医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.28
(2008.10.10発行)
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巻頭言
医療の安全に関する研究会
理事長 島田康弘
第13回研究大会のご案内と巻頭言を申し上げます。
 第13回研究大会は大会長が江場康雄氏です。江場氏は皆さんあまりご存知ないかも知れませんが、本会の理事で、広く医療ガスを扱っておられる方です。場所は東京芝浦工業大学豊洲キャンパス内で行われます。
 大会のテーマは「医療ガスの安全使用を考える」で、副題として「医療現場や在宅医療に潜む諸問題」とされました。一般の人たちにはあまり広く知られていないかも知れませんが、医療ガスとしては酸素や二酸化炭素をはじめとして多くのものがあります。そしてこれらのガスは医療現場のみならず在宅の現場で広く使われています。江場氏はこの医療ガスの安全や事故について昔から調査研究をされてきました。このあたりのことに対して大会長講演「医療ガスの社会的使命と安全」、特別講演の渡辺敏氏の「今、再び『医療ガスの安全』について考える」がカバーし、シンポジウム「医療ガスの安全を考える」で講師の諸先生方の発表をお聞きして皆さんとじっくりと考えていきたいと思っております。また特別研究発表として5人の方から発表をいただきます。最後の酒井順哉氏は本会の常任理事の1人ですが「医療ガス安全・管理委員会のあり方ガイド」が報告されます。これは各医療施設にアンケートをとりこれからの医療ガス安全・管理委員会のあり方を問うもので、本大会の提言の1つといっていいものでしょう。
 午後一番には第9回本大会から実施しております医療の安全に関する川柳募集の優秀作品の紹介と表彰が行われます。今年は1500通を超えるご応募がありました。第9回からずっとみていただいているNHK学園の大木俊秀氏に、楽しいご講評をお聞かせいただきます。またこの川柳を集めたものを近々出版することを考えています。
 本大会のテーマは一般の方々には少しとっつきにくいかもしれませんが、医療ガスの安全ということを考える上で重要な問題です。皆様のご参加をお待ちします。
 

 
医療の安全に関する研究会
第13回研究大会

大会長 江場 康雄 (株式会社エバ 代表取締役)

テーマ「「医療ガスの安全使用を考える」
〜 医療現場や在宅医療に潜む諸問題 〜
 
日 時 : 2008年11月29日(土) 10:00〜17:00
場 所 : 芝浦工業大学 豊洲キャンパス 大講義室(階段教室)
(東京都江東区豊洲3-7-5)
参加費 : 一般 3,000円 会員 2,000円 学生 1,000円
 
                      【 プログラム 】
                       <午前の部>
9:30  受付開始
     総合司会 齋藤 悦子(学校法人名古屋医専副校長 教授)
10:00 理事長挨拶
     島田 康弘(名古屋大学 名誉教授)
10:10 大会長講演「医療ガスの社会的使命と安全」
     江場 康雄 (株式会社エバ 代表取締役)
     司会 加藤 良夫(弁護士 南山大学法科大学院 教授)
10:40 特別研究発表
     司会 松葉 和久(名城大学薬学部 教授)
     @「医療ガスが関わった事故の態様と教訓」
       中島 太郎 (元 日本医療ガス協会 技術顧問)
     A「阪神淡路震災が教える医療ガスの災害対策」
       岡野 洋太郎 (株式会社神戸サンソ 代表取締役社長)
     B「医療ガスの品質と安全管理 〜フランスの現状〜」
       ザビエル リゴロ (日本エア・リキード株式会社 常務執行役員)
     C「医療ガス情報担当者(MGR)認定制度への期待」
       中山 喜志男 (有限責任中間法人日本産業・医療ガス協会 顧問)
     D「医療ガス安全・管理委員会のあり方ガイド」
       酒井 順哉(名城大学大学院、医療ガス安全研究会)
12:20 昼食休憩
                        <午後の部>
13:20 「医療の安全に関する川柳」講評
     大木 俊秀(NHK学園)
     司会 吉田 嘉宏(医療を良くする会代表世話人)
13:45 特別講演 「今、再び『医療ガスの安全』について考える」
     渡辺 敏(財団法人医療機器センター 理事長)
     司会 堤 寛(藤田保健衛生大学医学部第一病理学 教授)
14:15 シンポジウム 「医療ガスの安全使用を考える」
     司会 酒井 順哉(名城大学大学院都市情報学研究科 保健医療情報学 教授)
     演題・講師
     @「医療ガス安全管理体制への行政の取り組みと諸問題」
      清 哲朗(厚生労働省医政局指導課 医療放射線管理専門官)
     A「医療ガス容器の安全管理と薬事法上の問題指摘」
      折井 孝男(薬剤師 NTT東日本関東病院 薬剤部長)
     B「医療ガス設備の保守点検は万全か」
      那須野 修一(日本臨床工学技士会 安全対策委員長)
     C「患者から見た医療ガスの特殊性と安全」
      大谷 貴子(全国骨髄バンク推進連絡協議会 会長)
     総括発言 渡辺 敏(医療機器センター 理事長)
16:55 次期大会長挨拶 増田 聖子 (弁護士 増田法律事務所)
 

