医療の安全に関する研究会
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「医療の安全に関する研究会」ニュース
Newsletter No.21
(2002.11. 15発行)
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巻頭言
第7回研究大会によせて
医療の安全に関する研究会
理事長 島田康弘
 第7回研究大会は11月30日に名城大学薬学部八事キャンパスで開催されます。今年は大会長の酒井順哉先生のすばらしいリーダーシップのもと、充実した大会となることを予感しております。
 今年の大会は「医療機器を安全に使うために」という主題で充実したプログラムが組まれました。シンポジウムでは医療機器を安全に使うためのシステムの問題が取り上げられています。今日の医療現場では数多くの医療機器が使用されていますが、これらは一歩間違うと患者さんの生命に危険をもたらすものとなります。それを安全に使うためにはもちろん一人一人の医療人が医療機器について学びそして注意して使うことが大切ですが、それだけでは決して安全は保証されません。事故の分析をしますとその裏に多くの組織的な問題が潜んでいることがわかります。そのようなことを医療人だけでなく患者さん、一般の人々とともに考えていきたいと思います。
今回は酒井先生のご発案でポスター発表という企画を設けました。これには今回8題の応募がありました。ポスターを前にして皆様方といろいろとディスカッションしたいと思います。また、安全に配慮した医療機器展示もあります。どうか楽しみにしてください。 皆様方と名古屋でお会いできるのを楽しみにいたしております。
(編集委員会)
もくじ
巻頭言
プログラム
大会長講演抄録 酒井順哉
特別講演抄録 秋山昌範
シンポジウム 司会 加藤良夫 10
東京都が取り組む医療機器の安全対策 平井政己 11
医薬品誤投与防止のためのチェックシステム 土屋文人 13
医療現場の安全をシステムでカバーするには 武澤 純 16
医療機器の安全管理に必要な臨床工学技士の役割 小野哲章 24
医療機器をナースが安全に使うにはどうするか 齋藤悦子 27
ポスター発表 31
総会議事録(会計報告・予算) 33

 
医療の安全に関する研究会
第7回研究大会 テーマ 「医療機器を安全に使うために」

日 時 2002年11月30日(土) 10:00〜17:40

場 所 名城大学薬学部 八事(やごと)キャンパス 情報メディア教室ほか
JR名古屋駅から地下鉄東山線「伏見」乗換、地下鉄鶴舞線で「八事」下車、1番出口から徒歩8分
プログラム
 9:30〜 受 付 (名城大学薬学部 6号館1階)

10:10〜10:15 開会の挨拶 島田康弘理事長(名古屋大学大学院医学研究科・教授)

10:15〜11:45 分科会報告とポスター発表(公募)
 
    《《《 昼食(医療機器展示)》》》

12:30〜13:00 大会長講演 酒井順哉(名城大学大学院都市情報学研究科・教授)
    司会 池田卓也(医療法人 生長会・顧問)
    「医療機関の医療事故防止体制の現状と今後の課題」

13:00〜14:00 特別講演 秋山昌範(国立国際医療センター内科/情報システム部長)
    司会 島田康弘(名古屋大学大学院医学研究科・教授)
     「EBM(根拠にもとづく医療)が病院を変える」

     《《《 休憩(医療機器展示 》》》

14:30〜17:30 シンポジウム「医療機器を安全に使うためのシステムとは」
    司会 加藤良夫(愛知大学法学部・教授)
    1) 東京都が取り組む医療機器の安全対策
        平井政己(東京都健康局食品医薬品安全部薬事監視課・課長補佐)
    2) 医薬品誤投与防止のためのチェックシステム
        土屋文人(東京医科歯科大学歯学部付属病院・薬剤部長)
    3) 医療現場の安全をシステムでカバーするには
        武澤 純(名古屋大学大学院医学研究科・教授)
    4) 医療機器の安全管理に必要な臨床工学技士の役割
        小野哲章(神奈川県立衛生短期大学・教授)
    5) 医療機器をナースが」安全に使うにはどうするか
        齋藤悦子(藤田保健衛生大学看護専門学校・校長)

17:30〜17:35 次期大会長挨拶 齋藤悦子

17:35〜17:40 閉会の辞 大会長 酒井順哉

 
大会長講演抄録
医療機関の医療事故防止体制の現状と今後の課題

名城大学大学院都市情報学研究科保健医療情報学・教授
酒井 順哉

1.はじめに
 近年、新聞・テレビで医療ミスがしばしば報道されているが、その多くは医療スタッフのヒューマンエラーであり、患者の取り違い、医薬品の誤薬、医療材料の誤操作・誤接続など、類似したミスが再発する傾向にある。しかし、医療事故が必ずしも医療スタッフにおける医療ミスではなく、中には極めて難しい症状改善に挑戦したが結果として重篤または死亡に至る場合も考えられる。
 いずれにせよ、症状改善を期待して医療機関を受診した患者にとって、不幸な結果が発生することは極めて遺憾である。
 一般に、医療事故原因は、医薬品や医療機器自体のロット不良や構造欠陥と、医療スタッフにおける不適正使用に大別できる。医薬品や医療機器自体のロット不良や構造欠陥は、製造業者の品質管理の強化、安全性の向上、わかりやすい取扱説明書の添付よって解決できる。一方、医療スタッフにおける不適正使用は、医療機関の医療事故防止体制の確立と医療現場における医療スタッフの安全意識の向上が重要である。
 特に、医療機関の医療事故防止体制には、患者が遭遇する様々なリスクに対して確実に対応できる診療業務マニュアルの整備と医療スタッフにおける安全の実践が必要である。
 厚生労働省は医療事故の増加が社会問題化している今日、平成13年を患者安全推進年とし、医療安全対策検討会議を設置し、総合的な医療安全対策に着手した。
 今回、厚生労働省の医療安全対策の動向とともに、医療機関の医療事故防止体制の実態について調査した結果から、今後の安全な医療実践の将来展望について考えてみよう。

