からずっとみていただいているNHK 学園の大木俊秀氏に、楽しいご講評をお聞かせいただきます。
本大会は午後の時間をすべて使いシンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」を行う予定です。今年は大会長からモデル事例としてサクシンとサクシゾンの取り違え(サクシンは筋弛緩薬でサクシゾンは副腎皮質ホルモン)を中心に8 人の演者による発表と討論が行われます。
医療事故は最終行為者(たとえば看護師)が罰せられることで一件落着されることが多いのですが、そうすると同じ過ちが繰り返されることが知られています。では、どうしたら、同種事故の再発防止、ひいては、広く医療の安全につながることができるのでしょうか。そのことを、大会長は、この研究大会で、皆様と一緒に再認識し、医療事故を医療の安全につなげるためには、どのような仕組みが我が国に必要なのかということを議論したいと思ってこのシンポジウムを企画されました。私は、医療事故がおきたとき、最終行為者だけでなくその周りのことも広く調査し、結論を出すばかりではなく、その結果がうまくいっているかどうかも広く検証していく必要があると思います。大会長は、そのための仕組みが、院内事故調査委員会とこれを補完するための医療安全調査委員会制度だと考えています。このようなことを考えていくにはモデル事例があったほうがずっと具体的だと思います。どうかフロアの皆様の積極的なご意見をおきかせください。
皆様と12 月12 日に南山大学でお会いできるのを楽しみにしております。
 

 
医療の安全に関する研究会
第14回研究大会


テーマ「医療事故を医療の安全につなげるために」

大会長 増田 聖子 (増田法律事務所 弁護士)
 
日 時:2009年12月12日(土) 10:00−17:00

場 所:南山大学 名古屋キャンパス B棟3階 B31教室
     (名古屋市昭和区山里町18 TEL.052-832-3111)

              <プログラム>
9:30  受付
     総合司会 品田知子(元富士通名古屋支店健康相談室 保健師)

10:00 開会の挨拶 島田 康弘 理事長(名古屋大学名誉教授)
10:05 大会長講演「医療事故を医療の安全につなげるために」
       増田 聖子(弁護士)
       座長 天野 寛(愛知新城大谷大学社会福祉学部教授)
10:30 特別講演「薬物療法の安全へのアプローチ」
       松葉 和久(名城大学薬学部特任教授)
       座長 酒井 順哉(名城大学大学院都市情報学研究科教授)

11:15  「医療の安全に関する川柳」講評と表彰
     大木 俊秀(NHK学園)

11:30 昼食休憩

12:30 シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」
     司会 吉田 嘉宏(医療を良くする会代表) 増田 聖子
      1)安全管理に関わる医師の立場からのアプローチ
       長尾 能雅(京都大学医学部附属病院医療安全管理室長)
      2)病理医の立場からのアプローチ
       堤   寛(藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授)
      3)看護の立場からのアプローチ
        齋藤 悦子(元共立女子短期大学教授)
      4)臨床工学技士の立場からのアプローチ
        北野 達也(星城大学大学院教授)
      5)患者の立場からのアプローチ
        稲垣 克巳(「克彦の青春を返して」著者)
      6)心理学の立場からのアプローチ
        山内 桂子(東京海上日動メディカルサービス株式会社)
      7)専門ジャーナリストの立場からのアプローチ
        後藤 克幸(中部日本放送、医療ジャーナリスト)
      8)法律家の立場からのアプローチ
        加藤 良夫(南山大学法科大学院教授)
16:15 総合討論

16:45 次期大会長挨拶 北野 達也
16:55 閉会の挨拶 大会長 増田 聖子

 

 
大会長講演 抄録
医療事故を医療の安全につなげるために

弁護士
増田 聖子
1 みんなの願い
1) 医療事故に遭った人々の願い
弁護士になったころから、医療事故に遭った患者さんやご家族からの相談を受けてきました。
みなさん口々に、どうしてこのような事故がおきたのか知りたい、二度と同じ事故がおきないようにして欲しいと願っておられます。また、近年、心ならずも医療事故に関与してしまった医師や看護師さんらのお話しを聞く機会も増えてきました。どなたも、同じように、どうしてこんな事故がおきたのか、もう二度と同じような事故は起こしたくないとお話しになります。
 
2) 市民の願い
現在、生老病死、その全てに医療がかかわっています。医療と無関係に人生を送る方はほとんどないといってよいでしょう。その医療が安全であってほしいと、みなさんが願っているのではないでしょうか。
 
3) みんなの願い
そうしますと、不幸にして医療事故が発生してしまったとき、その事故を医療の安全につなげることこそが、みんなの願いではないのかと思われてなりません。
 
2 同じような事故の繰り返し
ところが、これまで、我が国では、同じような事故が、日本のあちらこちらでくり返されてきました。1999 年1 月に発生した横浜市大の患者取り違え事故、あるいは、昨年11 月に発生した薬剤の取り違え事故など、枚挙にいとまがありません。
なぜ、同じような事故がくり返されているのでしょうか。
それは、長年、医療事故が「なかったもの」として、覆い隠されてきたからではないでしょうか。また、仮に、医療事故が明らかになっても、ともすれば、誰かひとりのせいにしてしまい、医療事故の経過を検証して、原因を正しく分析して、その事故原因を解消するという取組みをしてこなかったからではないでしょうか。あるいは、仮に、事故が発生した病院内では、再発防止の教訓を導き出したとしても、これが広く、他の病院や医師らに知らされていないからではないでしょうか。
 
3 医療事故を医療の安全につなげるために
不幸にして発生してしまった医療事故を、医療の安全につなげるためには、どうしたらよいでしょうか。
本シンポジウムでは、このことを、多くのみなさんと一緒に考え、議論したいと思っています。具体的なイメージをつかんでいただき、議論をわかりやすくするために、モデル事故例を呈示します(本ニューズレター6 頁に掲載)。
みなさんは、この事例を、どう分析し、どのように再発防止をし、どのようにしたら、医療の安全につながると考えられますか?
 