 
大会長講演 抄録
医療ガスの社会的使命と安全

株式会社エバ 代表取締役
江場 康雄
「研究大会の目的」
・ 医療ガスは、医療機関の様々な場所で使用され、そこには一般ガスも存在している。
・ 特に酸素は、在宅酸素療法の普及によって、今や、一般社会生活とともに在る。
・ 医療ガスは、多種にわたり、医薬品であり高圧ガスである。
・ しかも、製造から消費までが多様で、液体から気体へとカタチを変えるものもある。
・ 特に「酸素」は、患者さんの“いのち”に直結した、かけがえのない生命維持ガスである。
このような社会的使命と特殊性をもった医療ガスのより安全を追求する研究大会である。
 
「医療ガスの種類」
医療ガスには、薬事法に規定された、酸素、液化酸素、窒素、液化窒素、二酸化炭素、亜酸化窒素、混合ガス、殺菌ガス、キセノン、さらに薬事法外の空気、吸引(陰圧のガス)、駆動用の窒素、検査用ガスなどがある。用途は、治療、検査診断、滅菌など、医療の多くの現場で使われている。
 
「医療ガスの歴史」
医療ガス、特に酸素は、1774年、J. Priestley(英)と、C.W. Sheele(スウェーデン)によって発見された。日本では、1907年に工業的に生産され、その支燃性の特性を利用して、工業用に広く活用され、同時に医療分野でも使用が始まった。
医療用として多く使われるようになったのは、世界に猛威を振るったスペイン風邪の流行(1918年〜20年)で膨大な数の死亡者が出たが、そのときから酸素への関心が急激に高まった。
1932年、「日本薬局方」への収載後、医療における酸素の消費量が増し、1961年、亜酸化窒素が「日本薬局方」へ収載され、全身麻酔法が普及し、酸素の大量消費の時代がはじまった。
 
「医療ガスの社会的使命」
酸素は、医療機関においては、「患者さんの“いのち”に直結した生命維持ガス(Life Support Energy Gases)である」。また、在宅酸素療法においては、「患者さんの生活の質を維持、向上させるQOLガス(Quality of Life Gases)である」。つまり、酸素は、患者さんのいのちに直接係わり、しかも、それに代わるものがない、かけがえのない医薬品である。
 
「医療ガスの特殊性」
@ 医薬品(薬事法)であり、高圧ガス(保安法)である。
A 製造、輸送、貯蔵から消費までが多様であり、酸素においては、それがライフラインである。
B 液体から気体へカタチを変える。特に酸素は燃焼を助ける支燃性ガスである。
C 運搬や貯蔵(在庫)に制限があり、緊急や災害時の対応策を施しておかねばならない。
D 医療現場では、医療用と工業用の区別が不明瞭なものもある。
 
「医療ガスの安全」
@ 医療現場、一般社会への医療ガスの周知と安全啓蒙は大きな命題である。
A “当たり前のことを当たり前に”、“過去の事故に学ぶ”、“大切なのは意識である”を知る。
B “適切な対応をすれば、事故はなくなる”、出来ることから具体的な対応が安全への近道。
C 危機管理とは、平常時に異常時への対応をしっかりしておくことである。
D 納入、購買の両者とも、医療ガスが安全に機能していてこそ商品であることを知る。
 
医療ガスの製造から消費までが、患者さんの“いのち”に直結しているライフラインであり、
そこに携わる人びとは連携し合い、「医療ガス安全」を磨きに磨くことこそ使命である。
 

 
特別研究発表 抄録 1
医療ガスが関わった事故の態様と教訓
元日本医療ガス協会 技術顧問
中島 太郎
1.酸素が医療に用いられてから1世紀余、笑気や炭酸ガスなどの所謂医療ガスなくしては、現代医療は成り立たないと言われるようになって、医療施設或いは在宅医療において、求める種類の、必要とする品質(純度、成分、圧力)の医療ガスが、ライフラインと呼ばれる電気や水と同じように必需品として簡単に使えるようになった。そして、すでに半世紀を越えた。しかし、
 