2.厚生労働省の医療安全推進総合戦略
 厚生労働省は、平成14年4月17日、医療安全推進総合戦略として、医療安全対策検討会議(座長:森 亘・日本医学会会長)を組織し、国や医療機関、製薬企業などが講じるべき医療事故予防策を総合的に盛り込んだ「医療安全推進総合対策(医療事故を未然に防止するために)」をまとめた1)。その報告書には、患者の苦情、不満の受け皿として都道府県に医師などの専門家で組織する「医療安全相談センター(仮称)」を置くことや医療従事者の卒前、卒後教育を充実させることも要請するとともに、すべての病院と有床診療所に医療事故の院内報告制度や安全管理委員会の設置を義務づけ、医療従事者個人の責任にゆだねられがちだった医療安全対策に、関係者が総力をあげて取り組む姿勢を前面に押し出した。特に、特定機能病院や臨床研修病院には「医療安全管理者」や「患者相談窓ロ」の設置も義務づけられた。
 これを受け、平成14年8月30日には、「医療法施行規則の一部を改正する省令」(厚生労働省令第111号)が官報公示され、平成14年10月1日からすべて病院や有床診療所が医療安全対策のための体制を確保することが義務付けられた2)。
 具体的には
(1)安全管理のための指針を整備すること
(2)安全管理のための職員研修を実施すること
(3)安全管理のための病院研修を実施すること
(4)医療機関内における事故報告書等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずることの4点が定められている。
 今までの医療法施行規則では、このように具体的な安全対策への取り組みが義務付けられていなかったが、今回、法的に義務付けられたことは、患者にとって歓迎すべきことである。
 これを後押しするように、平成14年7月30日に平成14年度診療報酬改定の一環として、病院や有床診療所に「医療安全管理体制未整備減算及び褥瘡対策未実施減算について」(保医発第0730001号)が通知された3)。
 これは、地方社会保険事務局または都道府県知事に当該医療機関の安全管理体制が整ったことを届け出ない限り、平成14年10月1日より入院基本料・特定入院料を減算しなくてはならなくなったもので、安全管理体制の基準は、医療法施行規則の告示内容と酷似している。 一方、厚生労働省は、医療用具の製造業者/輸入販売業者に対して、医療用具の適正使用にはハイライト情報を中心とする添付文書と、複雑な操作や保守点検などを明記した取扱説明書を義務づけるべく、平成13年12月、「医家向け医療用具の添付文書記載要領について」(医薬発第1340号、医薬局長通知および医薬安発第158号、医薬局安全対策課長通知)、「医家向け医療用具の使用上の注意記載要領について」(医薬安発第161号、医薬局安全対策課長通知)を通知し、すべての医療用具に共通の記載要領により添付文書を平成14年1月までに作成することを義務付けた。 今後、医療スタッフにとってわかりやすい添付文書が提供されることで、適正な使用方法が明確に医療スタッフに周知されるとともに、具体的な始業点検や保守点検についても情報提供され、医療の安全に役立つことが期待できる。

3.医療機関の医療事故防止体制の現状調査
 著者らは、平成11年度厚生科学研究(医薬安全総合研究事業)分担研究「医療用具の不具合情報等の適正管理に関する研究」において、一般病床200床以上の医療機関(1,894施設)を対象に、医療用具による不具合の実態を調査した。
 その結果、不具合の原因が医療用具の欠陥や故障によるものと、医療スタッフの不適正使用によるものに大別できることがわかった。特に、医療機関で組織されているリスクマネジネメント体制が不具合の発生や診療業務マニュアルの整備と関連性があることがわかった4)。
 また、平成12年度厚生科学研究(医薬安全総合研究事業)「分担研究医療用具の安全性情報の報告・公開に関する研究」では、医療用具の安全使用のために重要な「安全性情報の院内での通知体制や定期的な閲覧体制の確立」、「リスクマネジメント委員会の組織化」、「臨床工学部門の組織化」、「インシデント事例をリスクマネジメント委員会に吸い上げる体制の確立」、「インシデント事例を厚生労働省に報告できる体制の整備」について医療機関の意識を調査し、その必要意識が極めて高いことがわかったが、安全性を確保するために医療機関で新たな経費発生や組織作りなどで困惑している状況もわかった5)。
 医療安全の意識が各医療機関でどの程度整備されているかを把握すべく、平成11年度厚生科学研究及び、平成12年度厚生科学研究の関係調査に協力頂いた医療機関(297施設)を対象に、「リスクマネジメント委員会の組織化」、「インシデント事例をリスクマネジメント委員会に吸い上げる体制」、「リスクマネジメント委員会に関する院内掲示および外部への公開体制」、「インシデント事例の厚生労働省への報告体制」、「診療業務マニュアルの整備」、「診療業務マニュアルの公開体制」を平成14年8月にアンケート調査を実施し、121施設(40.7%)の有効回答から次の傾向がわかった。

(1)「インシデント事例を収集・評価など、医療事故再発防止の改善を図るためのリスクマネジメント委員会(類似する委員会を含む)を組織しているか」の設問に対し、「既に組織」が121件(100%)と回答され、すべての医療機関においてリスクマネジメント委員会の組織化が実践されていることが確認できた。

(2)「厚生労働省、関係学会、他の医療機関、マスコミから提供するインシデント事例は、リスクマネジメント委員会で迅速に収集し、医療事故再発防止に役立てる体制になっているか」の設問に対し、「既に整備」が96件(79.3%)、「年内に整備予定」が6件(5.0%)、「当面未整備」が12件(9.0%)、「その他」が7件(5.8%)と回答され、「既に整備」「年内に整備予定」を併せると8割強となり、情報収集の体制が各医療機関で十分実践されていることがわかった。

(3)「リスクマネジメント委員会」で収集したインシデント事例を、各部局の医療スタッフに周知させる方法(関係記事配布やホームページなど)を整備しているか」の設問に対して、「既に確立」が100件(82.6%)、「年内に整備予定」が10件(8.3%)、「当面未整備」が8件(6.6%)、「その他」が3件(2.5%)と回答され、「既に整備」「年内に整備予定」を併せると9割となり、収集した情報を医療スタッフに周知する方法が各医療機関で十分確立していることがわかった。

(4)「リスクマネジメント委員会の活動内容は、患者にも把握できるように院内に掲示し、外部からの要望に対しても公開する体制を整備しているか」の設問に対して、「既に確立」が11件(9.1%)、「年内に整備予定」が10件(8.3%)、「当面未整備」が86件(71.1%)、「不要」が7件(5.8%)、「その他」が7件(5.8%)と回答され、「既に整備」「年内に整備予定」を併せても2割の医療機関に留まり、リスクマネジメント体制について患者や外部に公開する体制はほとんど整備されていないことがわかった。