4 院内事故調査委員会、医療安全調査委員会制度
数年前から、重大な医療事故が発生したとき、その事故が発生した医療機関において、事故の経過を検証し、原因を分析して、再発防止策をたてるという院内事故調査委員会を組織する病院がみられるようになりました。しかしながら、院内事故調査委員会の設置など、具体的な事故調査の仕組みは法律上義務づけられておらず、どのような組織で、どのように事故調査をすすめるかは、なお、模索が続いています(下記に、現在の医療安全に関係する法令を記載します)。2007 年11 月、当研究会の特別研究班が、医療機関における医療事故調査委員会のあり方ガイドを明らかにしました(当研究会HP 参照)。2008 年10 月には、日本弁護士連合会第51回人権擁護大会第2 分科会実行委員会が、院内事故調査ガイドラインを明らかにしています(日弁連HP 参照、「安全で質の高い医療を実現するために」あけび書房から出版)。2008 年から、厚生労働科学研究補助金事業として、診療関連死調査人材育成班が研究を進めています。
また、厚生労働省は、2008 年6 月、第三者による事故調査の組織、いわば、医療版の事故調査委員会として、医療安全調査委員会(仮称)設置法案(大綱案)を提案しています(次頁参照:厚生労働省HP 参照)。
これらの組織が、医療事故を医療の安全につなげる役割を果たすことができるのか、その役割を果たすためには何か必要なのか、議論をすすめられたらと思います。
 
5 一緒に事故に立ち向かいたい (私の考え)
医療事故の被害を受けた患者さんやご家族の深い悲しみや苦しみや怒りや嘆きは、容易に解消されることはありません。しかし、患者さんやご家族と医師ら医療者が、ときには市民も一緒に、被害を受けた患者さんの何より大切な命や身体を思いながら、真剣に事故に立ち向かい、事故防止への取り組みをすることができたら、少しは、その悲しみや苦しみを癒すことにつながるのではないでしょうか。それが、医療の安全につながり、患者、市民の医療に対する信頼の回復、維持、向上にもつながるのではないでしょうか。悲惨で不幸な事故が、さらに、不幸を生まないために、一緒に事故に立ち向かいたい、その仕組みとそれを支えるための意識改革が必要であると思っています。
 
<医療安全に関係する法令>(一部)
医療法 第6 条の10
病院、診療所又は助産所の管理者は、厚生労働省令で定めるところにより、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置を講じなければならない。
 
医療法施行規則 第1 条の11
病院等の管理者は、法第6 条の10 の規程に基づき、次に掲げる安全管理のための体制を確保しなければならない(ただし、第2 号については、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所及び入所施設を有する助産所に限る)。
一 医療に係る安全管理のための指針を整備すること
二 医療に係る安全管理のための委員会を開催すること
三 医療に係る安全管理のための職員研修を実施すること
四 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること

良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の一部の施行について(平成19 年3 月30 日医政局長通知)
第2 医療の安全に関する事項
1 医療の安全を確保するための措置について
(2)医療に係る安全管理のための委員会
(中略)医療に係る安全管理のための委員会とは、当該病院等における安全管理の体制の確保及び推進のために設けるものであり、次に掲げる基準を満たす必要があること(中略)
③重大な問題が発生した場合は、速やかに発生の原因を分析し、改善策の立案及び実施並びに従業者への周知を図ること
(4)当該病院等における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策
(中略)以下のようなものとすること。(中略)
③重大な事故の発生時には、速やかに管理者へ報告すること。また、改善策については、背景要因及び根本原因を分析し検討された効果的な再発防止策等を含むものであること。(以下略)
 
 
<医療安全調査委員会(仮称)の模式図:厚生労働省HPから>

 

< モデル事例 >
南山太郎さんは、70 歳の男性で、肺炎と胸膜炎で入院していましたが、まもなく退院できる状態となり、2 人暮らしの妻花子さんも安心していたところでした。
12 月11 日、午後9 時過ぎ、太郎さんに、突然39.4 度の発熱があったため、A看護師が当直のB医師に連絡して、B医師が診察した結果、高熱のため解熱剤を処方することとなりました。
しかしながら太郎さんには、通常の解熱鎮痛剤を投与すると、重症の喘息発作をきたすアスピリン喘息があるため、B医師は、解熱消炎作用もある副腎皮質ホルモン剤を点滴で投与する方針としました。
そこで、B医師は、副腎皮質ホルモンの一つであるサクシゾンを、電子カルテから処方しようと考え、3 文字入力のサクシと入力したところ、この病院にはサクシゾンが備えられていないため、画面にはサクシンの1 剤のみがヒットしました。B医師は、これがサクシゾンであると思い処方してしまいました。B医師は、この病院に転勤してきて、まだ、一月でありました。
この処方をみたC薬剤師は、薬剤の量は通常の使用量を逸脱していないと判断し調剤を行いました。
D看護師が薬剤部に薬液を取りに行き、C薬剤師から受け取りました。
投与を実施することになったE看護師は、アンプルを見て筋弛緩剤であることに気づき、B医師に、「サクシンってどれくらいの時間かけて投与したらいいんですか?」と尋ねたところ、サクシゾンと聞こえたB医師は、「15 から20 分かけて」と指示しました。午後9 時40 分ころ、E看護師は、指示された方法で、太郎さんにサクシンの投与を実施しました。その後、太郎さんの病室を尋ねたA看護師は、「呼吸平静。入眠中。」とカルテに記載しました。
午後11 時45 分に、A看護師が病室を訪問したときには、太郎さんは、意識がなく呼吸停止状態でした。直ちに他の看護師を呼んで、心臓マッサージを開始するとともに、B医師に、「サクシンを投与して意識がなく呼吸も停止しているようなんです。」
と連絡しました。B医師は、投与された薬剤がサクシンであることに驚き、太郎さんのもとに駆けつけて、看護師らとともに心臓マッサージを続け、気管内挿管し、心肺蘇生のためボスミン等の薬剤を投与するなどの救急蘇生措置をしました。
連絡を受けた花子さんが太郎さんの病室に到着されたとき、B医師は、投薬間違により心肺停止した可能性が高いと説明しました。
心臓マッサージを続けられましたが、翌12 日午前1時45 分に、太郎さんの死亡が確認されました。
 