2.停電や断水は震災・風水害以外では起きにくくなったが、医療ガスについてはそうはいかない事が起きている。しかも、現に、医療ガスを用いて療養を受けている人が、突然のガス切れ、圧力低下、ガス間違いで呼吸不全/昏睡が、ガス中毒、発火による発煙を吸入しての肺傷害、死亡、或いは治療に当たった人を含めての火傷、医療施設・車両の火災等の今世紀になっても跡を絶たない実態がある。それらは起こるべくして起きた。「天災以外は防げたはずなのに」である。 
 
3.この大会報告に当たり、過去半世紀余に起きた医療ガス関与の事故と原因を調査収集した。
それらの事故の種類別件数とその比率、並びに被害概況は次の通りである。

       施設損壊  受傷者  死亡者
 @発火・火災事故  62件  46.9%  27 47   24
 A配管設備:圧変動、ガス途絶  24件  18.2%  3 17 
 Bガス切れ、異ガス混入、誤投与  23件  17.4%    4  15
 Cガス中毒・障害   9件   6.8%    106  3
 Dその他ガス関連事故  14件  10.6%  4
 合  計  132件    34 165   59
 
4.酸素は生命維持に必須のガスである。つまり、酸素に代わる薬剤は他になく、待ったなしである。加えて、他の医療ガス、例えば、笑気・二酸化炭素・窒素等のガス医薬品、或いは医療用空気などとの併用のため複合の事故もある。それらの事故の再発を防ぐため、供給設備と機器にはリスク管理が要求され、その日本工業規格(JIS T 14971)に合致しなければならないとされて、「人は過ちを起こすことがある、だから」の考え方を導入したフェイル・セイフのシステムが配管設備のJIS T 7101には組み込まれて2006年に改正施行された。又、発火事故が多かった酸素ボンベのバルブ開閉機構とシート材質の技術改善が今世紀になって進んできた。これは、ハード面。
 
5.ソフト面のリスク管理は、どんな事故がなぜ起きたかを知る、危険予知(KY)力を関係者すべてが持つことから始まるものと確信する。つまり保安知識の普及である。特に、生命維持に直接関わる医療ガスの消費現場における、供給/制御の失調が情報ミスで、発火・火災が単純な操作ミスで、致命的なガス間違い事故が使用時の僅かなチェック洩れで起きることなどを防ぐことの教習は、繰り返して実施しなければならない。再発防止の最短距離は、「過去の事故に学ぶ」である。
 
6.「形あるものは、いつか必ず壊れる」の喩え。そのチョットした装置・機器のトラブルを最悪事態に進ませない危機管理力は電気、給排水、空調などの病院設備と同列以上に重要視されるべきである。それは、専門家による設備・機器の定期点検整備、及び、使用者による使用前、と使用中の点検励行しかないし、このことは“医療法及び高圧ガス保安法”が「行え」と命じている、使用者の義務であると認識したい。そして、この、「保安知識の普及と設備・機器の保守点検」は各医療施設内に組織された“医療ガス安全・管理委員会”がその役割をしっかり果たして欲しい。
 
  
特別研究発表 抄録 2
阪神淡路大震災が教える医療ガスの災害対策
株式会社神戸サンソ
岡野 洋太郎
 日本の災害史上でも最大規模と言われている「阪神淡路大震災」が発生して今年で13年を迎えました。この震災では、直接的原因による死者5,504名。建物では20万世帯を超える全・半壊の被害を出し、災害が都市部を直撃する怖さを目の当たりにいたしました。メディアでもその様子が大きく取り上げられ、地震対策を含めた防災意識が社会に大きく広まる契機となったことは言うまでもありません。この大震災を境にして、国や自治体においても、災害時に備え組織やインフラの整備を進めてまいりました。その甲斐があってかその後の各地で発生した地震災害では、対応が迅速化するとともに、被害も最小限に抑えることが出来ているように思えます。
 このような中で医療の現場においても災害対策が求められるようになってまいりました。病院施設等の耐震化といったハード面はもとより、組織体制等のソフト面でも徐々に各所で整ってきております。では医療ガスについてはどうでしょうか。一言で医療ガスと言っても、なかなかイメージしにくい部分が多くあるのではないでしょうか。医療の現場において使用される高圧ガスとは、最も代表的なものとして「酸素」が挙げられます。また昨今では、特にその患者数が増加している「在宅酸素療法」に使用される「液体酸素」と小型で持ち運びが出来る「携帯用酸素」があります。また高圧ガスではありませんが、酸素を電気の力を使って精製する「酸素濃縮装置」も医療ガスを販売するディーラーの多くが取り扱っております。そして大半の医療機関において、この酸素を代表とした各種医療ガスが使用されております。しかしこの医療ガスに対する災害対策について、多くの医療機関でいまだ徹底されていないのが現状であると感じております。
 阪神淡路大震災では、多くの医療機関が被害を受けました。特に大きな被害を受けた医療機関では、病棟の下層階が上層階に押しつぶされ、多くの被害者を出しました。しかしこのような中、医療ガスにまつわる被害情報やディーラーの供給体制について、あまり取り上げられることはありませんでした。しかし現実の問題として、医療ガスの供給がストップすると、医療機関の機能が麻痺するという非常に大きなリスクを抱えております。また在宅酸素療法の患者様にとっては、停電により酸素濃縮装置の使用が不可能になることや、携帯用酸素ボンベが供給されず酸素吸入ができないと言った大きなリスクを抱えております。これらのリスクを最小限に抑えるためには、日頃からの対策が非常に重要になってまいります。また「高圧ガス」と言う特殊性から、医療機関単独での対策は不可能に近いと言わざるを得ません。この対策には、「医療機関」と医療ガスを販売する「ディーラー」、さらには「行政」との連携が必要不可欠です。これら3者が事前に役割分担を明確にしておく必要があります。また医療機関は他の医療機関との連携、ディーラーは他府県も含めた他のディーラーとの連携、同様にして行政も他の地域の行政機関との連携が必要になってまいります。各医療機関においてその仕組みを確立させ、緊急時の地域医療が遅滞なく行われることが望まれます。そして何よりも重要なことは、患者様の命はかけがえのないものであるということです。そしてその命を守るうえで、医療ガスは重要な役割を担っていることを改めて認識する必要があるのではないでしょうか。平常時は供給されて当たり前である医療ガスも、災害に直面すると供給が困難になる可能性があります。供給停止と言う最悪の事態を迎えないためにも日頃からの災害対策が重要であります。
 

