医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.23
(200310.20.発行)
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巻頭言
理事長 島田康弘
 本年度の研究大会まであと1月あまりとなりました。本年の実行委員長は齋藤悦子常任理事理事です。
齋藤氏は藤田保健衛生大学病院看護部部長補佐で看護教育がご専門です。
 大会のテーマは「医療の安全に関する教育・研修−安全教育の現状とありかた」です。医療事故を防止するには、医療従事者の安全教育はもっとも重要な事項であることは誰も認めることでしょう。しかし、はたして現況は十分に評価に値する教育がなされているのでしょうか?
 プログラムでは、午前中に大会長講演として「看護基礎教育における安全教育」が行われ、続いて当日のテーマである「医療の安全に関する教育・研修」で語ろう、と題した全体討論会が開かれます。ぜひ皆様方の積極的なご発言をよろしくお願いいたします。
 午後からは特別講演として、杏林大学保健学部教授であられる川村治子氏による「医療事故防止教育に求められるもの」を予定しています。川村氏は医療事故防止に対して数多くのすばらしい提言をされておられる専門家です。続いての3時間をたっぷり使って、シンポジウム「安全に関する医療従事者の教育・研修」が行われます。医療従事者だけでなく、市民代表の方にもご参加いただきます。当日の討論の結果を、本会からの提言として発表できるような有意義なものにしたいと考えております。
 多くの皆様のご参加をお待ちしております。
 
もくじ
      
巻頭言 島田康弘
プログラム
大会長講演要旨 齋藤悦子
特別講演要旨 川村治子
シンポジウム
  市民や医療被害者から学ぶ教育・研究 勝村久司 11
  卒後初期研修必修化における安全管理 早野恵子 14
  在宅推進に不可欠な安全教育 村松静子 16
  やっと考え方が変わった薬学教育 松葉和久 18
  臨床工学士の担う現任教育 林 裕樹 20
理事会・総会議事録
14年度会計報告・15年度予算

 
医療の安全に関する研究会
第8回研究大会
テーマ『医療の安全に関する教育・研修』
<安全教育の現状と在り方>


日時 2003年11月29日(土) 10:00〜17:40
場所 名城大学天白キャンパス共通講義棟
〒468−8502 名古屋市天白区塩釜口1丁目501番地TEL (052)832−1151
一般2,000円学生1,000円参加費
医療に興味のある方であれば、どなたでも自由に参加できます。
プログラム
9:30       受付(名城大学天白キャンパス共通講義棟南101講義室前)

10:00 10:15 〜 開会の挨拶 島田康弘理事長(名古屋大学大学院医学研究科・教授) 

10:15 10:45 〜 大会長講演  「看護基礎教育における安全教育」
              齋藤悦子(藤田保健衛生大学看護部)
              司会 今井範子(中部看護専門学校)

10:45 12:00 〜 全体討論会 「今日のテーマ医療の安全に関する教育・研修」で語ろう
              司会 松葉和久(名城大学薬学部)
                  宮治眞(名古屋市立大学大学院医学研究科)


13:00 14:00 〜 特別講演 「医療事故防止教育に求められるもの」
              川村治子(杏林大学保険学部・教授)
              司会 齋藤悦子(藤田保健衛生大学看護部)

14:15 17:15 〜 シンポジウム「安全に関する医療従事者の教育・研修」
              司会 堤 寛(藤田保健衛生大学医学部)
                  増田聖子(弁護士)
            1) 市民や医療被害者から学ぶ教育・研修
                  勝村久司(医学情報の公開・開示を求める市民の会事務局長)
            2) 医師の臨床研修必須化での安全教育
                  早野恵子(熊本大学医学部総合診療部)
            3) 在宅推進に不可欠な安全教育
                  村松静子(在宅看護研究センター代表)
            4) やっと考え方が変わった薬学教育
                  松葉和久(名城大学薬学部)
            5) 臨床工学技士の担う現任教育
                  林 裕樹(名古屋国立病院臨床工学室)

17:15〜 次期大会長挨拶村松静子

17:25〜 閉会の挨拶大会長齋藤悦子

 
大会長講演抄録 「看護基礎教育における安全教育」
― 現状の取り組みと課題―
藤田保健衛生大学看護部
齋藤悦子

はじめに
現在看護・医療事故を減少させるために組織的な取り組みが始まっている。
このような動きの中で、看護基礎教育は何をどのように担っていくとよいのであろうか。

1.看護職は事故の当事者?と思ったあの日!
看護学生に看護・医療事故予防について教育する必要があると感じた日でもあった!

1)いわゆる富士見産婦人科病院(無資格者の乱診乱療) 昭和49年
昭和55年9月に当時の理事長が逮捕された。理事長は医師法違反、その妻は保健婦助産婦看護婦法違反により起訴された。
初めての保健婦助産婦看護婦法違反であった。

2)いわゆる褥瘡裁判 昭和49年
本件は入院患者の褥瘡発生予防が医療担当者の責任であるか否かが問われた。昭和60年本件は控訴審において和解成立。
「床ずれは看護業務の怠慢」と報じられた。

この時期の看護基礎教育における「安全教育」は、あらゆる看護技術は対象へ安全・安楽に働きかけることを原則とすることが中心であり、看護職は事故を起こしてはならないという文化があった。しかし上記のつの事件をいかに教育に生かすかを考え、ささやかな取り組みをした。

1)については「被害者の声を聞く会」へ学生と共に参加する機会を得たことで、被害に至るプロセスを捉えることができた。その後学内にて事例検討をし、保健婦助産婦看護婦法の解説に活用した。

2)については最初から関わる機会を得たことで私自身、影響を受けたことからその後の授業で事例検討を継続した。
その内容は、@この事例はなぜ褥瘡ができたのか、そして悪化したのか。A看護者の姿勢をどう考えるか。Bなぜこの家族は訴訟をしたのだろう。C臨床実習で事故を体験した時は事故届けを提出し、経過を振り返り原因と対処を考察し、可能な限りカンファレンスで共有した。

しかし、これらは限られた教員の工夫や熱意で、断端的な教授であり各科目間の関連性や継続性がない状況であった。これらのことは、看護・医療事故が社会的問題になる以前から各学校養成所で看護・医療事故予防についての教授は内容や方法に学校差はあるにしても、少なからず教育していたと思われる。
これら2つの事件から、事故防止の重要性を認識させられた。その後も医療事故は増加し、今日では社
会的問題となっている。

2.社会問題化した看護・医療事故後の法的動向
1)平成11年1月横浜市での患者とり違え事故後に発表された厚生省の「患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書」
2)平成12年1月「医療法施行規則の一部を改正する省令」により特定機能病院における安全管理の体制の確保(平成12年厚生省令第7号)
3)平成14年4月厚生労働省から「医療安全推進総合対策」の報告書が発表された。同年8月30日「医療法施行規則の一部を改正する省令の一部の施行について」
4)平成14年10月7日特定機能病院については安全管理体制の強化を図るために整備すべき安全管理体制が平成14年4月1日をもって施行されることになった。
これらの法的な動向からリスクマネジメントはシステムとして、今後急速に進むことが予測できる。このことは、医療の安全に関する教育研修の必要性が問われることにもなる。