*サクシン(現販売名 スキサメトニウム)
  筋弛緩薬
  気管内挿管時、骨折脱臼整復時、麻酔時などの筋弛緩に適応されます
 
 

 
特別講演 抄録
薬物療法の安全へのアプローチ
名城大学薬学部特任教授
松葉 和久
 2009 年6 月24 日に日本医療機能評価機構がホームページで発表した資料によれば、全国約550の事故報告対象医療機関から、同機構が報告を受けた患者を取り違えたことなどによる医療事故は、2 年半(2006 年10 月から今年3 月まで)に59 例あったとし、患者への障害の事例はほとんどなかったが、発生原因別にみて、そのうちの4 割は薬剤関連のミスであったと述べている。この薬剤関連事故の原因としては、患者の名前を「声出し」によって確認しなかったことなどによる「思い込み」や、スタッフ1 人で患者3 人の処置を行うなどの超繁忙な医療現場の状態によるケアレスミス誘発であった。よく似た名前の患者に間違って与薬したり、また、薬剤をセットしたトレーに注射器を複数置いたために取り違えて処置したなどの事例などがあった。これら薬剤過誤の発見者は、医療スタッフのほかに、患者やその家族らである場合が多かったと述べている。
 筆者による薬剤事故の報道事例からみた薬剤事故に関する考察でも、家族など患者付添者による発見例が高い頻度で見られた。また、報道事例では、高齢者の被害者が多い傾向にあったが、被害者となる確率としては小児が圧倒的に高く、この種の事故に対して特に留意すべき事柄でもあった。日本医療機能評価機構は、これらの上記事故に対して「医療現場では患者の状況に応じて業務内容が刻々と変化し、状況の確認が不十分と考えられ、過去の事故を風化させず、緊張感の維持が課題である。」とコメントしている。
 薬剤に関する事故の多くの発生原因は、油断、ケアレスミスにある。認知科学的にはいわゆるうっかりミス(Slip スリップ)、また作業中断によってなすべき行為が脱落してしまうなど、繁忙な職場ゆえに起きてしまう「度忘れによるミス」、Lapse もある。研修による自己研鑽、すなわちメタ認知機能を高めることでこれらの作業改善がなされる。作業マニュアルを無視したり、意図を理解しないがためにミスを誘発してしまうミスや、がん薬物療法のレジメンの理解・知識不足から処置を誤まる例、チーム医療の連携プレー不全によるミスなどはMistake というカテゴリーに分類される。これら三種類の過誤誘発原因を取り除く努力と、過誤発生を予防して防止するFail-Safe 機能を備えることによって医療事故発生を抑える努力が今日、医療現場では積極的になされている。
 一般に医療事故への世間の関心の高まりは、1999 年11 月にIOM が44,000-98,000 人の患者が医療事故によって死亡していると報告して以来だが、薬剤師の調剤過誤の現状認識と作業改善については、すでに1967 年に学会誌(上野高正他、調剤エラーに関する研究、薬剤学27,66(1967))に報告されている。米国でも1977 年には薬剤師会初任者研修An APhA Teaching Manual forPharmacists“the right drug to the right patient.”APhA (1977))で組織的に過誤を誘発する薬剤をLook-alike, Sound-alike に分類して、新人薬剤師に注意を喚起しているのであるが・・・
 