 
特別研究発表 抄録 3
医療ガスの品質と安全管理 〜フランスの現状〜
日本エアリキード株式会社 常務執行役員
ザビエル・リゴロ
 医療ガスは、フランスにおいて、1992年の酸素に始まり、亜酸化窒素(笑気ガス)、混合ガス(亜酸化窒素+酸素)、キセノン、一酸化窒素などと、保健行政当局によって医薬品として承認されるようになりました。
 主に企業等における医療ガスの生産体制は、薬剤師が常駐する製造許可された生産工場で、医療ガスの中身や梱包材料(ボンベ、タンク)の品質・安全性が確認されなければなりません。
 医療ガスの品質や安全保障については、製造工程から医療機関への配送に至るまで、すべてが薬剤師の責任管理のもとで行われます。
 この製造から消費までのサプライチェーンは医療ガスに特化しており、製造から消費におけるどの段階においても、いわゆる工業用に使用されるガスと混同されることはありません。
 また、医療機関における医療ガスパイピングシステムは医療機器として承認され、医薬品として承認された医療ガスに使われています。
 この“薬剤としての医療ガス”へのアプローチは、フランスで25年以上に亘り医療ガスの安全と品質の向上に寄与しています。
 

 
特別研究発表 抄録 4
医療ガス情報担当者(MGR)認定制度への期待
有限責任中間法人 日本産業・医療ガス協会 顧問
中山 喜志男
1.医療ガス情報担当者(MGR)[Medical Gases Representative]の役割
医薬情報担当者(MR)の行動規範は、「医薬情報担当者は医療の一端を担う者としての社会的使命と、企業を代表して医薬情報活動を遂行する立場を十分自覚し、次の事項を誠実に実行しなければならない。」となっている。
MRと同様にMGRには、医療ガスの特殊性を十分に理解し、その情報提供に努めることはもとより、その取扱いに関する的確な情報を伝えることが要求される。
そのためには、医療ガスに関する知識だけではなく、医学全般についても必要かつ十分な知識を有していなければならない。あわせて、「高圧ガス保安法」に関する知識も要求される。
 
2.MGR認定制度導入の目的 
以下の三点から協会会員を対象に順次MGR資格を取得させるべく、日本産業・医療ガス協会では2007年度からMGR制度を運用開始することとした。
@ 医療ガスは、今後ますます重要性が高まり、様々な規制が厳しくなる状況から、製造・流通基盤が他の医薬品とは全く異なることなどを考慮し、現在のMR資格制度とは別に「MGR制度」を導入し、医療ガス事業従事者の質の向上を図り、医療ガス業界の社会的評価を高める必要があること。
A 2006年に改正された薬事法により、特例販売が廃止となり卸売販売業に移行することに伴い、新たな資格要件が必要となったことから、MGRはその資格要件の一つとなる見込であること。
B 卸売販売業に移行するための新たな資格要件となるMGR資格を取得するためには、2007年からMGR研修を実施する必要があること。
 