(5)「医療事故の発生時の事故報告やその原因が何であったか等、リスクマネジメントを目的とした方策を講じているか」の設問に対して、「既に確立」が116件(95.9%)、「年内に整備予定」が3件(2.5%)、「当面未整備」が1件(0.8%)、「その他」が1件(0.8%)と回答され、「既に整備」「年内に整備予定」を併せると9割強となり、リクマネジメントの方策が十分実践されていることがわかった。

(6)「医療事故の発生時の事故報告や、原因が何であったかを、患者・家族はもちろん外部に公開する体制を整備しているか」の設問に対して、「既に確立」が39件(32.2%)、「年内に整備予定」が5件(4.1%)、「当面未整備」が58件(47.9%)、「不要」が2件(1.7%)、「その他」が17件(14.0%)と回答され、「既に整備」「年内に整備予定」を併せても4割弱でしか、公開する体制にないことがわかった。

(7)「他の医療機関の医療事故再発防止に役立つよう、発生したインシデント事例を厚生労働省に報告する体制を整備しているか」の設問に対して、「既に整備」が32件(26.4%)、「年内に整備予定」が4件(3.3%)、「当面未整備」が79件(65.3%)、「その他」が6件(5.0%)と回答され、「既に整備」「年内に整備予定」を併せると4割の医療機関が厚生労働省に報告する体制を整備していることがわかった。

(8)「インシデント事例を参考にした、感染防止、インフォームドコンセント、患者確認を図るためのリスクマネジメントマニュアルや患者安全のための業務マニュアルを整備しているか」の設問に対して、「既に確立」が92件(76.0%)、「年内に整備予定」が18件(14.9%)、「当面未整備」が4件(3.3%)、「その他」が7件(5.8%)と回答され、「既に確立」「年内に整備予定」を併せると9割となり、リスクマネジメントマニュアルや業務マニュアルの整備が着実に進んでいることがわかった。

(9)「リスクマネジメントマニュアルや患者安全のための業務マニュアルは、各部局の医療スタッフによって十分利用されているかの設問に対して、「既に利用している」が85件(70.2%)、「年内に整備予定」が10件(8.3%)、「当面未整備」が8件(6.6%)、「その他」が17件(14.0%)、「未回答」が1件(0.8%)と回答され、「既に利用」「年内に整備予定」を併せて8割弱と多いことがわかった。

以上、医療安全体制の確立は多くの医療機関で整備されてきているが、医療機関で策定したリスクマネジメントマニュアルや患者安全のための業務マニュアルなどを医療スタッフで実践されるまでに至らない医療機関もあり、今からの実践が望まれる。
 また、医療事故に関する対外的な公開や厚生労働省への報告については、医療事故の責任問題や患者不信を懸念するためか、極めて消極的である。しかし、各医療機関が医療事故の発生に対して真摯に対外的な公開や厚生労働省への報告を行うことで、他の医療機関の再発防止に役立つことを考えれば医療事故を隠蔽せず、対外的に公開することは重要なことである。また、昨今の他業界における不良品の情報隠蔽による社会的非難を考慮すると、医療事故を隠蔽することは決して得策ではなく、医療機関自らの意思で改善されることを期待したい。

4.まとめ
 平成14年になり、厚生労働省から「医療安全推進総合戦略」、「医療法施行規則の一部を改正する省令」、「平成14年度診療報酬改定」と医療機関の安全体制の確立を促す法制備が進む中、多くの医療機関で医療の安全対策が本格的に始動した。
 今回の医療機関における安全体制の実態調査は、これらの法制備が進む中実施したもので、平成14年3月に同様な内容で調査した結果と比較すると、全体的に改善の方向にある。
 平成15年1月には、医療機器や医療材料の添付文書も製造業者/輸入販売業者で整備されることから、医療スタッフが添付文書の注意事項を把握せず、不適正な使用により医療事故が発生した際には、医療スタッフおよび医療機関の管理体制が問われることになり、医療事故発生に伴う製造業者/輸入販売業者と医療機関の責任範囲が明確になるであろう。
 今後、患者の安全確保には、院内の各業務や部門別の「診療業務マニュアル」を充実するだけでなく、各業務間や部門間のコミュニケーションや業務連携を包含するマニュアルとして作成し、院内だけでなく公開をすることで、患者も含め医療安全を意識し、安全性を向上させていくことが重要になってくるのではないだろうか。

【 参考文献 】
1)厚生労働省医療安全対策検討会議:「医療安全推進総合対策〜医療事故を未然に防止するために〜」報告書、http://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0110/tp1030-1y.html、2002.
2)厚生労働省:医療法施行規則の一部を改正する省令(厚生労働省令第111号)、http://www1.doc-net.or.jp/~hodanren/med_topic/0210kaisei/pdf/shorei-no111.pdf、2002.
3)厚生労働省保険局医療課:「医療安全管理体制未整備減算及び褥瘡対策未実施減算について」 (保医発第0730001号)、http://www.mmpg.gr.jp/hoihatu0730001.pdf、2002.
4)酒井順哉、糸満盛憲、小野哲章 ほか:医療用具の不具合情報等の適正管理に関する研究、 平成11年度厚生科学研究(医薬安全総合研究事業)分担研究報告書、名城大学、常川印刷、2000.
5)酒井順哉:医療用具の安全性情報の報告・公開に関する研究、平成12年度厚生科学研究(医薬安全総合研究事業)分担研究報告書、名城大学大学院、常川印刷、2001.