 
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録1
医療事故を調査するということ
京都大学医学部附属病院 医療安全管理室
長尾 能雅
 近年“医療事故を調査する”という概念が特に大規模医療機関、中核病院などを中心に広がりを見せている。医療行為を行えば過失の有無に関係なく一定の頻度で患者に有害事象が発生することは明らかであり、医療者も患者も程度の差はあろうが医療の限界を理解している。しかし医療界にはその業務が抱えるリスクや不確実性、患者との関係の悪化や社会的ペナルティに対する警戒感などが作用し、事故に対する積極的な自己検証と丁寧な説明の場を生み出しにくい土壌が存在した。真相究明を求め多くの医療紛争が司法の場に持ち込まれたが、司法はその量刑は果たすものの、事故を許した背景要因まで掘り下げて分析することを目的としない。医療界における根本的な再発防止の取り組みは遅々として進まず、不幸にして同種事故は繰り返された。医療事故調査とは、これらの問題点を踏まえ、発生した事実を正確に知りたい患者側と正確に説明したい医療者側、さらに再発防止を願う双方の期待を担い、複雑な問題を孕みながらも制度化を視野に入れて構築されつつある新しいシステムであるといえる。
 医療事故調査の目的は大きく三点に集約される。第一は発生した医療事故について多角的な検証を行うことでより正確な事実を明らかにし、患者、患者遺族、施設長などに提供することである。医療は不確実な要素が含まれるため、一つの事象に対して複数の解釈や推測が可能となる。
 まずは出来事を丁寧に検証し正確な事実関係を整理することが重要であり、これが不十分であればその後どの様な解決を試みても意義が乏しい。第二はできうる限り事故の発生原因、及び背景に存在する組織的要因等を究明し、技術水準、教育体制や管理体制なども含めた問題点が明らかになった場合はそれを指摘し、再発防止に向けた改善策を提示することである。これには同種専門家による自浄的な検証と同時に、第三者的な客観性・公平性を確保する必要がある。第三は再発防止策も含めた調査結果を継続的に蓄積し、広く共有することで医療の透明性を確保し、単一施設内のみに留まらない医療界全体を上げた改善活動と質の向上に役立てることである。
 京大病院ではこの数年院内の有害事象抽出に努めた結果、事故調査件数が著増した。特に医師からのインシデント・アクシデント報告には専門性の高い事象が多く含まれ、その増加は専門家による事例検証の機会を増加させた。事故は多様でありその調査も多様であるが、どの様な事故にどの様な調査体制が適切かは不明の部分が多く、課題である。少なくとも重大医療事故は、発生時から医療機関に組織的エラーが存在した可能性があると推認される事例とそれがよくわからない事例とに分けられ、その検証には多少異なるアプローチが必要になる。事故調査の制度化を考えた場合、限られたリソースで質の高い調査を行うにはどの様な工夫が必要なのか、当院での経験を提示しながら考察したい。また厚生労働省の研究班で議論されている院内事故調査のフレームワークについて紹介する。
 

 
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録2
病理医の立場からのアプローチ

藤田保健衛生大学医学部病理学
堤 寛 Yutaka Tsutsumi, M.D.
 肺炎のため入院中で、アスピリン喘息の既往歴のある70 歳男性の高熱に対して、当直医は副腎皮質ステロイド剤の「サクシゾン」のつもりで、筋弛緩剤の「サクシン」を処方してしまった。
その結果、患者は呼吸筋麻痺で死亡した。
病理医として、このとても残念な事例から学ぶべき点を考えてみたい。
 
1.当直医はこの病院の常勤医ではなかったのではないだろうか。その病院に常備されていない薬を処方しようとした点にまず疑問が残る。当直医が、紛らわしい(しかも間違えると重大事故につながる)薬剤名の存在を認識していなかった責任は少なくない。
 
2.電子カルテから危険な薬剤を簡単に入力できてしまう点も直ちに改善すべきである。筋弛緩剤「サクシン」の処方に当たっては、人工呼吸器管理下の患者に対してしか処方できないようにする、また、麻酔科など熟練した医師にしか処方できないようにする制限をかけるべきである。
 
3.処方を受けた薬剤師が、患者の病名や患者の状況を真剣に参照すれば、調剤する前に大きな疑問が生じたはずである。薬剤師こそ、この時点で当直医によるサクシンとサクシゾンの勘違いを見抜いてほしかった。
 
4.看護師も、筋弛緩剤を点滴するとどうなるのか、筋弛緩剤とはどのような薬剤なのかを知っていてほしかった。当直医に、薬剤の量でなく、「本当に筋弛緩剤を点滴していいのですか?」と問い合わせていれば、この事故は防げたかも知れない。
 
5.薬剤師も看護師も、結果的に、医師の指示に盲目的に従ってしまっている。この「非対等感」を何とかできないものだろうか?薬剤師や看護師のプロフェッショナリティーが十分確立しているとは言い難い点がとても残念である。
 
6.死亡後に病理解剖がなされたかどうかが明確でない。されなかったとすると、とても残念なことである。死因究明のために解剖することの意義は少なくない(そもそも、処方のきっかけとなった高熱の原因を追求することができる)。従来、モデル事業を中心として、医療関連死に対する死因究明制度のあり方が議論されてきたが、現在、白紙に戻った状況である。“死者にも優しい医療制度”を一刻も早く確立したい。
 
7.医療関連死症例を解剖によって死因究明する場合、病理解剖がもっとも適切である。その場合、解剖費用の公費(国費)捻出、解剖医の人材確保(リクルート)、就職先の確保といった大きな国家的課題が残る。民主党新政権の施策に大いに期待したい。その場合、死因究明制度を医療関連死といった厚生労働省管轄の分野に限定することなく、わが国で年間15 万人に及ぶ不審死全体をカバーできる新制度の創設が望ましい。そこでは、病理医、法医医師、放射線科医が協力して死因究明に努力できることが望まれる。現時点では、解剖医のマンパワーが圧倒的に不足しているため、オートプシーイメージング(AI)の応用を含めた実現可能な「形」が模索されるとよいだろう。
 

 
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録3
看護職の立場からのアプローチ

元共立女子短期大学教授
齋藤 悦子
はじめに
 医療実践の場においては患者の「安全」を確保することが最優先であり、それを保証することは看護の原則であり義務である。
 不幸にして事故がおこった場合、看護職者は被害者およびその家族に対し誠意をもって最善の対処をすることは看護の理念である人権尊重に基づく行為となる。さらに専門職として何故事故がおきてしまったのかその背後にある要因を明らかにし再び繰りかえさない態勢をつくることが重要である。
 今回提示された事故事例をふりかえる。
 