3.MGRへの期待 
医薬品である医療ガスに関する専門知識の資格者として、企業を代表して医療機関に対して適切な情報伝達を行うことで、取扱いミスをなくし事故防止につながることが期待される。
医療機関からは、MGRに対して信頼される企業として認められることで、販売契約者としての契約条件とされることが予想される。
昨年度の試験実施後、すでに医療関係者から大きな期待が寄せられている。
 

 
特別研究発表 抄録 5
医療ガス安全・管理委員会のあり方ガイド

名城大学大学院都市情報学部研究科 保健医療情報学教授
医療ガス安全研究会
酒井 順哉
 厚生労働省は医療ガス設備の安全管理を図り、患者の安全を確保することを目的として、「診療の用に供するガス設備の保安管理について」(昭和63年、健政発第410号)を通知し、医療機関において医療ガス安全・管理委員会の設置とともに、保守点検業務の監督責任者、実施責任者の配置を義務付けた。
 我々が平成15年に厚生労働科学研究で行った調査において、医療ガスの保守点検は医療スタッフではなく、約5割の病院で受託業者に業務を委託している現状がわかった。また、有限責任中間法人日本産業・医療ガス協会が各都道府県で実施した「医療ガス消費者保安講習会」の病院受講者に対する調査結果によると、委員会・保守点検・保安教育が必ずしも実働していないことがわかった。
 今回、我々は医療の安全に関する研究会特別研究として、一般病床300床以上の病院909施設の医療ガス安全・管理委員会委員長または監督責任者を対象に、医療ガス設備の安全管理の実態調査を平成20年9月に実施した。
 主な調査内容は、医療ガス安全・管理委員会の設置の現状とともに、各種関連法規の把握有無、医療ガス安全・管理業務の監督責任者と実施責任者と委託業者の役割分担、医療スタッフが実施している保守点検、医療ガスに関する事故またはヒヤリハット事例の現状についてなどについて、アンケート用紙を送付し、質問用紙法で回答を求めた。
 この集計結果と、有限責任中間法人日本産業・医療ガス協会が各都道府県で実施した「医療ガス消費者保安講習会」の病院受講者に対する調査結果を比較し、共通する点と相違のある点を明確にした結果、300床以上の病院であっても、多くの病院では対外的には医療ガス安全・管理体制はとっているものの、実際の保守管理業務は委託業者に任せている傾向があり、病院における医療ガス安全・管理委員会が中心になって医療ガスの保守点検や安全教育のあり方について提言した。
 特に、医療現場の医療スタッフが医療ガス設備の日常点検として、以下の点に関して実践できる医療ガス安全チェック行動マニュアルを策定することの重要性を指摘した。
1)日常使用しているアウトレットについて次の点をチェックすること
2)使用するホースアセンブリーについて次の点をチェックすること
3)遠隔警報板について以下の項目をチェックすること
4)供給源装置については次の点についてチェックすること
5)供給源機器(吸引ポンプ、空気圧縮機)について以下の項目をチェックすること
 

 
特別講演 抄録
今、再び「医療ガスの安全」について考える

財団法人医療機器センター理事長
渡辺 敏
 昭和62年に起こった医療ガス配管誤接続事故を契機に、昭和63年に厚生省健康政策局長通知第410号「診療の用に供するガス設備の保安管理について」が出され、各医療施設は「医療ガス安全・管理委員会」を設け、「医療ガスの保守点検指針」に基づき医療ガス設備の保守点検を行うようになった。この通知により、医療ガスの安全性は昔に比べて向上したように思われる。ただ、医療ガス関係のトラブルが皆無になった訳ではなく、各種調査や学会発表等でさまざまなトラブルが依然として報告されている。
本講演では、(中)日本産業・医療ガス協会が行っている医療ガス保安講習会時のアンケートで集められたヒヤリハット事例をもとに医療ガスに関係したトラブルの現状を紹介すると同時に、「医療ガスの安全」を確保維持していくためには今後何をすべきかを考えたい。
 (中)日本産業・医療ガス協会が集めたヒヤリハット事例を調べたところ、さまざまな事例があり、とくに酸素ボンベに関するものが多いこと、また重大な事故につながりかねない供給源装置等に関係したものが起こっていることがわかった。医療ガスの安全を確保するためには、健康政策局長通知の医療ガス安全・管理委員会が確実に活動し、保守点検指針を確実に実施するのが当然であるが、この保守点検指針には医療ガスボンベの管理についての記載がないこと、また供給源装置に関する点検項目等が必ずしも十分と言えないため、この点検指針の見直しが必要であることと医療ガス関係者に対する教育活動の必要性を強調したい。
 