 
特別講演抄録 「EBM(根拠にもとづく医療)が病院を変える」
国立国際医療センター内科・情報システム部・部長
秋山 昌範

1.はじめに
 医療の高度化、専門分化が進む中で、質の高い医療従事者の養成や、質の高い医療提供の環境整備を図っていくとともに、患者・国民の適切な選択によって良質な医療が提供されるよう、情報の積極的な提供を図る必要がある。同時に、医療の質の確保ということでは、近年続発している医療事故について、患者の安全を守るという観点から、行政や医療機関がともに総合的に取り組むことが求められる。患者に信頼されるためには、危険性も含めた十分なインフォームドコンセントや診療情報提供が大切であることは当然であるが、病院情報システムの導入・更新時に、病院の信頼回復を目指すことが重要と考えられる。

2.情報システムと業務フロー
 医療のプロセスを考えた場合、与薬業務は全ての医療機関に共通した業務であり、特に注射業務は医師の指示から実施まで複数の人間が関与し、薬剤・注射器・点滴ラインや輸液ポンプなどの多種のハードウェア、指示の情報伝達というソフトウェア、注射準備環境の諸要素がからみ、最も複雑なサブシステムを形成している。したがって、一つの注射業務において、対象患者、薬剤の内容、薬剤の量、投与方法、投与日時、投与速度、刺入部の安全性、投与後の漏れの有無といった確認内容が多いので、事故が生じやすい原因となっている)。また、抗癌剤など薬剤によっては重大な結果を引き起こすので、注射エラーの防止は医療事故防止上、最優先で取り組むべき対象であると考えられる。そこで、情報システムによりエラーの防止を行うのである。具体的には、注射業務プロセスの中で、徹底した発生源入力を実現し、医療版POS(Point of Sales)といえる医療行為の発生時点管理(POAS: Point of Act System)に対応することで、事故対策に対応できるシステムを開発した。POASとは、従来のオーダありきといったオーダエントリーシステムではなく、実施入力を基本に考えられたシステムである(図1)。
 事故は予定された業務以外に、突発的に発生した業務もある。したがって、オーダエントリーシステムに入力されていない医療行為を実施後入力する必要がある。従来のオーダエントリーシステムでは、予定された医療行為の情報入力が不十分であり、実施入力は困難であった。POASでは、これを可能にした。 国立国際医療センターにおいて開発中の本システムの理念は、(1)業務改善・経営改善、(2)医療過誤対策、(3)医療行為のデータマイニングによるEBMやDRG/PPSへの応用である。まず、業務改善・経営改善に関し、この医療行為の発生時点管理で、今まで表に出てこなかった物流・業務を把握し、無駄を省き、効率的な業務体系を確立することが可能になった。すなわち、レセプトに上がらない医療行為の把握が可能となり、2度入力をなくし、臨床業務の省力化に対応したうえで、物流や患者の動態をリアルタイムに確認できるので、職員の適性配置を可能とした。更に、注射や点滴、血液製剤、輸血などあらゆる医療行為の実施時点で入力させることにより、医療過誤対策を可能にした。具体的には、例えば投薬や注射を行う場合、医師や看護婦等の医療スタッフの個人識別を行い、処方内容のバーコード、薬剤や注射液の識別のためのバーコードを、バーコード対応PDAで次々と読みとり、誰がいつの時点で何を処方し、誰がいつの時点で実際に患者に投与したか、あるいは投与出来なかったという場合等も含め、すべての診療行為のデータ化を図ることとした。実施入力された時点でのエラーチェックにより事故を防止でき、血液製剤、輸血などのロット管理が電子的に行え、輸血記録などの管理が容易になる(図2)。

3.線から面へ
 これまで、医療事故が生じた際、カルテなどの記録からだけでは、原因の特定すら困難な場合が多かったため、効果的な予防策を講じられるとは限らなかった。このシステムでは、全ての医療行為が正確に記録されているので、医療事故が発生しても、事故分析の際に当事者のみならず、発生前後の関係者の行動も並行して調べることが可能になる。更に、他の病棟や外来などの直接事故現場ではない周辺の状況も正確にたどる事が出来る。つまり、発生時の当事者の解析のみでは、点から時系列にたどる線の解析しかできないが、このシステムでは当事者以外の時系列ワークフローも明らかになるので、組織的な解析、いわば面の解析が可能になるのである。その結果、発生現場の直接的な原因だけでなく、周辺の間接的な原因も見つける事が出来るため、最も効果的な再発防止策を導き出せる。

4.国立国際医療センターの医療行為発生時点管理システム
 我々が今回考案したPOASは、投薬や注射を行う場合、医師などの個人識別を行ったうえで、処方内容のバーコード、薬剤や注射液の識別のためのバーコードを、バーコード対応携帯端末で次々と読みとり、すべての診療行為のデータ化を図るものであるが、実施入力される時点でのエラーチェックにより事故を防止できる観点から、医療過誤対策の切り札になることが期待される。同時に、この医療行為の実施記録が残ることで、医療行為のデータウェアハウスによるデータマイニングが可能になる。これは、EBMやDRG/PPSへの応用へとつながるシステムであり、実施入力されたデータが看護記録やカルテに自動記載されるように設計している。以上のことより、経営改善や物流管理、医療過誤対策を可能とした。

5.信頼回復の鍵は嘘のつけないシステム
 国際医療センターのIT化の意義は、「徹底した情報捕捉の仕掛けが組み込まれていること」と、「医療をビジネスとして考えた場合の様々な要請にも応えることのできること」の2点を含むシステムとしての包括性にある。病院における情報システムは、「すべての医療行為の正確な記録を残すことをすべての出発点として考えるべき」というコンセプトで設計した。すなわち、「実際に行われた医療行為の正確な記録こそが唯一の根拠」という考え方である。
 医療過誤対策という観点から考えた場合には、万一医療過誤が発生したときにも責任の所在がはっきりするような仕組みが必要である。医療過誤訴訟でもっとも重要な証拠となるのはカルテであるが、カルテの情報が人によって入力されるかぎり、紙であっても電子カルテであっても、入力する人のフィルタにかかった情報であることが否めず、情報が不十分であったり、改ざんされてしまう可能性も排除できない。しかし、特定の患者の医療に関わったすべてのスタッフによるすべての行為が、行為時点で日時とともに自動的に記録されてしまえば、人間がその情報を左右することはできなくなる。医療行為発生時点での自動的な情報入力は、医療スタッフの事務負担を大幅に軽減するということから、医療の質の維持・向上に寄与する。カルテを電子化したところで、これまでの紙による伝票をコンピュータに移し替えただけでは、医療スタッフは従来と同じ情報を入力しなければならないし、筆記具がキーボードに代わっただけの話であり、ほとんど省力化にはならない。自分のやったことや使った薬剤等が自動的に記録されれば、面倒な伝票処理から解放され、医療行為さえしっかりと行っていれば良い仕組みである。 6.おわりに このように、本システムはすべての診療行為のデータ化を図るものであるが、実施入力される時点でのエラーチェックにより事故を防止できる観点から、医療過誤対策の切り札になることが期待される。しかし、現場では情報システムではなく、人による判断が第一であることは言うまでもない。それを支えるために、本システムでは、病院医療スタッフの専門能力発揮を妨げる作業と要因を可能な限り排除し、本来の使命である患者の診療に専念できる環境を実現できると考えている。