1.注射実施のプロセス
1)医師の指示 2)指示受け(薬剤師、看護師) 3)注射の準備 4)注射の実施 5)注射前後の観察
本事故事例におけるエラーの確認をするために、次の類型を参考に試みる。
 
2.刑事医療過誤事件のエラーによる類型
(1)医療知識の不足 医療従事者として求められるべき知識が不足していることが原因で起こった事故、特定機能病院や大学病院などでは求められる水準は高くなる。
(2)確認のエラー 接続間違え、流量の間違え、誤記載、誤処方など単純なエラー、そしてこうしたエラーをチェックできなかった事故
(3)伝達のエラー 引継ぎや口頭指示などの際に情報が取り違えて伝わったことによる事故
(4)医療技術の不足 担当する医療従事者であれば求められるべき医療技術が不足していることが原因で起こった事故
(5)手技のエラー 一連の手技操作において事故が起こった場合がこれにあたる。必ずしも術者の技術不足だけではなく、手技が潜在的にもつ起こりうる有害事象
(6)安全注意看過 患者の状態を十分把握していなかった、監視していなかったことで事故に到った事例
(7)衛生管理の不足 感染予防や感染の拡大を防ぐ手だてが不足していたことによって起こった事故
 
3.注射実施のプロセスにそったエラーの確認
1)医師の指示
①副腎皮質ホルモン剤「サクシゾン」を誤って筊弛緩剤「サクシン」を指示している。
②電子カルテの入力システムにおける3 文字入力で「サクシン」と表示された画面を、「サクシゾン」と思いこんでいる。
③看護師から「サクシンってどの位の時間をかけていったらいいんですか」と問われても、何ら振りかえりをしていない。
 
2)指示受け 薬剤師
①薬剤師は疑義照会をしていない。筋弛緩剤である「サクシン」が入院患者への処方箋であることに疑問をもっていなかったのか。
2)指示受け、4)注射の実施 看護師
①患者の病態、症状から何故筋弛緩剤の「サクシン」が必要か、判断せずに実施したのか。
②筋弛緩剤であることに気付いているにもかかわらずその意味、危険度について理解できていなかったのか。
 以上から全プロセスで、それぞれの「医療知識の不足」と「確認のエラー」が重複していたと考える。
平成12 年11 月に○○市民病院にて同様の事故をおこしている。この事故例が学びとならなかったことが残念である。
 人が危険な間違いをおかすには危険性を知っていたか、知らなかったか、危険性を知っていても時にはついうっかり・・・しかし少なくとも業務(注射)のどこにどの様な危険があるか、どの程度の危険であるかを知っていれば、そこで注意力を高めて行動することになると考える。
 確認のエラーによる事故は判例からも最多である。今回医師、薬剤師、看護師間でアサーティブなコミュニケーションが成立していたら、どこかで気付いたかもしれない。看護師は「発熱○度の○さんに筋弛緩剤のサクシンの注射でよいのですか」という聞き方、また「おかしい」と直感したときは立ち止って考える力をつけることが求められる。医療従事者は職種をこえてアサーション技能を身につけることが重要となる。今後の課題として次の目標を参考にしてみたい。
 
4.「医療安全全国共同行動」8つの目標
1)有害事象に関する目標
①危険薬の誤投与防止 ②周術期肺塞栓症の防止 ③危険手技の安全な実施 ④医療関連感染症の防止 ⑤医療機器の安全な操作と管理
 
2)組織基礎強化に関する目標
①急変時の迅速対応 ②事例要因分析から改善へ ③患者・市民の医療参加
(公開フォーラム いのちを守るパートナーズ)
 
おわりに
 看護師は患者の身近な存在で看護を24 時間継続している。事故を防ぎ患者の命を護るために、看護師のなすべき役割は大きい。安全を確保するには、看護基礎教育での安全教育、各施設全体および看護部門での対策、看護職能団体での様々なとり組みがある。医療従事者は市民とともに、医療安全のために厚労省、医薬品メーカーへの働きかけが問われる。今回8 月11 日アステラス製薬より「サクシン注射液」から「スキサメトニウム注」への販売名変更の提示がなされたことに注目したい。
さらに厚生労働省案の「医療事故調査委員会」に期待し、外部委員として看護職の参加を切に希望する。
 
  
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録4
臨床工学技士からのアプローチ
~専門スタッフの人材育成を考える~


星城大学 経営学部 健康マネジメント系 医療マネジメントコース主任
星城大学大学院 健康支援学研究科 医療安全管理学講座 教授
北野 達也
【はじめに】
 1987 年第108 回通常国会において「臨床工学技士(厚生労働省国家資格)」が資格法制化され22 年が経過しようとしている(2009 年3 月24 日現在、有資格者数26,114 名)。法律第60 号臨床工学技士法第二条第2項の定義「臨床工学技士とは、医師の指示のもと生命維持管理装置の操作および保守・点検を業とする者をいう。」にあるよう最低限遵守しなければならない業務がある。
 臨床工学技士もチーム医療の一員であり、生命維持管理装置等の操作・運用、さらには「医療機器安全管理責任者」として患者安全を担う職種である。
 
【臨床工学技士からのアプローチ】
 数々の医療事故事例においては、関わるスタッフがカルテなどの診療情報を中心に患者情報を共有されていたかどうかによる。医療事故の当事者のみならず、治療に携わる全スタッフの連帯責任でもあり、その中、一員である臨床工学技士のかかわりも大きい。臨床工学技士は、医師の指示のもと生命維持管理をはじめ、救急救命、特殊疾患治療、慢性期疾患治療など直接患者の方々の治療に携わることが多く、その責務も大きい。
 