  
シンポジウム 抄録 1
医療ガス安全管理体制への行政の取り組みと諸問題


厚生労働省医政局指導課
清 哲朗
 医療ガスは、不適切な使用や装置・構造設備の故障等によっては患者や周辺環境に重大なリスクを及ぼしうるものであり、その安全管理体制の整備は医療関係者にとり重要である。しかしながら、医療ガスそのもののみの法規制は存在せず、その使用や安全対策は医療法の他、高圧ガス保安法、消防法等様々な管轄の異なる省庁に属する法律の下で規制されており、本来であれば一元的な安全使用と保守管理が求められるものが、使用するガス、機器、構造、施設部位により不整合がある等、抜け穴的なリスクが存在する現状がある。
 医療安全対策は、先の医療法改正で明確に施設およびその管理者の法的義務として位置づけられたところであり、医療機器や医薬品に関してはそれぞれに管理責任者の設置、従業者に対する研修の実施、機器に関する保守管理等が求められている。医療ガス安全・管理委員会もより以前から医療機関内での設置が義務づけられていたが、それより後に医療安全対策として組織づけられた医療安全委員会、医療機器安全委員会、医薬品安全委員会等との間の位置づけと運用は個々の施設に任されている。医療機関の経営資源は医業本体に集約される傾向があり、委託が許される保守管理業務等に関しては、業者側に完全に依存してしまい、事故発生時には医療従事者の初動対応に問題が生じるリスクも存在している。医療ガスの使用、医療安全に対する行政のこれまでの取り組みと課題、現状をふまえたあるべき安全管理対策と今後の展望に関して概説する。
 
 
シンポジウム 抄録 2
医療ガスボンベの安全管理と薬事法上の問題
薬剤師、NTT東日本 関東病院 薬剤部長
折井 孝男
はじめに
 「e-Japan戦略U」(政府IT戦略本部発表:2003年7月)において、医療分野はICT(Information communication technology)利活用の先導的取り組みを行う分野として第一に位置付けられた。「患者基点の総合的医療サービスの提供」「医療機関の経営効率と医療サービスの向上」「診療報酬請求業務の効率化」等が明示され、医療分野のICT化は、国の政策の重要テーマとなっている。今回のテーマである医療ガスボンベの安全管理は、患者基点の総合的医療サービスの提供においても必須の問題であり、関係領域の方々と討議することは非常に意義がある。
 
医療ガスと薬事法
 医療ガスは、その高圧部分については高圧ガス保安法により定められているものの、医療用のガスについては、その範囲が明確に規定されていない。我々薬剤師と関わりの深い薬事法には、薬事法の規制を受ける医療ガスは通常ガス性医薬品と呼ばれる同法第2条に定義づけされている医薬品に属するものであり、(1)日本薬局方として、酸素、亜酸化窒素(笑気)、二酸化炭素(炭酸ガス)、窒素 (2)日本薬局方外医薬品として、液化酸素、液化窒素、酸化エチレンを含んだ殺菌ガス、および日本薬局方収載品の混合ガスなどの記述がある。医療ガスは日本薬局方に医薬品として定められている。
 
医療ガスボンベの取扱い
 医療ガスボンベは、注射薬でいえばアンプル、バイアル等と同様である。医療ガスを充填するボンベは医療機器に分類されず、雑品扱いとなっている。このような中、ボンベの安全管理や充填内容の信頼性を考慮すると現状の薬事法では分類上の問題がある。ラインは薬事法で医療機器に分類されている。医療ガスのボンベについては塗色区分が法令、JIS規格の間においても統一されていない。麻酔器の規格(JIST7201)では酸素が緑である。しかし、高圧ガス取締法では緑は炭酸ガスであり、酸素は黒である。識別色の標準化ができていない。医薬品の領域では、作用時間の異なるヒトインスリン製剤において、製造業者にかかわらず種類ごとに統一されたユニバーサル・カラーコードがある。これはIDF主導で1999年に提案され、2000年に統一されたものである。医療ガスボンベの領域においても国際的な統一とまではいえないが、国内における統一性が必要と考える。
 
おわりに
 医薬品の領域では、インスリン製剤のシリンジが識別できるようユニバーサル・カラーコードが統一された。患者基点の総合的医療サービスの提供という観点からも安心・安全な医療実施のためにも、医療ガスボンベの識別について標準化されることが望まれる。

医療ガスと病院薬剤部
 医療ガスボンベということについては、必ずしも病院薬剤部で扱っている訳ではない。NTT東日本関東病院(以下、当院)においても薬剤部で取り扱っているわけでなく、配置場所の提供だけであり、薬剤師の関わりもほとんどないに等しい。他施設においては、当院と同様の関わりがあるのかどうか十分に理解できていないが、複数の施設に確認した範囲では殆ど関与していなかった。
 