 
シンポジウム 「医療機器を安全に使うためのシステムとは」
司会のことば
愛知大学法学部教授・弁護士
加藤 良夫

1.全国各地で類似の医療事故が続発している。その原因や背景は、さまざまで広範囲にわたるが、医療機器の構造上の欠陥や医療機器の保守点検の不実施や不備、医療スタッフによる不適正な使用など医療機器に関連する医療事故も少なくない。 医療機器を安全に使用し、医療機器に関連する医療事故を少なくしたい。 これが、今回のシンポジウムのテーマである。

2.医療機器を安全に使用し、医療機器に関連する医療事故を少なくするためには、次のような視点での取り組みが必要である。
(1)まず、メーカーは、品質の良い製品を開発し、現場に供給しなければならない。そして、当該医療機器に伴う情報(使用方法、過去の有害事象、考えられる危険等)を、利用する者に正直かつ解りやすく伝える必要がある。
(2)医療側も、メーカーから提供される説明書とりわけ使用上の注意を丁寧に読み、適正に医療機器を使用しなければならない。それだけではなく、FDA等で集約された医療機器の使用に伴う事故事例や、学会等で集められた事例発表を十分に念頭に置き、機種の選定等を含めよく吟味して使用すべきである。
(3)行政は、メーカーや医療現場、介護の現場等から事故情報を集約し、教訓を引き出し、メーカーや医療現場等に改善を求め、速やかに警鐘を打ち鳴らすことのできるシステムを構築すべきである。

3.シンポジウムには、医療機器を安全に使うということに関して日常的に深く取り組んでおられる各方面の方々5名をパネラーとしてお招きしている。 各パネラーから報告を受け、医療機器を安全に使うために大切にされるべきことは何か、改善すべきことは何か、医療機器を安全に使うためにはどのような社会システムを構築すべきか等につき、共に意見交換ができ今後の方向性と具体的な取り組み課題が共通認識となることを願っている。

 
シンポジウム抄録 「東京都が取り組む医療機器の安全対策」
東京都健康局 食品医薬品安全部 薬事監視課・課長補佐
平井 政己
 
1.はじめに
 昨今、医療機器に起因する医療事故が新聞紙上をにぎわせているが、その内容を見ると、医療機器の不適正使用(人為的ミス)や機器の不具合(誤作動)等が原因となっている事例が多い。これら医療機器に起因する事故の多くは、医療従事者に対する機器の操作実習(教育訓練)、院内における機器の保守管理及び安全性情報の収集や提供が十分に行われていれば、未然に防止できたのではないかと推測される。
 しかし、多くの医療機関では、教育訓練や保守管理等について十分な対応が取られていない状況にある。特に、医療機器の安全性情報に関しては、一元的に取りまとめる担当部署を決めておらず、医療機器の製造(輸入販売)業者(以下、「メーカー」という。)が発信する安全性情報や行政情報等が医療現場に的確に伝わらない恐れがある。 また、医療機関で発見された不具合事例や改良・改善を行った情報が、行政、メーカー及び他の医療機関に伝えられないことも懸念される。
 このような中で、医療機器の安全対策の一環として構築した「医療機器安全性情報ネットワーク」を中心に東京都が取り組んでいる医療機器の安全対策について述べたい。

2.これまでの取り組み
 医療機関における安全対策については、医療監視を中心に行ってきた。しかし、その内容は、主に許可を与えた条件(医師、看護師等の医療従事者の定数や構造設備)を満たしているかという形式的な部分と感染症対策に重点がおかれ、医療機器の安全対策については、あまり重要視されていなかったのが実情である。
 また、薬事監視の領域においても、メーカー・販売業者への監視指導が中心であり、直接医療機関に働きかけることはほとんどなかった。
 昨今、医療事故防止に対する都民の関心も高まり、安全で良質な医療の提供が強く求められており、薬事法の視点からも医療機関内での医療機器の安全対策について取り組むこととした。 実施にあたり、医療機関内における医療機器の実態等を把握するため、平成13年度に都内全病院(677病院)に対し、アンケートを実施した。(回答数645病院・回収率95.3%)ここで、得られた情報の主な内容は、次のとおりである。 【(%)は、645病院に対してである。】

(1) 臨床工学技士を設置している病院は、180病院(27.9%)で、3割に満たなかった。

(2) 医療機器に関する安全性情報担当部署を設置している病院は、390病院(60.5%)であるが、担当部署として最も多かったのは事務部門で、6割を占めていた。

(3) 医療機器による不具合に対する対応として、過去1年間で不具合事例を経験した病院は143病院あったが、90%以上の病院がメーカーに連絡したのみで、厚生労働省に報告したと回答したのはわずか6病院であった。

3.医療機器安全性情報ネットワークの構築 東京都では、医療機器の安全性確保を図るため、医療機器による疑い段階での不具合情報や改良・改善情報をいち早く収集するシステムとして「医療機器安全性情報ネットワーク」(以下、「ネットワーク」という。)を構築した。
 ネットワークは、アンケートにより、医療機器の保守点検に積極的に取り組み、かつ院内で医療機器情報の収集・伝達が比較的整備されている27病院と、そこで使用されている医療機器(輸液ポンプ・シリンジポンプ、人工呼吸器、人工透析器、除細動器)メーカー27社で構成されている。主な内容は概念図のとおり。
 今後は、本事業で得られた成果を精査するとともに、医療機関に対し必要と思われる情報については、医療機関、国、メーカー及び関係団体に対しても積極的に提供し、医療機器の安全対策に役立てたい。

4.おわりに
  医療機器の不具合による事故を防止するためには、医療機関内で、
(1) 適切に保守点検された信頼性の高い医療機器を使用すること。
(2) 的確な操作が行われること。
(3) 使用する人に安全教育がなされること。が重要である。
 また、それとともにメーカー、医療機関及び行政が医療機器の安全性情報について、収集・提供体制を整備することが求められる。
 厚生労働省は平成14年8月29日に業界団体にあてて医療従事者の意見・要望等への対応を検討するための体制・組織の整備を進めるよう医薬局長通知を出したが、実施していく上で、医療機関の協力が不可欠である。
 東京都としても、患者の安全を最優先に考え、これらの内容が実践できるよう、関係機関と連携を図り取り組んでいく所存である。
シンポジウム抄録 「医薬品誤投与防止のためのチェックシステム」
東京医科歯科大学歯学部附属病院薬剤部・薬剤部長
土屋 文人