【安全性向上のための臨床工学技士育成のあり方】
① 養成校卒後2 年の臨床研修義務化(医療人育成研修、シミュレーション教育など)
② 最低限3 専門分野(呼吸・循環・代謝)臨床経験の必要性、各分野3 年以上臨床経験を踏まえたローテーション制。
③ 常に疑問視、客観視できる人材育成、医療に貢献できる医療人育成
④ 管理職・指導者の人材再育成
⑤ 養成校、職能団体・学会・研究会、現場による三位一体の教育改革・・・など。
 
【終わりに】
 我々、医療従事者は「医療人として何をすべきか?誰のための病院・診療所なのか?誰のための行政機関なのか?」を常に考え、患者の方々にとって安全で安楽な質の高い医療を継続的に提供し続けなければならず、当然のことながらそれらを行う使命がある。現在、医療マネジメントコース教員として病院経営管理監、Patients Safety Manager(患者安全を担う管理者)、医療事故調査官、病院評価調査者、医療コーディネーター等の新たな「医療人」育成、医療安全管理体制構築のための医療環境教育改革を促すべく数々の取り組みを実践しており、安心・安全の医療提供のための一助になればと考えている。いつの日か、各医療機関における医療事故がゼロになることを願ってやまない。
 
 
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録5
医療事故を医療の安全につなげるために
~医療安全のための多角的アプローチ~
「克彦の青春を返して」著者
稲垣 克巳
(1)事故事例について――70 代の男性患者が午後9 時過ぎに39.4 度の発熱があったことに対して、解熱剤としての副腎皮質ホルモンであるサクシゾンと、筋弛緩剤サクシンの誤投薬をした。
①問題点
・三文字だけの入力でサクシゾンとサクシンの誤りが起こった。必ず薬品のフルネームを確認すること。
・医師から薬剤師への発注は、薬品名だけでなく、薬品名と効用を併記する。
  例、サクシゾン(副腎皮質ホルモン) サクシン(筋弛緩剤)
・看護師は筋弛緩剤を使うことに疑問を持ち、医師に質問をするべきである。
・医師と看護師のコミュニケーションが充分にとれておらず、医師の思い込みを医師、看護師ともに気づかなかった。
・投薬には患者に投薬目的を説明して、了解を得てからなすべきである。
・看護師は患者の経過観察をまったく行なっていない。看護師は筋弛緩剤を使ったあとの病状をよく観察しなければならない。1 時間20 分後(10 時半)に呼吸平静、入眠中とあるが、体温、脈拍、呼吸数を測るべきであり、測っておれば異常に気づいた筈である。
・医師は解熱剤投薬の指示だけでなく、その後の経過を病室へきてみてほしい。
②薬剤についての事故は多発している。
日本医療機能評価機構の年報によれば、平成19 年(1 月~12 月)の事故報告1266 件中、薬剤による事故は98 件(7.7%)である。(一部、他項目との重複計上あり)
原因別では、薬剤間違い23 件、薬剤量間違い31 件、速度間違い3 件、対象者間違い10 件、その他24 件
療養上の世話、治療・処置、医療用器具等に次いで4 番目に多い。

(2)医療に携わる人に望むこと
①当然行なうべき医療(診断、治療、処置、管理等)をきちんとやって欲しい。怠慢はあってはならない。
・本件本例でいえば
投与薬剤の確認。万一医師の思い違いがあっても薬剤師、看護師でダブルチェックできる体制の確立。
医師、看護師ともに患者の経過観察を緻密に行なう。
医師、看護師のコミュニケーションをよくする。
②患者の訴えを真剣にきいて欲しい。
病院に責任があるときは、早急に非を認めて再発防止に取り組んで欲しい。
③同じ事故を二度と起こさない。
病院は再発防止策をとらず、事故の事実が継承されず、医療の安全、再発防止に繋がらなかった。
④最も大切なのは人間性である。
 
* ②と③は私たちの経験からのものである。
 
(3)これからのよりよい医療にむかって
①医療事故調査委員会の創設。
②医療過誤の有無にかかわらず、重大な事故の救済制度をつくる。
③高齢者が増加し、高度医療がすすんでおり、当然医療費は増加する。無駄な医療費は減らすにしても必要なものを抑えるべきではない。防衛費、公共事業費を大幅に減らすべきである。
④医師の世界の規範をつくり、自浄作用を高める。
医師の免許の取得、取消し、処罰も医師自らが行なう体制をつくる。
 
 
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録6
モデル事例を心理学の立場から考える

東京海上日動メディカルサービス株式会社メディカルリスクマネジメント室
山内 桂子
はじめに
 医療安全について心理学の視点で研究をしてきた立場から、また、現在、各地の病院のリスクマネジャーさんたちを支援する仕事を行っている立場から、モデル事例を1. ヒューマンエラー、2. コミュニケーション、3. 再発防止対策のあり方、という3 点から検討する。
 
1.ヒューマンエラー
 類似した名称を読み違える(聞き違える)ことは人の認知特性上、不可避である。「類似薬剤名がある」という情報を提供するだけでは十分な対策ではない。また、類似した名前の薬剤の一方を病院で採用しないことは、病院単位で考えると有効な対策の筈であった。しかし医療者も患者も、一つの病院だけで診療をしたり、受診したりするとは限らない。本事例は、「サクシゾン」を採用しないという対策が必ずしも十分な対策ではなかったことを示している1)。病院横断的な対策が重要である。
 また、この事例の発生以前に、同じ病院内でサクシンが誤処方され投与前に気づいたというインシデントが発生していたが報告されていなかったという。あらためてインシデント報告の活用の重要性を強調したい。
 