 
シンポジウム 抄録 3
医療ガス設備の保守点検は万全か

日本臨床工学技士会 安全対策委員長
那須野 修一
 医療機関に於ける医療ガス設備の保守管理については「診療の用に供するガス設備の保安管理について」(昭和63年7月15日)(健政発第410号)により医療ガス安全・管理委員会の設置とその業務について及び医療ガスの保守点検指針により、保守点検のあり方及び具体的な日常点検や定期点検の内容が示されている。また、平成18年6月の改正医療法により医療安全対策において医薬品及び医療機器の管理体制が具体的に示され医療機関にとっては必須項目となっている。これら管理の状況は、保健所等により行われる医療機関の立入検査項目となり委員会の設置状況や点検状況がチェックされている。
 このような状況を見る限りでは、医療ガス設備の保守管理体制は万全と思われる。そこで今回、臨床工学技士の立場から「医療ガス設備の保守点検は万全か?」との視点に立ち考える。
 
医療ガス安全・管理委員会
 委員会はほとんどの医療機関において組織されている。しかしその活動は、大半が定期点検等の報告が主体で形骸化した状態と思われる。この原因として、通知には委員会の業務が示されているものの設備に係わる工事等は常時発生するものではないため委員会における審議はほとんど必要なく報告事項が中心になること。また、医療ガスに関する知識の普及啓発についても医療機器管理室の設置されている医療機関において、使用機器の安全教育と共にボンベや医療ガス設備について安全教育の一部として行われているに過ぎない。このため委員会は形骸化しやすい状況にあると思われる。
 
保守点検
 医療ガス設備の保守点検は、酒井らの調査によると約半数が委託業者によって行われている。しかし医療機関が行う場合においても実施職種では、看護職や事務職が20%程度含まれ十分な保守点検が行われているか疑問である。委託業者は、医療法十五条の2及び施行規則第九条の十三に示される業者でなければならないとされている。しかし現実には、定期点検はこれらの指定業者によって行われるものの日常点検については、電気設備等を含み設備関連受託業者により行われていることが多い状況である。この設備関連業者は、いわゆるビルメンテナンスと同様の業者であることが多く医療ガス設備に関する専門業者ではなくトラブル等の場合には専門業者により再委託し行われる。
 日常点検については、設備関連業者により医療ガスの供給源についてはチェックされるもののアウトレットやホースアッセンブリー等の末端については医療現場の看護師等の判断に任されている現状にある。これら末端の使用者は医療ガスを用いる医療機器の始業点検は行うものの設備については、ほとんど点検を行うことはなく何か異常がありはじめて担当部署に連絡を行い点検を行う発生ベースの点検がほとんどといって過言ではない。これらの状況から医療ガス設備の保守点検は、多くの施設で不十分であると考えざるをえない状況である。
 
その他
 医療ガスは、医薬品との扱いであり医療法に於ける医療機関内の管理責任者は医薬品安全管理責任者となる。一方医療ガスを用いて使用する医療機器は、医療機器安全管理責任者の管理となる。このため管理責任の所在が曖昧となりやすい。また、医師や看護師等の医療従事者は、医療ガスを使用した治療や基本的性質の教育は受けているもののその設備や使用器具・機器に対する教育はほとんど受けていない現状であり医療現場における実地教育にゆだねられている。
 日本臨床工学技士会では、昨年の改正医療法施行に合わせ医療機器安全管理責任者育成講習会を実施している。この中で医療機器の安全の担保のため医療ガスの基礎知識と設備(ボンベ管理を含む)について講習を行ったところ参加者から非常に高評を受けた。このことからも医療ガス設備等についての学習の機会が少ないことが実感させられた。そこで技士会として医療機器安全使用の観点から医療ガス設備の重要性について普及啓発を行っていく必要があると考える。
 

 
シンポジウム 抄録 4
患者から見た医療ガスの特殊性と安全

全国骨髄バンク推進連絡協議会 会長
大谷 貴子
「私と医療ガス」
・私は元白血病患者です。闘病中、危篤状態に陥ったこともありましたが、幸いにも医療ガスのお世話になることなく、健康を取り戻しました。
・しかし、自らの闘病を通し、“医療”と関わることになるといやおうなしに医療ガスとの接点が増えてきます・・・@
・その内、自らの年かさが増すと、回りの者も年かさが増し、白血病やガン患者さんだけではなく医療ガスの恩恵を受ける人たちが増えていることに気づき始めます・・・A
・このような体験から医療ガスを一市民としてどう感じているかと、この機会に検証をします。
 