1.はじめに
 今回のシンポジウムで私に与えられたタイトルである「医薬品の誤投与防止」を考えるためには、まず初めに「医薬品の誤投与」をどの範囲のものとするのかが問題となる。米国においてMedication Errorという場合、これには防止可能であった有害事象の発生を防げなかった場合も含まれる。しかしながら、我が国において通常「誤投与」といわれるのは、最終段階で別の患者の薬が投与されたり、処方とは異なった医薬品が投与された場合をいうことが多い。そこで本シンポジウムでは、誤投与をある程度広く定義した上で、それを防止するためのチェックシステムについて述べることとする。

2.医薬品誤投与の分類
 医薬品に関係する職種等とそれに関連するヒューマンエラーとを図1に示す。医薬品の誤投与防止を考えるためには、まず初めに誤投与が発生する場面を具体的に考える必要がある。そこで図1を参考に、医薬品の誤投与にはどのようなものがあるかを段階的に考えてみたいと思う。

2.1 医師における医薬品誤投与
1. 診療録の誤り(カルテ違い)
2. 診断の誤り
3. 医薬品を決定する段階での誤り
4. 医薬品の用法・用量等を決定する段階での誤り
5. 処方段階での選択誤り(オーダリング等) 6. 処方段階での記載誤り
7. 疑義照会で変更された処方内容が診療録になかったことに起因する誤り
8. 注射等の実施段階における誤り

2.2 薬剤師による医薬品誤投与
1. 処方点検における誤り
2. 調剤段階での誤り
3. 調剤鑑査段階での誤り
4. 薬剤交付及び情報提供段階での誤り

2.3 看護師による医薬品誤投与
1. 与薬準備段階での誤り
2. 与薬段階での誤り

2.4患者における医薬品誤服用・誤使用
1. 提供された情報の誤解
2. 服用(使用)時の誤り
3.医薬品誤投与防止の方策

3.1 医師の医薬品誤投与防止の方策
1. 適正使用に関する医薬品情報の提供
2. 処方せん等の書き方の標準化
3. 記載省略に関する内規の廃止
4. 薬剤師による疑義照会の徹底
5. 実施に関する情報提供

3.2 薬剤師の医薬品誤投与防止の方策
1. 記載不備に関する内規の廃止 2. 処方点検の標準化
3. 処方内容と適応症との点検(病院薬剤師)
4. 疑義照会の標準化・徹底
5. 疑義照会後の診療録変更有無の確認
6. 危険薬に対する調剤方法の確立
7. 複数規格医薬品に対する調剤過誤防止対策
8. 同一商標記号違いの医薬品に対する調剤過誤防止対策
9. 複数剤形がある医薬品対する調剤過誤防止対策
10.類似医薬品に対する調剤過誤防止対策

3.3 看護師の医薬品誤投与防止の方策
1. 薬剤部からの供給方法の変更
2. 与薬準備段階での薬剤師の関与
3. 薬剤師から看護師への注意喚起情報提供
4. 与薬準備状況の確認
5. 患者確認の徹底
6. 与薬時の確認の徹底
7. 与薬直後の点検
8. 与薬後の経過観察の徹底

3.4 患者の医薬品誤投与防止の方策
1. 患者の立場に立った情報提供
2. 独立した相談窓口の設置
3. 問い合わせ窓口の一元化
4. 医薬品に関する基本的事項の啓発

4.医薬品誤投与防止のためのチェックシステム
 上記に示したような方策を実施するためには、まず薬剤師が本来なすべき役割を果たすことが必要である。その意味では人員問題と切り離すことはできない。しかしながら、米国等を参考にすれば、現在行っている薬剤師の行為を本当に薬剤師でなくてはできないものと、薬剤師でなくてもよいものに峻別し、薬剤師でなくてもよいものについては、自動化あるいは補助員等による行為に移行を図ることが必要と思われる。また、看護師等のエラーを防止するためには、まず、病棟に薬剤師が常駐化(少なくとも通常業務時間帯)することが必須と思われる。
 チェックシステムについては、従来の自動化が大規模病院の発想から検討されたものが多かったため、数的には最も多い中小病院への導入が現実として難しいことが問題である。今後は病棟単位での安全対策を中心としたシステム開発を考えるべきであろう。医薬品の物的な誤投与に対しては過渡的にはバーコード等の利用も考えられるが、我が国の技術を考慮すれば、ICチップ等の利用が主流となる日は近いと思われる。

シンポジウム抄録 「医療現場の安全をシステムでカバーするには」
-人工呼吸器関連医療事故防止のシステムアプローチ-
名古屋大学大学院医学研究科 機能構築医学専攻生体管理医学講座救急・集中治療医学・教授
武澤 純

はじめに
 わが国で使用される人工呼吸器は@ICUなど術後呼吸管理や重症呼吸不全などの急性期呼吸管理、A一般病棟やRCUなど安定した呼吸不全患者などの慢性期呼吸管理、B在宅人工呼吸管理、C新生児・乳幼児を対象とするNICUでの呼吸管理の4つの領域で使用される。本稿ではこの中から@とAに限って人工呼吸器に関連する医療事故防止対策を述べる。BとCに関しては機会を改めで言及するか、別の検討を必要とする。

1. 欧米の人工呼吸器関連医療事故対策 ウェブサイトを用いた検索および直接に担当医師を訪ねて、アメリカ、オーストラリア、イギリスの人工呼吸器の安全使用に関する法律や規制に関して調査を行った。