3.看護基礎教育における「安全教育」の実態
各学校養成所941校中426校〔45.3%〕(有効回収数)における看護・医療事故にかかわる調査結果1)

1)「安全文化の醸成とカリキュラムの考え方」
「判断に関する能力の教育についての教員の認識と教育の実態」
「看護の倫理の教育についての教員の認識と教育の実態」について

@安全文化の醸成はされつつあるが、具体的にカリキュラムまで反映されていない。

A判断に関する能力については、いずれの課程(大学、短大、養成所)も「評価する能力」は、卒業時到達困難とは思われていない。「批判的に思考する能力」「発言・主張する能力」「優先度を決定する能力」は、卒業時において到達困難と認識されていた。

B倫理に関する能力については、「情報提供ができる能力」「人権を譲り代弁する能力」「有益性、危険性を説明する能力」が、卒業時おいて到達困難と認識されていた。

C医療事故予防の教育の教授・学習方法は「講義」が中心であった。

2)看護・医療事故予防の観点から、看護技術教育の実態
@臨地実習における診療の補助技術の学習において、「実施」を求める学校の役割は、内服薬や坐薬の与薬で7割、注射が2〜3割であり、「検査・処置」では、「酸素・薬液吸入」「浣腸」「経管栄養の接続・注入」が7割であった。
課程別に比較すると、「導尿」「膀胱洗浄」において顕著な差が見られ、3年課程および2年課程で「実施」を求める傾向にあったが、大学では少なかった。

Aエラー要因に関する教育としては、「与薬」「転倒・転落」のエラー要因について9割を超える学校で教授されていた。方法は、「講義」が9割を占め、「臨地実習」が4割、「演習−思考訓練」「演習−疑似体験」は2〜4割にとどまり、その教材は「市販のテキスト」が8割を占め、「事例」が4割、「学習者の体験事例」が3割であった。

B看護技術教育における看護・医療事故の予防に関する各校の取り組みは、多岐にわたっていた。臨地実習では、事故を起こすことを避け、「見学」に切り替える傾向にある。
技術習得面では、看護技術の到達度を見直し、指導やテスト等の機会を増やし、技術の個別指導を強化しようとしていた。

看護基礎教育においては看護・医療事故予防に関する教育方法は「講義」が中心で、思考訓練や類似体験が少ないという実態が明らかになった。このような教育方法では、事故を起こさないようにという「注意」と「動機づけ」に終始し、看護学生にとって看護・医療事故防止に向けた効果的な行動の変容が期待できないという問題点が取り出された。

4.看護・医療事故予防のための看護基礎教育の問題点の整理
1)学校養成所の教育目標から教授する内容が、看護・医療事故予防をするための学習上の経験のまとまりとして継続的ではなかった。
2)看護・医療事故予防ができる総合的な能力とは何かが明確になっていなかった。
3)安全を主にした看護技術教育において教材観が「事故は起こさない」という視点であった。
4)事故予防の教育の必要性は認識されているが、教育目標レベルで位置づけている学校養成所は少なかった。

5.看護・医療事故予防のための看護基礎教育の取り組み
1)看護・医療事故予防の能力育成のためのカリキュラム開発は急務である。
各校で開発することは重要で意味があると思うが、すでに開発された報告書1)を活用する方法もある。
具体的内容は各学校養成所の実情に応じて設定していくとよいと考える。
(1)看護・医療事故予防にかかわるカリキュラム構築の基本的な考え方
報告書1)の実態調査より明らかになった事故予防教育の必要性は、認識はされているが、教育目標に位置付けている学校養成所は少なかった。

(2)看護・医療事故防止育成のための教育目標の設定


基礎看護学齋藤悦子私案
<教育実践>
今日の変化する社会情勢のニーズに対応できる看護職の育成が必要である。科学的な思考力と倫理的判断力を基盤にした看護実践能力と看護を創造、発展させる可能性を求める。

看護基礎教育目標
1)看護実践能力とは、あらゆる健康の段階と成長発達段階にある対象に、人間を理解する努力の継続と人間関係を基盤に専門的技術を提供する。
2)専門的知識に基づいた問題解決能力の育成。
3)看護・医療事故防止対策(安全)の視点を基盤に、患者中心の看護を展開する。
4)保健・医療・福祉チームにおいて看護の役割を果す。
5)将来さらに専門性を深めていく基礎的能力の育成。

1)から5)について基礎看護学の範囲で取り組みたい目標
@専門科目の土台である基礎看護学で人間、健康、環境、看護、について学習し看護を学問として追求していく姿勢を育む。
A看護・医療事故防止(安全)を視野に入れた看護の機能と役割を理解する。
B科学的根拠に基ずいた看護基本技術を安全を基盤にして提供する。
C「看護過程」を活用した問題解決技法の基礎を習得する。

いずれにしても基礎看護学は各領域別看護学への関連から到達度、教育内容の精選と教育方法の工夫をする。また臨地実習を最初に体験する基礎看護学実習では、実習の受け入れ施設との連携を密にする。

わたくしの取り組みの基本
ステップ1
   人のまず感じるこころ、感じる力(感性)をひきだす。
ステップ2
   人は感じたら考えるそこから考える力(思考)をひきだす。
ステップ3
   考えたことを整理し表現する力(行動)をひきだす。

それぞれのステップを意識して、エビデンス(事実・根拠)とナラティブ(物語・関係ずけ)を互いに補完しあうことを看護基礎教育へ取り入れる。例えば患者や医療従事者に対する「教育」においてナラティブ(物語・関係づけ)は
@多くの場合印象深く忘れ難い
A体験に根拠をおく(失敗体験に着目する)
B内省を強く促す効果がある。

これらを今後は、エビデンスを「エビデンス・ベイスト・ナーシング」とナラティブを「ナラティブ・ベイスト・ナーシング」として位置付けることで人間理解を深め、さらに内省的、考察的思考に発展させ安全教育につなげたい。
看護基礎教育における安全教育を推進するためには、教育内容の明確化と教育方法の開発の必然性から報告書1)のカリキュラムの構築の基本的な考え方を紹介した。次に、教育目標に決定した私案を述べてきた。

2)医療の安全に関する国家試験出題基準等での位置付
国家試験の出題基準は、教育のあり方を束縛するものではないとされている。
平成11年に出題基準が提示されて以降、看護師の国家試験は机上の知識でなく看護は実践であることを意識させられる問題提出の傾向となってきている。
平成14年第91回看護師国家試験では、医療事故防止の視点での看護師の役割を意図した出題があった。また中項目から関連する科目の知識を統合して出題されるようになり、合格率は例年に対し低く難易度の高い問題であった。平成15年第92回では、初年度のように小項目から出題され、基本的問題が多く難易度の高い問題は限られていた。
出題基準は社会の要請に応じられる看護職に必要な知識の範囲(例えば、医療の安全に関する事項)およびレベルを確保でき、出題者にとっては出題の質を同一に保つことに役立ち、学生にとっては到達すべき目標となるような出題基準に見直される必要がある。