「医療ガスに関わった具体的事例」
@ 白血病の発症から20年がたち、白血病に限らず様々な病気の方と知り合いました。そんな中、15歳の肺に障害がある少年の夢をかなえるべく医療酸素に助けを求めました。もし、医療酸素なるものがこの世に存在しなければ、彼は、たった一つの夢も実現できずにこの世をさらなければなりませんでした。感謝。
A 近所の仲のよいおじさん。彼は私の発病をとても心配してくれ、そして、応援してくれていました・・・常にタバコとともに!? 私自身は、タバコを忌み嫌っていましたのでおじさんの健康を心配はしていましたが、それは、肺ガンを心配してのことでした。まさか・・・ガンにはならず、肺気腫になるとは。常に酸素を持ち歩き、苦しそうにしているおじさん。夫に自らの状態を呈し、禁煙を勧めてくれました。百聞は一見にしかず。夫は16歳から44歳まで吸い続けているタバコをようやくやめてくれました。おじさんの日常生活の保障に感謝。夫の禁煙に感謝。
 
「感謝」
もし、医療ガスがなかったら・・・。ぞっとします。病院に入院すると枕もとに必ずある酸素の取り出し口。あれは私たちの命の灯火です。在宅での携帯酸素もしかり。携帯酸素がなければ肺気腫の患者さんは病院にしばりつけられています。もちろん日常生活は制限されるというもののおうちでご飯を食べ、自分の布団で寝ることができるのはこの上ない幸せです。
様々な病気の患者に分け隔てなく医療ガスを安全に供給してくださっていることに心から感謝を申し上げます。多くの患者を代表して・・・。

 
 
医療の安全に関する研究会 理事会議事録
日 時 2008年6月14日土曜日 13時30分から
場 所 名城大学薬学部第1号館6階
出席者 島田康弘 加藤良夫 齋藤悦子 松葉和久 酒井順哉 吉田嘉宏 増田聖子  
    加藤 憲 天野 寛 稲垣克巳 江場康雄
    寺町教詞(監事) 北野達也(傍聴) 品田友子(傍聴)
    委任状出席 堤  寛 宮治 眞 芦澤直文  池田卓也 篠崎良勝 鈴木俊夫
          出元明美 野口 宏 藤原奈佳子 森島昭夫 山内桂子 
定足数を満たしていることを確認
議事概要
1 決算
  平成19年度会計報告書、会計報告、研究大会収支に基づいて、齋藤常任理事から報告(会計報告書中、会員41名、一般87名と訂正)し、承認
2 監査     
  寺町監事から正確かつ妥当である旨の監査報告、監査報告書回覧
3 予算案
  平成20年度予算案に基づいて、増田常任理事から報告 
  基幹病院内の医療ガス安全委員会の実態調査と同委員会のあり方についてガイドライン作成にあたっての調査研究(本年の研究大会までに実施予定)について、申請予定
  川柳の冊子が1000部で作製すると、40万円との見積もりがあることが報告され、川柳冊子作製費として、40万円を計上することとする。(これに従い、予備費は、1,832,407円と修正。)冊子の冒頭には、理事長に、川柳の意義やねらいを記載頂き、併せて、大木先生にコメントをいただくなど冊子の内容などの詳細については、常任理事会で検討する。
  以上修正のうえ、承認
4 役員改選  
  島田理事長から平成20年度役員案を提案(島田理事長の肩書きは名古屋大学名誉教授に訂正)。この役員案は、各役員に理事継続の意向を確認のうえ、常任理事、理事を提案したものであり、常任理事については、宮治眞先生は、理事会一任とのことであり、退任いただき、相馬孝博先生を新任、理事については、品川信良先生に退任いただき、北野達也先生(肩書きを星城大学経営学部准教授と訂正)及び藤原祥裕先生を新任、その他の常任理事、理事、監事は留任との内容であることを説明。意見なく、全員一致で役員案とおり選任。
5 研究大会の準備状況
  江場理事から別紙のとおり報告。
  参加費は一般3000円、会員2000円 と修正
  特別研究発表が予定され、ポスターセッションは予定していない
 400名〜500名の会場を予定
  参加者の昼食が可能かどうかを確認し、必要に応じて手配いただくこととする。
 
 
医療の安全に関する研究会 総会議事録
医療の安全に関する研究会 総会議事録

日 時 2008年6月14日土曜日 14時20分から
場 所 名城大学薬学部第1号館6階
出席者 島田康弘 加藤良夫 齋藤悦子 松葉和久 酒井順哉 吉田嘉宏 増田聖子  
    加藤 憲 天野 寛 寺町教詞 稲垣克巳 江場康雄 北野達也 品田友子
    委任状出席 堤  寛 宮治 眞 芦澤直文  池田卓也 篠崎良勝 鈴木俊夫
          出元明美 野口 宏 藤原奈佳子 森島昭夫 山内桂子 多田 元
          他 合計 73名
定足数を満たしていることを確認
議事概要
1〜5 理事会に同じ





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