1.1.アメリカ
医療従事者:人工呼吸管理は医師の管理下に行われるが、事実上はRRTが業務を行う。
規制・法律・ガイドライン:連邦政府、州、市町村の規制が適応される。州による規制は様々であり、これは市町村でも同じである。規制、法律、ガイドラインはFDAが主に担当する。FDAの規制対象には製造業者、輸入業者、販売や市場調査会社、搬送業者が含まれる。人工呼吸に使用される医療器具はFDAの認可を受けなければならない。製造/販売業者は規格や使用法に関して、文書と口頭による説明をすることが義務づけられている。FDAが認可していない使用法に言及したり、推奨することは禁止される。このような使用は「Off Label Use」、つまり、適応外使用といわれ、この使用に伴う結果は全て使用者や医療施設の責任となる。FDAの中で最も特徴的なものは「Med-Watch」と言われる医療事故、不具合報告システムであり、患者名、医療従事者名、施設名は公表されない。人工呼吸器に限らず、全ての医療器具に関連した不具合、悪影響、死亡例が公表され、インターネットでアクセス可能である。一年間の報告件数は約6万件である。 学会など多くの専門職団体はガイドラインを発行しており、その代表的なものはAmerican Association of Respiratory Care (AARC)、American Thoracic Society (ATS)、American Lung Associations (ALA)、American Medical Association (AMA)などが人工呼吸管理に関して策定したものである。
施設内規制:ほとんどの施設では、上記の規制と並行して、RM部やQA部などが中心となって施設内での人工呼吸管理に関するプロトコールを策定している。つまり、適応、使用場所、責任者に関して取り決めがある。MGHのDr.Robert Kacmarekの話によると、事実上、人工呼吸管理の適応、使用場所、人員配置に関する連邦政府、州政府の規制はないに等しく、施設内のQA部とプロトコール/ガイドラインによって規制されている。MGHでは人工呼吸管理の適応は医師が行うが、人工呼吸器の操作と管理はRRTが行う。
http://www.fda.gov/cdrh/devadvice/351.
html http://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfmdr/search.CFM http://www.ita.doc.gov/td/mdequip/index.html

1.2.オーストラリア
医療従事者:人工呼吸管理の指示は医師が行うが、アメリカのようにRRTは存在しない。MEまたは理学療法師の中から訓練を受けたものが呼吸管理にあたる。専門職としての地位は確立していおらず、病院内で独自に認定をしている。
規制・法律・ガイドライン:Australian Therapeutic Goods Association (TGA)がガイドライン、規制、法律に関して中心的な役割を果たしている。TGAは人工呼吸管理に使用する医療器具の許認可を行っている。これは人工呼吸器に関連する全ての関係業者に適応される。Med-Watchと同様に Australian and New Zealand Medical Device Incident Report Investigation Schemeがあり、TAG、Medsafe (NPO)、New Zealand Medicines and Medical Devices Safety Authorityが参加している。消費者、製造元、政府が共同で運営にあたる。ほとんどの学会はそれぞれの専門分野での医療器具の安全使用に関するガイドラインを策定している。
施設内規制:国の規制を参考に、施設独自の規制を設けている。一般的にはRM部やQA部が人工呼吸器の使用に関する最も強い権限と影響力を持っている。例えば、プライマリケアー医が緊急の場合を除いて、外来や病院で人工呼吸器を使用すると医師免許を剥奪される。ただし、医療施設内にガイドラインが存在し、それに従ってプライマリケアー医が使用する場合は適応されない。 オーストラリア政府はアメリカのMed-Watchを参考に医療器具の安全使用に関する特別監視委員会を設立した。Sydney大学内科のRon Grunstein教授によると、気管挿管された患者の人工呼吸管理はICUと呼吸器内科病棟だけに認められており、一般病棟での使用は認められていない。人工呼吸器の使用に関する免許は存在しない。 参考:学会のガイドラインは以下のウェッブサイトに掲載されている。
http://www.fic.anzca.edu.au/policy/ind http://www.fic.anzca.edu.au/policy/index.htm Australian Council of Health Care Standardsは以下のウェッブサイトに掲載されている。
http://www.safetyandquality.org/publications.
html http://www.health.gov.au/hsdd/nhpq/pubs/pquality.htm http://www.health.gov.au:80/hfs/pubs/mbs/mbs5/categor2.htm#Notes-SectionT1.7

1.3.イギリス
医療提供者:人工呼吸管理は医師の指示のもとで行われる。RRTは存在しない。人工呼吸器の使用に関する国の規制は存在しない。
規制、法律、ガイドライン:イギリスでは医療器具の使用法に関する規制はほとんど存在しないが、人工呼吸器の機械的安全に関する規制は多く存在する。Medical Devices Agency of the UKがこの任務を担っている。人工呼吸器関連の医療器具はCEマークの取得を必要とし、人工呼吸器はIECとISOの基準を満たすことが義務付けられている。Med-Watchと同様にMedical Devices Agency of the UKが医療事故に関する報告システムを管理している。ほとんど全ての学会は医療器具の安全使用に関するガイドラインを策定している。もうすぐ発行されるICSスタンダードでは人工呼吸管理が行われる医療環境に関する記載が盛り込まれる。これは人工呼吸管理に関して大きな影響力を発揮することになる。さらに、EUの規制としてヨーロッパのスタンダードが存在する(ESICM)。
施設内規制:各施設では国のガイドラインを参考にした独自のガイドラインを策定している。RM部、QA部がプロトコールを作成し、人工呼吸器の安全使用に関する取り決めが行われている。Dr. Mark Elliotによれば、当該施設内では、人工呼吸器の適応、場所に関する取り決めはないが、気管切開患者を含めた人工呼吸器の使用はICU に限られている。以下のウェッブサイトで関連の情報が入手できる。
http://www.medical-devices.gov.uk.
http://www.earlywarning.org.uk/public/download/criticalcare.pdf -

2. MAUDEとMDRデータベースの人工呼吸器関連医療事故報告 FDAは1996年からMed-Watchとして、医療器具の不具合、 患者への障害、死亡事故に関する報告を医療機器製造元、販売会社、医療機関、医療従事者に義務付け、その結果をデータベース化して一般に公開している。1996年から1999年まではMRD、それ以降はMAUDEとしてデータベース化されている。その中で医療器具全般に関した医療事故は表1の通りである。年間総数で4〜7万件が報告され、約1千人が医療器具に関する事故で死亡している。
 1996年6月からの医療器具別の事故を集計すると表2のようになる。総数としてはカテーテル>人工呼吸器>IABP>輸液ポンプの順であったが、死亡事故は輸液ポンプ>カテーテル>人工呼吸器の順であった。人工呼吸器に関連した医療事故を以下の表3に示した。米国における販売台数に応じて死亡事故件数が報告されていると思われる。