平成16年4度の看護師国家試験からは、必修問題が導入されることになった。必修問題の内容の本柱のうち、第1は以下の内容である。このことに期待したい。

@看護の社会的側面および倫理的側面に関する問題
看護の社会的側面および倫理的側面の基本的理解を問う。例えば医療・看護制度、インフォームド・コンセントと患者・障害者の自己決定、医療事故などや、看護師の法的責任及び患者・障害者の人権擁護等の責務が含まれる。

A B C 略

3)看護基礎教育と卒業後の現状教育との連携
安全に関する看護基礎教育と卒業後の現任教育を効果的に行うためには、相互に教育内容について定期的に情報交換を行うことが重要である。また、看護基礎教育を担当する教員は臨床現場における最新の技術や知識を学ぶとともに、そこでの複雑な業務の流れについても常に把握し教育に活かすことである。
このことは、定期的に看護基礎教育担当者が一定期間臨床に身を置き、看護実践することを制度化することを提言したい。
また、卒業後の現任教育の内容は病院による格差が大きい。臨床実践能力は臨床家として総合的な能力が必要になることから、新卒者の臨床研修の制度化が望まれる。
おわりに
患者の「安全」を確保することは医療の実践の場における最優先事項であり、これを保障していくことは看護職の義務であり責任である。卒業後の看護研修と併せて看護基礎教育の資質の向上が迫られている。看護基礎教育の終了時における看護・医療の事故防止の知識・技術・そして看護倫理についての到達を明らかにする必要性を述べてきた。各学校で事故防止の観点からカリキュラムの編成と、ともに看護教員が事故防止に関する知識・技術・教育方法を身に付け看護・医療事故、リスクマネジメントを専門領域とする教員の育成が急がれる。

文献1) 丸山美知子他「看護・医療における事故防止のための看護基礎教育に関する研究」
厚生科学研究事業報告書2001


 
特別講演要旨 「医療事故防止教育に求められるもの
〜看護師の卒前―卒後の医療事故防止教育のあり方と課題〜」
杏林大学保健学部
川村治子

はじめに
塩化カリウムの静注による死亡事故など新人看護師による重大事故が報道され、新人の医療事故防止対策の重要性が指摘されている。今日在院日数の短縮への政策誘導もあって、医療現場の業務密度はかつてと比べようもないほど高まっており、新人問題は、ひとり新人にとどまらず、新人を迎える側にも負荷をかけ、経験者のエラーをも誘発しかねない。有効で、かつ現実的な卒前―卒後の医療事故防止教育システムの構築は最優先に取り組むべき課題である。そこで、3つの研究から看護師の卒前―卒後の医療事故防止教育のあり方と課題について検討した。

1. 新人の注射エラーの分析から求められる注射事故防止教育のあり方
看護の注射のヒヤリ・ハット事例のうち卒後2年以内の事例(856/2,762事例=31.0%)から、注射業務プロセスにおけるエラーの具体的内容とエラーの背景に存在する認知・行動特性を明らかにし、注射事故防止教育のあり方について検討した。

1)注射業務プロセスにおけるエラー内容からみた求められる具体的知識・技術習得すべき知識としては、@医師の指示を正しく受ける、わからない指示をわからないと認識できる、緊急時の口頭指示を正しく受けるための知識(指示受け)A貼付ラベルや添付文書から必要な情報を正しく読み取るための知識、「mg」で指示された薬剤を液として「ml」で正しく取り出すための換算の知識(準備)C投与方法、投与速度上危険な薬剤の知識(実施、観察)が重要と思われた。
また、修得すべき看護技術としては、@口頭指示受け時の復唱、施注時の発声(指示受け) A1患者単位の混注作業技術(準備) B ・施注(点滴接続)時の患者名の確認(実施時) C ・複数ライン患者における投与ルートの確認(実施時)D ・速度設定と速度調節(実施時と観察時)E三方活栓操作(実施時)F輸液ポンプ操作(実施時と観察時)Gラインの接続部のはずれ、閉塞防止のチェック(観察時) が重要と思われた。

2)新人の認知・行動特性からみた求められる事故防止教育
新人の注射エラーの背景に存在する認知・行動特性として、以下の4点が重要と思われた。@知識・経験不足のために短絡的な思い込みを生じやすいことである。思い込みは印象に残る情報に左右されて修正は困難である。A不慣れな業務の技術への不安はきわめて大であるが、それと裏腹に体内に何かを注入すること自体や扱う薬剤の危険性への不安は少ないことである。そのことは、慣れて技術不安がなくなった時、薬剤の危険性を知らずに大胆に実施し、事故に発展する可能性を秘めていた。技術習得と同時、ないしは先行して薬剤の危険性の知識修得はきわめて重要と思われた。B結果や業務を優先し、辻褄合わせ的解決思考で行動することである。特徴的な事例として、朝△時に更新する予定の点滴が深夜帯の巡視時に遅れているのを発見した時に、遅れをとりもどすべく安易に滴下速度を速め、1時間後に観察するとすでに落ちきっていたといった事例が多かった。なぜ、速度変化が生じたのか、速度を速めてもよい薬剤なのか、速めてもよい患者の病態かという思考はない。こうした安易な辻褄合わせ的な解決が、時に重大事故に発展する可能性秘めていた。C新人は当然緊張や時間切迫など負荷への耐性が低い。特に同時に異質の業務が発生すると、不慣れな業務の方に注意を奪われ、もう一方の業務の完全忘れがおきやすいことである。
こうした新人の認知・行動特性を想定して、有効な教育方法を工夫する必要がある。また、危険行為・知識の教育にはなぜしてはならないのか、なぜ危険なのかを理解させることが重要と思われた。

2.新卒看護師約2千人への事故防止知識・技術の習得に関する調査
12年度に注射を中心に事故防止上習得しておくべき知識・技術100項目を選定し、300床以上の急性期病院に勤務する就職後11ヶ月の新卒看護師約2千名を対象として、調査時と就職時の習得者割合を調査した。就職時の習得者割合は5項目を除いて極めて低く、看護基礎教育で実務的知識・技術教育の不足が明らかになった。さらに調査時においてもまだ、カリウム製剤や救急薬剤など危険薬剤の知識を持っていた看護師の割合は25%〜40%と低く、技術に比べて危険薬剤の知識修得が遅れていることが明らかになった。また、すでに習得していた者に習得時期を尋ねたところ、ほとんどが臨床実践の中で習得されており、就職直後の集合教育もこれらの習得に有効に機能していないことが明らかになった。