2.コミュニケーション
 事故を減らすには、チームの中で「エラーを回復」させることが重要である。本事例のように、医師が処方時にエラーを起こしても、薬剤師や看護師が「検出」し「指摘」することによって、医師が「訂正」できれば事故を未然に防ぐことができる。本事例では、看護師が疑問を感じて、「サクシンってどれくらいの時間かけていったらいいんですか?」と医師にたずねたものの当を得た「指摘」とはならなかった。AHRQ(米国医療研究品質局)などが推進している「チームステップス」2)では、医療者間のコミュニケーションにおいて、疑問があるときや納得できる返答が得られなかったとき、「Two-Challenge-Rule」や「CUS」と呼ばれるスキルを用いることが提案されている。全ての職種、立場の医療者が適切に確認したり指摘したりするコミュニケーションのスキルを高める必要がある。
 
3.事故当事者の願いに応えて
 2000 年に医師の処方時の誤選択によって「サクシン」「サクシゾン」の取り違え事故が起き、8年後に同様の事故が発生した。起きた事故から学び有効な対策が実行されることは、医療事故の双方の当事者(患者・家族と医療者)の共通の願いである。2009 年、メーカーが「サクシン」から「スキサメトニウム」への名称変更を決定したことは画期的なことだが、2008 年以前にこの対策を取ることができなかったかという思いは残る。この再発防止策が、他の類似名薬剤の誤投与防止対策を一歩進めるモデルとなることを期待したい。
 
【文献】
1)リスクマネジャーのための医療安全実践ガイド,東京海上日動メディカルサービス株式会社
メディカルリスクマネジメント室著,日本看護協会出版会,2009
2)http://teamstepps.ahrq.gov/(AHRQ ホームページ)
 

 
シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録7
医療事故を医療の安全につなげるために
~医療ジャーナリズムからのアプローチ~

医療ジャーナリスト(中部日本放送)
後藤 克幸
●医療事故の根本原因(Root Causes)を追う
 誰のミスか?と単純な構図で理解しようとする「第一報の落とし穴」に陥ってはならない。
 事故を誘発した医療プロセスと医療システムの失敗・欠陥を放置したまま、改善なき医療が継続されれば、同様事故の再発、被害者の再生産を招く。
 「誰が?」ではなく、「なぜ?」の問いかけを繰り返し、事故の根本原因を理解すべき。
 
●「問題の本質」を社会に伝える
 事故の根本原因の分析と、分析結果にもとづく改善策の提言を行う医療事故調査に注目。
 事故調査委員会の提言内容とその後に取り組まれる病院の改善活動の具体策に、問題の本質がある。
モデル事例について、下記のフィッシュボーン図を提示します。
このモデル事例の根本原因分析の論点を整理しながら、この医療事故の教訓とは何か?そして、病院が取り組むべき改善活動とは?
問題の本質を掘り下げながら、医療安全に貢献するジャーナリズムの役割について、申し述べたい。

 

 シンポジウム「医療の安全のための多角的アプローチ」 抄録8
法律家の立場からのアプローチ
南山大学法科大学院教授・弁護士
加藤 良夫
1 はじめに
 医療にかかわる政策立案やその裏付けとなる財源問題等は、医療従事者のみの力によって解決が可能なものではなく、より多くの人々の理解や協力があってはじめて実現可能となる。同様に「医療の安全」も医療従事者の力だけで実現しうるものではなく、社会における公共政策のひとつとして、トータルな力が結集されることによってはじめて実現しうるものである。
 医療事故によって生命・健康を失った人々は、真相究明や再発防止を強く願っており、医療従事者の中にも医療事故が発生したときには、『隠さない、逃げない、ごまかさない』という姿勢で調査を行い、医療事故から教訓を引き出し、より安全な医療の実現のために努力しなければならないという考え方が広がりつつある。
 法律家も医療の安全を願っており、事故調査のための委員会の委員に参加するなど可能な範囲で医療の安全に向けて必要な協力をするという人も少なくないと思われる。
 
2 医療事故調査委員会に弁護士が参画することについて
 医療事故調査委員会には、その外部委員の一人として、日頃から医療事故の症例を扱ってきている弁護士(できれば日頃から患者側代理人の立場に立って扱ってきている弁護士)の参加を要請することが望ましいと思われる。その理由としては以下のとおりである。
① 事故調査には、診療経過の確定作業を中心とする真相究明が不可欠であり、一つひとつの事実を証拠(診療資料や聞き取り等)によって認定していくことが必要となる。このような事実の認定を日常的に行っている職業人が法曹であり、医療事件を取り扱っている弁護士が最も得意とするところである。
② 事故調査では、①の通り正しい事実関係を把握した上で当該事故の原因分析及び問題点を抽出する作業が必要となる。法曹はこの原因分析力や問題点抽出力を有しており、とりわけ医療事件を取り扱っている弁護士は、事故の原因や背景を常に考えており、医療事故の原因分析、問題点抽出を日常的に実施しているので適任である。
③ 事故調査の究極の目的は、医療事故から教訓を引き出し、医療の安全、医療の質の向上につないでいくことである。そのためには、②で分析され明らかとなった原因乃至抽出された問題点ごとに、再発防止につながる具体的な改善策を立案しそれらを着実に実践してその結果を評価・検証していくことが必要である。このような政策提言能力の点でも医療事件を取り扱っている弁護士は適性を有している。
④ 事故調査に参加する外部の委員には、当該事案に関する検討作業において、医師等医学・医療の専門家に臆することなく自らの見解や疑問点を積極的に表明することが求められる。この点弁護士は、言うべきことを言うということには慣れており適性がある。
⑤ 事故調査の結果作成される報告書は、事故の当事者へのレポートとしての意味を持っている。
報告書は、その読み手にとって解り易く(解り易い文章で)論理的に(説得的に)書かれていなくてはならない。弁護士は、日常的に依頼人に報告をしており、わかりやすい文章を書くことに工夫をしている職業人であるから適性がある。
⑥ 事故調査は、事柄の性質上医療従事者が委員会の中心とならざるを得ないところ、医療慣行にとらわれない新鮮な感覚を持って事案を検討するとともに、医療従事者同士の仲間かばいを克服するため、日頃患者側に立って医療事故のケースを担当する弁護士が参画して透明性を高めていくことが重要である。
 