3.看護基礎教育における医療事故防止教育の現状〜39校の調査より〜14年度に39校の医療事故防止教育の現状を調査した。事故防止教育としてカリキュラムに組込んでいた教育施設は64%であったが、独立科目としての実施施設は5%であった。多くの施設が、臨床感覚の疎い1学年と2学年の「基礎看護」科目の中で教えており、危険な診療の補助業務における実務的知識の教育は不十分であった。また、看護基礎教育で一般的に使用されるテキストにおける事故防止の記述も実務的には不十分であった。

4.卒前-卒後の医療安全教育の課題
以上、1〜3の研究結果より、卒前-卒後の医療事故防止教育の課題として、@卒前の看護基礎教育においては科目組み込みの教育では限界があり、独立科目として総論、各論(危険な診療の補助業務)からなる医療事故防止教育のカリキュラム構築が必要であることA教えるべき知識・技術の具体的内容を臨床現場のエラーから明らかにし、実務に照らしたリスクの認識と知識・技術教育が行うことBそれらを卒前―卒後でのどう役割分担、協調するかを明らかにすることC教育をより有効なものにするための教育ツールや教育方法を開発(特に現場を模した技術教育が可能にする教育ツールの開発)することDどこの教育施設でもある一定水準の事故防止教育を可能にするための教育の標準化と教育評価方法を検討することE医療事故防止教育にかかわる教員、実習指導者、プリセプターナースをきちんと育成することの6点が重要と思われた。
 
 
シンポジウム安全に関する医療従事者の教育・研修
市民や医療被害者から学ぶ教育・研修
医療情報の公開・開示を求める市民の会事務局長
全国薬害被害者団体連絡協議会副代表世話人
陣痛促進剤による被害を考える会世話人
勝村久司

<はじめに>
医療の安全のためには、社会全体がもっともっと素直に「被害から学ぶ」ということを実践していくべきだと思います。被害者たちが自らの裁判を終えても医療を改革するための市民運動等を続けなければいけない理由は、現状のままでは同じような被害が繰り返されてしまう危惧を抱いているからに他なりません。
ところがこれまでの医療の安全のための施策や教育の議論は、薬害の歴史や医療被害の現実とは一線を画してすすめられてきてしまった感があります。

<被害者が語る薬害教育>
2003年9月8日付の朝日新聞に「薬害の実態、被害者に学べ講義計画の国立大4倍増」という見出しの記事が掲載されました。
「薬害の被害者を講師に招き、原因や被害の実態を医師の卵に学ばせる――。こんな薬害講義を計画する国立大医学部が来年度以降は27大学と、今年度の7大学から4倍近くに増えることが文部科学省の調査でわかった。薬害被害者の視点に立った医学教育実現への動きだが、文科省は「まだ十分とは言えない。今後も薬害に関する教育の充実を働きかける」という。・・・」
これは、厚生労働省の前庭に、薬害根絶「誓いの碑」が建立された1999年秋に結成された「全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)」が、5年にわたって、文部科学省と交渉してきた成果の一つでした。
「子どもたちを薬害の被害者にも加害者にもしたくない。小・中・高で、薬害の歴史や薬害再発防止に寄与する教育の充実を」「医療従事者になるための大学専門教育においては、薬害について、薬理学などの医学的な観点だけでなく、医療倫理学や社会学および人権学習的な観点からも学習してほしい」という思いで始まった文科省交渉も、当初は官僚が薬害と薬物濫用を取り違えて発言するなど前途多難でした。それでも、2002年3月25日の薬害ヤコブ病の被害者らと国及び被告企業らとの間で交わされた和解確認書にも「我が国で医薬品等による悲惨な被害が多発していることを重視し、その発生を防止するため、医学、歯学、薬学、看護学部等の教育の中で過去の事件等を取り上げるなどして医薬品等の安全性に対する関心が高められるよう努めるものとする」という一文が銘記され、次第に文科省の姿勢も変わり始めました。そして、この年の交渉で、「高等教育において、将来医療従事者になる学生が、薬害被害者の意見・体験を直接聞くことは悲惨な薬害を繰り返さないためにも、貴重な体験につながると考えられる。(中略)文部科学省として主体的に、そのようなことが推進されるための具体的な取り組みをされたい」という要望を出し、文科省が、全国の国立大学に薬害教育の充実を求めると共に、アンケートを実施した結果が、冒頭の新聞記事の報道となったのです。
こうして広がりつつある、被害者による講演に参加した受講者の感想文は、どれを読んでも改めてこの取り組みの必要を確信するに至るものばかりです。薬害や医療被害を繰り返さないためには被害から学ぶことが出発点ですが、これまでの医学教育には被害者の話を聞こうという発想がありませんでした。被害者はだれよりも真剣に薬害の再発防止策を考えているのであり、その思いや意見をぜひ医学・看護学・薬学教育に生かしてほしいと願います。

<10年目の命日の職員研修>
私の妻は、一人目の子どものお産の際、医療被害に遭いました。子どもは不必要な陣痛促進剤の過剰投与によって過強陣痛に襲われた上、十分な監視もされず放置されたため、低酸素脳症で仮死となり生後9日目に亡くなりました。
このときの主治医は、公立病院の副院長でしたが、周囲の医療者たちは、全て副院長の言うがままでした。どれだけ妊婦が苦しみを訴えていても、「陣痛促進剤追加!」と指示されれば注射し、「子宮口が全開するまで放っておけ」と指示されれば、何もせずに、妻を叱りつけるだけで、最も若い看護師が、苦しむ妻の真空パック状のお腹を見て「こんなに張りっぱなしやったん!」と大きな声で叫ぶまで、胎児のモニターさえしていませんでした。事故後の入院中には、ある看護師が「お気の毒に。私はここの病院では絶対に産まない。事故が多いから」と小さな声で言ったこともありました。
多くの公立病院の医師は一つの出身大学で固められ、その大学の医局が人事権を握って封建的な人間関係を作ってきました。医局の教授の医療の仕方に「右に倣え」が常識で、医師も助産師・看護師も、自分の意見を言えない状況では、自ら学習する意欲も患者との情報交換をする必要もなくなってしまいます。患者側との関係を民主化していくためには、その前にまず、医療者たちの関係が健全にならなければいけません。
私たち夫婦は、裁判の勝訴確定後、被告側公立病院に対して医療内容の具体的な改善を求める要望を提出した際、病院の医療者たちのほとんどが、私たちの事故の事実経過さえ知らないままに、私たちの要望とは無関係に「再発防止に努めます」「リスクマネージメントのガイドラインを定めます」と話していることに気が付きました。
そこで私たち夫婦は、こどもの10年目の命日の日に、病院の職員研修で直接話をしました。私たちは、事実経過をできる限り客観的に話しただけでしたが、涙を流して聞いてくれる医療者もおり、それ以降初めて、その病院で、全国初の「例外のないカルテ開示」「市民による外部の医療事故防止監察委員会設置」「複数の大学医局による人事交流」などの私たちの要望が受け入れられていくようになりました。

<情報の共有が第一歩>
そもそも限られた人数のスタッフだけで、多くの患者に対する医療の安全を確保しようとするよりも、患者本人や家族にもチーム医療の中に入ってもらうという発想が大切だと思います。回診の時に家族を外に出したり、立ち会い分娩を認めない等はもってのほかだと思います。家族や本人しか知らない、または家族や本人だからこそ知っている情報が、診断や医療行為の誤りを避ける場合が十分に考えられます。
大切なことは、「患者と共に」ミスを減らす努力を展開していこうとする姿勢です。チーム医療で、医療スタッフが情報を共有するように、患者も同じ情報を共有していくためには、カルテ等の診療情報の開示にしっかりと取り組まなければいけません。医療者側が、パターナリズムを維持するために患者との情報共有に及び腰である内は、事故が繰り返されるでしょう。医療者にとっては、自分たちが情報を提供するだけでなく、逆に患者側から情報提供を受ける可能性にも謙虚に準備しておくことこそが、真のチーム医療の実現であり、真のリスクマネージメントと呼べるのではないでしょうか。
また、患者にとって良い医療を、と考えると赤字になり、黒字にするためには患者を犠牲にしなければいけない。そのような不合理が起こるのは、診療報酬の単価が不健全なせいです。助産や看護や介護など、患者や市民が価値が高いと思う医療行為の単価が安く設定され、検査漬け・薬漬け・手術漬けにするほど、収入が増える仕組みになっています。
医療事故防止の具体的対策に対しても、患者サイドから見れば高い価値があるにもかかわらず、健全な単価(価値)が付けられていない現状があると思います。健全な診療報酬の単価に変えていくためには、全ての国民に、いかに医療の価値観(単価)が不自然で不健全であるかを知らせる必要があります。そのために必要なのは医療の単価が全て書かれたレセプト開示の促進です。
単価の価値観が変わらない限り、この10年間がそうであったように、医療費の総額がどれだけ増えても、赤字の医療機関は赤字のままなのです。

<真の人権教育を>
医療の安全のための教育はが、抽象的に「良心的な医療者を育てる」「正しい知識を持った医療者を育てる」ということを言っていても変わらないでしょう。また、模擬患者によるコミュニケーション術やヒヤリハットからのリスクマネージメント術等のマニュアルだけを目標にしていても、やはり薬害や医療被害が繰り返される本質の改善にはつながらないと思います。
人間を相手にする仕事に就く者として、被害の歴史を知り、被害の体験の重さを知り、被害の背景の本質を掴み、真に患者や市民の人格を尊重し情報共有に勤めることができる、患者や他の医療者と共に健全で民主的な人間関係や社会を作る意志を持つ。そのような決意を抱くに至るだけの、真の人権教育がなされていかなければいけないと思います。
また、「被害の事実を知り、そこから学ぶ」ことは、単なる人権教育や倫理教育ではなく、真に科学的な教育でもあると思います。

(参考文献)
1)勝村久司著:「ぼくの『星の王子さま』へ」〜医療裁判10年の記録〜(発行:メディアワークス/発売:角川書店)2001
2)勝村久司編著:「レセプト開示で不正医療を見破ろう!」〜医療費3割負担時代の自己防衛術(小学館文庫)2002
3)勝村久司著:「患者と医療者のためのカルテ開示Q&A」(岩波ブックレット)2002


かつむらひさし(http://homepage1.nifty.com/hkr/ )

 
シンポジウム安全に関する医療従事者の教育・研修
卒後初期研修必修化における安全管理
―研修医の視点より見つめた医療の安全―
熊本大学医学部付属病院総合診療部
早野恵子
 
はじめに:
2004年より卒後初期研修必修化が始まり、研修医が大学病院、公立・私立病院で各科をローテーションしつつ、研修をすることになりました。このため、研修医はより多くの患者さんと医療現場で接することができるようになり幅広く偏らない臨床研修が可能になるという利点がある一方、研修医の医療ミスや医療事故への対策、医療チームや組織の抱える医療の安全管理上の問題点や患者さんの安全を守るための方策を調査し、対策を検討する必要が生じてきました。熊本大学付属病院でも、危機感理部門(リスクマネジメント)の設置とそれにともなうリスクマネージャーの任用や、インシデントレポートシステムの導入などにより定期的に検討が行われ、院内への報告もされていますが、研修医の視点による提言は現時点ではほとんど見られず、反映される場やシステムもない状況です。このため研修医による現場の声をアンケート調査により聞いてみたいと思いました。

目的:
エラーを減らすのは患者さんのためであり、患者さんに常に寄り添う研修医の先生の視点が不可欠だと思います。そして、医療現場の人々は研修医に教育的配慮を持ち同時に支援的であるべきだと思いますが、そのための具体的な対策が肝要だと思います。研修医の立場を良く理解し、研修医や指導医の皆さんが受け入れやすく実行可能な安全対策を考えるために、医療現場のことをアンケート調査や文献により考えてみたいと思います。

方法:
Patient safety: Residents' Suggestions for Reducing Errors in Teaching Hospitals (NEJM, Vol 348, No9 February 27, 2003)というレジデントからの提言に基づき、研修医の視点より見つめた医療の安全に関するアンケートを作成しました。このアンケートは@研修医・指導医の背景と研修の現状についての質問A医療現場の安全に関する質問B医療ミスや医療事故の経験・告知・対策についての質問C医療の安全文化に関する質問と提言から構成されています。現在実施中ですが、研修医が多忙なため記入・回収の問題、大学病院でのアンケートの施行の許可の困難性等の問題があり外部の病院への協力も依頼しています。

結果:
アンケートの回収後、研修医の現場の声を分析してみたいと思いますが、熊本市内のある公的病院の
年目の研修医名のアンケートの分析では、以下のような結果でした。1,2 22
@男性名、女性名。卒後年目名。卒後1年目: 名。19 3 2 16 6
A受持患者数平均6.2人( 0-13人)単独で診療5名(22.7%)、2人以上で診療9名(40.9% )
B1週間の勤務時間:平日14.0時間、休日5.6時間、当直回数月平均 1.4日( 0-6 日)(院外での当直は1名のみ)
C睡眠時間:1日平均5.7時間、週平均40.4時間。
D勤務中の疲労による居眠りは81.8%が経験。体調が悪いときに休めるのは1人。45%は休みが取れない。50%が場合による。
E医療ミスへの不安は95%が感じ、とても不安23%、やや不安36%、少し不安41%、不安なし0%でした。
F 55%が医療の安全上困っていると答え、1.処方の問題(31.8%)、2.診療録の文字が読めない(31.8%)、3.物品の場所がわからない(18%)、4.頻回の呼び出しによる仕事の中断 18%等でした。
G医療ミスや事故に気づいたときは上司や指導医、所属科の医師に100%すぐに相談・報告できると答えています。
H研修医の86%が医療事故の報告についての教育は受けたことがなく、
Iニアミスへの遭遇は 73%であり、医療ミスまたは事故への遭遇は18%(4名)でした。
J医療ミスや事故に関しては1. 81.8% が患者に不利益があった場合にのみ伝える、2.22.7% がどんな小さなミスでも伝えると回答しています。
Kその結果、95.4%が患者の不利益の程度により罰せられたり不利益をこうむることがあると感じており、13.6%は常にそうであると感じている。
L医療ミス・事故防止のために研修医自身が実行している対策は、1.賠償保険への加入68.1%、2.診療録への正確な記載54.5% 、3.ACLSなどの蘇生訓練への参加 50%、 4. 医療ミス・事故の報告45.4% 5. 明確な指示・申し送り27.2%などでした。
M医療ミス・事故防止あるいは起こしたときに研修医が望む支援は1.医療ミスを起こしたときの相談・支援・再教育システム68.1% 、2.手技のトレーニング、勤務時間の改善、職場環境の整備がそれぞれ50%、5.防止のための講習会40.9%、6.報告システムの改善31.8%でし,た。
N職場の安全文化が確立されているかの質問には1.十分確立0%、2.やや確立36.3%、3.少し確立50%、4.全く確立されていない4.9%でした。