3 モデル事例の問題点
 モデル事例については、以下のとおり、いくつかの問題点を指摘することができる。考えられる問題点を時系列に沿って記載する。
① 薬剤メーカーが業界としてサクシゾンとサクシンのように、認知心理学的に見て紛らわしい名称の薬剤を市場に流通させていること
② 国が医薬品の承認にあたり、その名称について十分な配慮をしてこなかったこと
③ 電子カルテ上の入力システムが3文字入力によって特段の警告もなく筋弛緩剤のサクシンが表示され処方できるようになっていたこと
④ 当直の医師は、飲み薬でも可能と思われるのに、サクシゾンの注射液を選択していたこと
⑤ 当直の医師が、パソコンの画面にサクシンと表示されているにもかかわらず、うっかりサクシゾンと思って処方したこと
⑥ 薬剤師は、薬剤師法上、疑義について照会することが義務付けられているところ、入院病棟から筋弛緩剤のサクシンの処方箋が出ているにもかかわらず漫然これを調剤したこと
⑦ 看護師は、「この患者になぜこの薬が必要か」を自らも考えながら看護師としての業務を行うことが肝要であり、疑問を感じたならば指示の確認をすべきところ、アンプルを見て筋弛緩剤であることに気付きながら、投与方法を尋ねただけで漫然これを投与したこと
⑧ 当直の医師は看護師からサクシンの投与方法を尋ねられた際、サクシゾンと聞き間違えて投与方法を指示したこと
⑨ 1 時間20 分後のカルテには「呼吸平静」とあるが、この時点までに患者に異常が生じていたと考えられるところ、異常の発見が遅れた可能性もあること
⑩ ⑥乃至⑧では、医師と薬剤師、医師と看護師の人間関係、コミュニケーションのあり方の問題も背景にあると考えられること、また、医療従事者の教育レベル、研鑽体制にも関心が持たれること、さらには日常的な多忙さが背景にあるかもしれないこと
以上①~⑩までの問題点に対し、十分な検討を行い改善すべき点があれば教訓化し、具体的な改善策を立案するとともにそれらを実践につないでいく必要がある。
 
4 おわりに
 医療事件に取り組む弁護士が活躍する場面は、裁判の場に限られない。医療事故のケースを取り扱った経験とりわけ医療事故で被害を蒙った人達が抱いている「医療の安全への願い」を踏まえて、医療従事者はもとよりそれ以外の多様な知識・経験を有する人々とも力を寄せ合い、ADR(裁判外紛争解決手続)への関与や、医療事故調査委員会の活動等にも積極的に取り組み、必要に応じて、医療の安全のために、国・厚労省、医薬品メーカー等に対しても改善を働きかけていくことが求められている。
 
 
医療の安全に関する研究会 理事会議事録
日時 平成21 年6 月13 日土曜日13 時30 分から
場所 名城大学名駅サテライト
出席者 島田康弘 加藤良夫 酒井順哉 吉田嘉宏 齋藤悦子 松葉和久 増田聖子
天野寛 池田卓也 稲垣克巳 江場康雄 北野達也 藤原奈佳子
寺町教詞(監事)
委任状出席 相馬孝博 堤寛 芦澤直文 加藤憲 篠崎良勝 鈴木俊夫 出元明美
野口宏 藤原祥裕 山内桂子
定足数を満たしていることを確認
1 齋藤常任理事から決算報告、寺町監事から監査報告、決算承認
2 増田常任理事から予算案提示、承認
3 加藤事務局長から川柳について報告
  冊子について
  販売累計は、304 冊、カンパとしては、48,110 円、
  6 月4 日看護協会総会で33 冊販売 さらに販売促進に努める。
  今年の忚募は、2380 通で締め切り
  川柳の募集については、メールを利用するなどの方法についても検討することとする。
4 相馬常任理事から転勤に伴い、退任の申し出があり、承認
5 増田常任理事から研究大会の準備状況について報告
  医療事故から学ぶという意図がテーマからわかるようにするという意見も踏まえ、大会長一任
 
医療の安全に関する研究会 総会議事録
日時 平成21 年6 月13 日土曜日14 時から
場所 名城大学名駅サテライト
出席者 島田康弘 加藤良夫 酒井順哉 吉田嘉宏 齋藤悦子 松葉和久 増田聖子
天野寛 池田卓也 稲垣克巳 江場康雄 北野達也 藤原奈佳子
寺町教詞 品田知子 酒井俊彰
委任状出席 71 名
定足数を満たしていることを確認
1~5 理事会に同じ
総会終了後、酒井常任理事、松葉常任理事から、講義





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