Patient safetyの文献(米国のレジデント)における医療現場への提言は、
@進歩したテクノロジーを用いること、すなわち、ページング(ポケットベル)による呼び出しの表示を緊急、急ぐ問題、ルーチンの問題に分けることにより仕事の中断による医療ミスを防止し、仕事の効率や患者さんのケアの充実をはかること。コンピュータを用いる申し送りによって、文字の判読が困難であるためのエラーを減少し、当直医の患者さんの最新の状態の把握を容易にする、コンピュータの支援による投薬ミスの減少をはかることなど。
A職場環境の改善:睡眠時間の問題など。診療録や医療器具の配置を明確にすることにより探し物の時間の減少など。物品の配置をすべての病棟で同じシステムにして、探す時間の節約と使い慣れないことによるエラーを減少する。Bアカデミックな文化の変容(職場の安全文化の確立):エラーの報告システム、ミスや事故のあった手技のトレーニングができるシステム、リーダーシップと医療チームのコミュニケーションや現場における協力・支援のシステムなどでした。
アンケートの結果や文献より、病院の組織的あるいは研修プログラムの全体的な取り組みも重要であるが、研修医による医療ミスの減少のためには研修医の視点から提案された問題提起や対応が重要であると思われました。

早野恵子(熊本大学医学部附属病院総合診療部)
860-8556 1-1-1 熊本市本荘
TEL:096-373-5770,FAX:096-373-5769
khayano@fc.kuh.kumamoto-u.ac.jp

 
シンポジウム安全に関する医療従事者の教育・研修
在宅推進に不可欠な安全教育
在宅看護研究センター 代表
村松静子

1.はじめに
高齢者の社会的入院が問題視され、住み慣れたわが家での生活が推進される一方において、入院期間がさらに短縮されてきている。入院期間の短縮や早期退院は、患者・家族だけではなく、在宅における看護機能についてもさまざまな影響を与え始めている。在宅での医療がますます高度化し、退院後も、医療器材を装着されたままでの生活が強いられる等、これまでにはなかったさまざまな問題が出現している。多くの国民は、病後も自分が生活してきた在宅で療養することを望んでいる。しかし、病院からの往診には限界があり、病院での治療を在宅でそのまま継続するにはいくつかの条件が必要となる。病院・診療所間の連携や継続看護が求められる中で、退院時の痛みのコントロールも十分とはいえず、また、夜間のケアはすべて家族に委ねられることになるため、直接介護する家族の心労は計り知れない。そのような状況下では、療養者も家族も心身共にゆとりがなくなり、それまでの生活がスムーズに流れなくなる。在宅には生活上の安全を阻害する因子がさまざまな形で潜んでいるのが実情である。ここでは、在宅現場の実情を明らかにし、そこでの安全教育の必要性についての私見を述べる。
2.今、在宅で何が起こっているか
1)入院短縮によって変わる現場の状況
筆者が所属する在宅看護研究センターは、今から21年前、ICUで救命されたものの遷延性昏睡に陥り、気管カニューレ・鼻腔経管栄養チューブ、尿留置カテーテルの装着を余儀なくされた中年女性の在宅看護から始まっている。そして、その後も医療行為を要するケースの在宅看護が増え続け、その必要性に関する年次比較をみると、1986年度の必要率は63%であったものが、1992年度には全体の77%になり、1996年度には84%となった。そこで1999年度からは、それまでの有料部門と新たの設置された保険適用部門での医療行為の必要率を比較してみると、そこには大きな差があることがわかった。

2)訪問看護ステーションの管理者及びスタッフに共通する悩み
筆者がかかわった訪問看護ステーションの管理者及びスタッフのアンケート調査から次のような事項が抽出されている。
・スタッフと同行訪問をする余裕がない
・体制的に一人にかかる負担が大きい
・常勤採用が少なく、スタッフの定着も悪く、安定したサービスが提供できない
・カンファレンスの時間がとれない
・スタッフに仕事に追われているという思いがある
・必要性を感じるが、時間に追われて難しい
・業務が煩雑で、ミスを起こすのではないかと不安になる

昨年、ヘルパーによるALS患者に限っての吸引と看護師による静脈注射の実施が解禁された。実際に全国の訪問看護ステーションでの活動をみても、訪問看護師には医療行為を求められるケースが明らかに増えてきている。今後は余裕のない中で、さらに種々の医療機器の導入も考えられ、そこでの医療事故の発生も予測される。

3.在宅で起こっている事故
医療技術の進歩に伴い、医療事故による裁判が続出している。そんな中で、さまざまな医療器材を装着したまま退院や外泊をする患者が増えている。そして在宅でも、次のような事故につながりそうな状況や明らかに事故につながる状況、さらには思いがけない出来事が起こっている。

1)薬物の取り扱い
薬物に関する事故や事件が相次いでおり、その中で特に多いのが「同姓や似た名前の患者を混同した」「形や名称が似た薬剤の確認ミス」の2つといわれている。幸い、在宅の場では、患者の混同はあり得ない。しかし、保管の仕方によっては、家族が服用中の薬と混同するということは起こり得る。

2) 感染防止
医療廃棄物の問題や院内感染の問題が、改めてクローズアップされているなかで、在宅ケアは確実に進んでいる。病院は清潔な場所、より安全な場所とされている一方で、再入院した際にMRSAに感染し、退院後もその治療を余儀なくされている療養者が目立つ。在宅の場においても、感染症対策は重要なことなのである。

3) 転倒・転落予防
在宅の場合、病院内の環境と異なり、室内には段差のほか、いろいろな生活物品がある。階段の高さや幅もさまざまである。看護師は一人で訪問することが多いため、移動時の介助が看護師一人に委ねられる。そこでの事故は「看護過誤」につながる可能性も高い。
「看護事故」については、次の4点に分類されている。
(1)人体への損傷に関すること
(2)医療機器・薬剤に関すること
(3)物品の破損や汚染に関すること
(4)コミュニケーション不足に関すること

4.おわりに
在宅では、事故につながりそうな状況や明らかに事故につながる状況、さらには思いがけない出来事が増えている。在宅看護において起こり得る「事故」については、「医療事故」と「看護事故」に分類して考えることができる。
医療の範疇に属する看護師には、その発展に伴い、高度で主体的な判断能力が要求される。さらに、相手の心を重視した説明につながるコミュニケーション能力も要求されていくことになる。
シンポジウム安全に関する医療従事者の教育・研修
やっと考え方が変わった薬学教育
名城大学薬学部
松葉和久

薬学教育≠薬剤師教育
薬剤師は,調剤,医薬品の供給その他薬事衛生を掌ることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与しもって国民の健康な生活を確保するものとすると定義されている(薬剤師法第1条)。この定義から薬剤師の仕事は,調剤と医薬品管理、衛生管理と理解される。しかし,医療法(平成4年改正)では,薬剤師も医師,歯科医師,看護師とともに「医療の担い手」として医療人であると明記され,前記以上の貢献が期待されている。
通常,薬学教育者は薬学教育と薬剤師教育は違うもので,薬科大学(薬学部)は研究・教育を行うのであって,職能人養成の専門学校ではないという。薬学教育の大部分が創薬(薬つくり)をめざしたサイエンスであり,研究者,製薬技術者育成に偏っており、医療に従事する薬剤師教育は極めてマイナーな状況にあった。医療分野で活躍する多くの薬剤師は卒後自ら学ぶことによって対応してきたといえる。

医療教育を是正から教育年限延長へ
医療の複雑化・高度化は,改めて医療現場で有用な薬剤師を必要としているが、教育の現実はそのニーズから乖離し,研究指向からの脱皮は程遠い状態であった。
昭和61年(1986 )に教育者を主体として構成された薬学協議会の「薬学教育の教科内容と就業年限に関する専門委員会」は、今後追加する教科目の例示として,医療薬学実地研修を挙げ,基礎薬学専門教科終了後,大学院修士課程で履修することがふさわしい,と答申,さらに翌年に,文部省の薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議は「薬学教育の改善」(中間報告,翌年に最終のまとめ)をまとめ,「医療の現場において薬剤師の果たすべき職責の重要性及び医療薬学への教育の不十分であったことを踏まえ,医療薬学の充実を図る・・・として,病院や薬局での実務実習については当面,通常2週間から1ヶ月程度を目標とするとして公的に薬剤師教育の必要性を認めるまとめを公表した。その後,文部科学省,厚生労働省,国公・私立薬科大学,日本薬剤師会・病院薬剤師会の6者からなる薬剤師養成問題懇話会(六者懇)に,日本薬学会がまとめたモデルカリキュラム案が提示された。また,厚労省は「薬剤師養成に関する今後の方向性」として,医療重視の教育を2年の延長を踏まえて提案した(2002年5月)が,同月,衆院厚生労働委員会で文科省池坊保子政務官は「現時点では6年制検討以前の問題として4年制の中で,実務実習の環境整備など薬剤師養成充実を図る必要がある。年限延長には様々な選択肢を検討しなければならない。」と答弁,同年6月には,同委員会で,坂口厚労大臣は,「薬学教育6年制の必要性を認める」と答弁,また,宮島医薬局長は「国家試験受験資格について長期実務実習を含む6年の教育を修めた者に付与することをベースに検討し,今年度内に結論を出したい」とした。薬学教育から薬剤師教育への移行は,薬学4年制教育から6年制への延長問題へ焦点が移った。

医療重視のカリキュラムへ
国公立大学,私立薬科大学のそれぞれで検討していた薬学教育新カリキュラム案は、日本薬学会によって「社会のニーズ」を踏まえて統合された。本案のまえがきによれば,@信頼される薬剤師と良質な薬学研究者を遅滞なく養成すること,A教員主体から学習者主体の教育へ、B知識教育に加え、技能・態度教育をその理念としている。アメリカの薬剤師職能教育を柱としたと薬科大学の教育とは異なり,日本の薬学教育は「研究者養成」に重きを置いた歴史がある。新カリキュラムでも技能教育と並列しなければならない点に,今後の薬剤師教育の大きな障害・困難性が感じられる。しかし,新しいカリキュラムが大きく前進したことには間違いはない。2週間から1ヶ月の実習を3ないし6ヶ月まで増えていることは,医療関連教科目を重視するとともに,技能・態度教育重視,すなわち実務教育の象徴である現場実習重視の姿勢を読むことができる。現場を体験することで薬剤師に何が求められているか,何ができるか、体験から学生は考える機会をもつ。
米国でも年1945代の薬剤師の基本的倫理は「医師の忠実なメイドであれ」であった。半世紀後の今日の米国の薬剤師は、医師と薬物療法をともに考え、より専門的に支援するまでに成長している。日本では今,医療の質の向上に貢献できる一歩を踏み出したところである。
新カリキュラムは,「医療現場での実習の一般目標に常に患者の存在を念頭におき,倫理観を持ち,・・・並びに医療の担い手としてふさわしい態度を修得する」とし,「患者とのかかわり」学習には,つぎの2点を目標に掲げている:@患者にとって薬に関する窓口である薬剤師の果たすべき役割を討議し,その重要性を感じとる,A患者の健康の回復と維持に薬剤師が積極的に貢献することの重要性を討議する。
「患者の気持ちへの配慮」に関しては,全学年をとおした学習として,またつぎのような到達目標を掲げている:@病気が患者に及ぼす心理的影響について説明できる,A患者の心理状態を把握し,配慮する,B患者やその家族の心理状態を把握し,配慮する,C患者やその家族の持つ価値観が多様であることを認識,柔軟に対応できるよう努力する,D不自由体験などの体験学習を通し,患者の気持ちについて討議する。

医療の安全教育
また,医療の安全教育も新カリキュラムは明確にした。一般目標として「薬剤師業務が人命にかかわる仕事であることを認識し,患者が被る危険を回避できるようになるために,医薬品の副作用,調剤上の危険因子とその対策,院内感染などに関する基本的知識、技能、態度を修得する。」とし,到達目標に下記のような項目を列挙している:
1 起こりやすい事故例を列挙その原因を説明できる
2 誤りを生じやすい調剤例を列挙、調剤できる
3 誤りを生じやすい投薬例を列挙できる
4 院内感染の回避方法について説明できる
5 リスクを回避するための具体策を提案する
医療に貢献する薬剤師を養成する教育はこれから始まる。真に有用な医療に貢献する薬剤師を養成するためには,今後,多くの医療人の助言を必要としている。
シンポジウム安全に関する医療従事者の教育・研修
臨床工学技士の担う現任教育
国立名古屋病院臨床工学室
林裕樹

T.はじめに
昨今、全国各地において医療機器に起因する事故が続発しTVニュースや新聞報道などを賑わしている。それらの原因や背景はさまざまであって広い範囲にわたっているが、内容的には医療機器や医療材料の不適正使用や整備不良などの不具合が原因となっていることほとんどである。これらが起因となる事故の多くは医師、看護師をはじめとする医療従事者にたいする医療機器や医療材料への教育と実践(実習)が十分に行われていれば事前に防止出来たこともあるのではないかと推測される。
しかし多くの医療機関においては、医療機器や医療材料への教育と実践、また安全性情報の収集、提供がおこなわれていないのが現状であり、臨床工学技士がそれらの教育面に携わっているところも少ない。このような中で、臨床工学技士が病院内などで医療機器や医療材料への教育と実践へどのように取り組んでいるのかを述べたい。

U.これまでの取り組み
医療機関における安全対策については医療監視が中心で行われている。しかしその内容の中で医療機器や医療材料への安全対策については、あまり重要視されていないのが実情である。ここ最近になり、厚生労働省も医療安全対策検討会議を組織し医療事故予防策に取り組み始め、特定機能病院や臨床研修病院には「医療安全管理者」の設置が義務付けられ、医療法施行規則も一部改正された。
国立名古屋病院では臨床工学室にておいて、平成7年末より院内における全科共有機器と言われる人工呼吸器、輸液ポンプ、シリンジポンプなどを中央管理とした。また薬剤の審議を行う薬事委員会にて医療材料の審議を臨床工学技士が窓口となり、薬剤と同様に委員会にて審議、承認を行うシステムとした。これにより医師、看護師などの使用する医療材料についてはすべて、委員会承認がないと使用できなくなった。臨床工学技士はカタログ、取扱説明書、医療用具承認書などの資料収集、それに伴って医療機器、医療材料の安全性情報の収集も合わせて行い不具合発生時には製品の回収、交換、院内への安全性情報の提供を行う。リスクマネージメント面では、従来規程である医療事故防止委員会に医療機器、医療材料の側面より、平成11年9月から新たに構成メンバーとして組み入れられた。

V.教育活動の現状
臨床工学技士制度が発足し10年以上が経過しているが、臨床工学技士を雇用し組織として設置している病院はまだまだ少ない。医療機器、医療材料についての安全情報担当部署的なところも事務、薬剤部門がほとんどであり、病院内に臨床工学技士が居たとしても業務面はほとんどが臨床面における血液浄化、人工心肺業務などである。最近になり医療機器管理において経済的効果の観点より全科共有機器による中央管理、リスクマネージメント面での認識の変化より臨床工学部門の組織化が進んできている。それらの中で臨床工学技士が安全管理に必要な役割として、医師、看護師、その他のコ・メディカルへの教育活動として行っていることを述べる。

1.看護学生
1年次:病院で使用されるME機器と言われるものについての講義。
実際に作動しているところを見てみる。(実践)
2年次:臨床実習に出る前に病院設備についての講義。
電気(電撃)についての講義。
3年次:臨床実習(ICU、手術室内)でのME機器についての講義。
卒業前に2年次でのおこなったことの再講義。

2.看護師
就職時、新人オリエンテーションで人工呼吸器、除細動器、輸液ポンプ、シリンジポンプについて実践中心の講義。
4〜5ヶ月後に再度、人工呼吸器について講義と実習。
病棟別(診療科別)でME機器全般について講義と実習。
〜3年目6月頃にME機器全般について講義と実習。2
手術室においては手術時使用されるME機器について講義。
ICUなどにおいて血液浄化についての講義と実習。

3.医師
1年目研修医人工呼吸器、除細動器について講義と実習。
2年目研修医1年目の再復習、臨床での疑問点のディスカッション。
看護学生は学校指定の教科書、看護師は看護部作成のマニュアル、医師にいたっては臨床研修要綱が整備されている。しかしながら病院内で使用される医療機器、医療材料にいたっては年々増加し、日進月歩で研究開発されるため教科書、マニュアルなどにおいてはどうしても実際とは遅れてしまうことが多く見受けられる。特に看護師、医師では臨床重視のため臨床実習指導者も医療機器、医療材料への安全管理については二の次的となってしまう。最近になり、「医療安全管理者」設置の義務付けから、専任リスクマネージャーが設置され実践(実習)中心の教育カリキュラムが計画的に行われ、また、インシデントやアクシデント発生の際に安全情報の提供、トラブルシューティングの実践(実習)が行われるようになった。

W.おわりに
医療は高度化、専門化、多様化している。医療従事者の中でも看護師は医療事故に対する安全への認識も高く、新採用時そして就職後でも教育は計画的に行われている。しかし、診療科別における知識、技術の格差は日を追うごとに開くため、日頃あまりME機器を使用しないところへのフォローが重要となる。医師、事務職では安全意識は低く、医師では臨床実習が中心となるため医療機器、医療材料においてはなかなか目がむけられないのが現状であり、事務職においても医療監視で指摘されなければ良いという意識が強い。臨床工学技士は医師(診療部)、看護部、事務部など全体的なつながりも多いため、インシデントやアクシデントが起こる度、専任リスクマネージャーと安全教育を行っていく必要がある。今後は徐々に新規採用時、就職後の教育カリキュラムの見直し、また医師、看護師においては学校教育の中での取組みが重要である。臨床工学部門では、施設において部門を持ち、多くの技士を雇用しているところも少ないため幅広く教育を行っていくことの出来る環境整備が望まれる。
医療の安全に関する研究会理事会議事録

日時:平成15年6月14日午後1時から
場所:名古屋市立大学病院第3会議室
出席者:島田康弘、加藤良夫、松葉和久、酒井順哉、宮治 眞、吉田嘉宏、寺町教詞、斉藤悦子、田聖子
(委任状出席別紙のとおり)

1 会計報告
斉藤常任理事から別紙の通り報告、寺町監事からも監査報告をうけ、承認。

2 予算案
斉藤常任理事から別紙の通り提案
人件費25万円摘要欄研究大会事務受付および10周年記念事業準備
10周年記念事業準備費20万円
予備費1,004,980円と訂正のうえ承認

3 分科会活動報告
分科会の再編などについて議論
松葉常任理事が中心となって、薬に関する患者向けのパンフレットの作成の方向ですすめる
宮治常任理事が、医療制度と安全性についての企画書を作成する。

4 NPO法人化及び事務スタッフについて議論

5 研究大会
松葉常任理事が運営委員長となる
名城大学天白キャンパス共通講義棟101教室次回は村松常任理事にお願いできないか(12月4日が候補日)斉藤常任理事からご連絡する。

6 横浜での研究大会の報告書は、すでに2年近くたつため、柳田先生の原稿が届かなければ、やむなしとして発行する。

7 西監事には、留任をお願いする。




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