1. わが国の人工呼吸器関連医療事故データベース
 わが国の既設人工呼吸器数は約3万台といわれている。 人工呼吸器の不具合に関する報告は2000年より日本医療機器センターがデータベース化している。不具合や事故のレベルをT〜Vに分けて分類している。レベルTは死亡を含む重大な不利益を患者に与える可能性があるもの、レベルUは軽度の不利益を与える可能性があるもの、レベルVは全く不利益を与える可能性がないものに分類されている。その中で人工呼吸器に関するものを表6に示す。

2.人工呼吸器関連医療事故対策
2.1.医療事故(Accident)報告システム:ICU/病棟/在宅
 人工呼吸器に関連する医療事故対策をシステム的に行うためには、まず、事故の実体を把握する必要がある。ところが、我が国には行政、学会、医療弁護団など専門組織に医療事故に関する統一DBが存在しないため(医療事故損害賠償の保険会社にはあるが、公開されていない)、事故件数、その重大性(社会的損失)、賠償金(経済的損失)などの実体は不明である。医療訴訟になった事例、あるいはその可能性のある事例は医療事故情報センターにDB化されて蓄積されているが、医療供給システム上での原因究明とその改善策の提起はされていない。
 医療事故には、標準的な医療を提供したか否かに関わらず、患者に不利益を与えなかったが、医療供給の方法に間違いがあった場合(Incident)と患者に重大な障害を残すか、死亡するなどの重大な不利益を与えた場合(Accident)の2種類がある。標準的な治療を行わずに、患者に重大な損害を与えた場合は管理者がプロトコールを提供していたか否かによって管理者または当事者が業務上過失傷害/致死、傷害罪、殺人罪など刑法によって裁かれ、その事実は一般に公開される。標準的な治療を提供しながら、患者に重大な損害を与えた場合も病院経営者の管理責任が問われる。また、患者に重大な不利益を与えなかったが、医療供給方法に間違いがあった場合は法律によって裁かれることはないが、医療供給システム内に何らかの不適切な部分が存在するため、その原因を究明して、改善することが管理者の責務となる。
 Accidentでは警察・検察による犯罪性に関する捜査が行われるが、明らかな犯罪性がない限り、システム上の問題点を解明することは困難である。また、臨床医学と無縁の大学教授や学会の重鎮と言われている学問(?)専門職の鑑定には科学的根拠に基づいた判断を期待するのには無理がある。従って、医療事故(Accident)のシステム上の原因究明とその改善を医療裁判に期待することはできない。
 医療事故の原因究明はRCAなどの分析法を用いて行われるのが一般的であるが、その検討内容が情報公開法の対象となったり、証拠書類として差し押さえられることになると、施設内の事故分析努力は一挙に訴訟対策に変身し、システム改善の動機付けを失う(アメリカにおいては施設内の医療事故に際して行われるPeer Review Committeeの検討事項は法的保護を受けるため、十分な検討を行うことができる)。重大な医療事故が発生した場合は、行政の管理責任が問われるため、人工呼吸管理を行った医師およびその管理者は行政への報告が義務付けられるが、同時に医療供給の専門職団体(呼吸療法医学会や呼吸管理学会)などへも届け出て、原因究明と改善策をDB化することが必要である。関係学会は人工呼吸器に関連した医療事故報告システムを構築するための連絡会議を組織化し、統一フォーマットの作成とDB化を早急に開始する必要がある。医療事故報告システムをさらに強化するためには、特定機能病院の認定基準のなかに報告システムへの参加を要項として加えたり、保険支払の上乗せ又は減額などの措置も必要である。いずれにせよ、行政と専門職集団が一体化した人工呼吸器関連の医療事故に関する患者安全推進センターを設置することが必要である。 また、我が国には人工呼吸器に関する疾患別、換気様式別の症例登録が行われておらず、そのため、人工呼吸管理を必要とする疾患の患者数やその転帰が不明である。これは換気様式に関しても同じことが言える。医療政策上問題となる呼吸器疾患(重症喘息発作、ARDSなど)を絞り、特殊換気様式(IRV、HFO、PAV、ASVなど)を使用した場合は症例登録を行い、疾患名、機種、使用場所、換気様式、呼吸不全の重症度、APACHEスコアー、ICUでの生命予後や退院時転帰に関する患者情報を記載し、その中に人工呼吸器関連の医療事故に関する項目も加えることが必要である。

2.2.H2報告システム:強制/自主的、公開/非公開、DB/配布 Incidentに関しては、厚生労働省や文部科学省がIncident Reportの提出を義務付ける動きがある。情報の収集を一元化する意味はあるが、それを解析し、対策を提示する機構が整備されていないため、その効果には限界がある。従って、Accidentと同じように専門職集団による解析と改善策を検討する機構が必要になる。人工呼吸管理を専門とする職能団体は情報収集と解析およびその配布の一元化に協力すべきである。しかし、このような専門職集団は医師会や病院団体などの中にはほとんど存在しないため、人工呼吸管理を専門としている、呼吸療法医学会や呼吸管理学会に頼らざるを得ない。H2の分析から、患者に不利益を与える可能性がある事例に関しては行政にも報告する。それ以外の事例も分析を加え、専門職集団内部で改善策を検討する。
 報告書は統一フォーマットを作成し、数ヶ月ごとの定期報告とし、Accident時の緊急報告と別に作成する。定期報告はWISHを使用して電子メールでセンターに送付する。その際、患者名、医療従事者名、施設名は特定できないシステムを構築する。

2.3.人工呼吸器の安全使用ガイドライン:製造側/提供側/患者側 人工呼吸器の安全使用に関するガイドラインは、
@人工呼吸器の製造、保守点検に関するもの、
A人工呼吸管理の適応に関するもの、
B人工呼吸管理の実施に関するもの
に分けることができる。実施に関するガイドライン(適応は正しいと仮定した上で)では、人工呼吸管理の供給者、施行場所、保守点検、設定、監視(モニタリング)のプロセスに分けて実施行程を検討する。
2.3.1.人工呼吸器の製造、保守点検

2.3.1.1.人工呼吸の換気様式
2.3.1.1.1通常の換気様式としてはSIMV、PSV、CPAPのみを搭載する。それ以外の換気様式は有効性が検証されていないだけではなく、特別なモニタリングを必要とするため、一般には搭載しない。臨床研究として使用する場合はICUなど施設を限定して、ICを取得と倫理委員会の承認後に使用する。その結果を報告することを義務付ける。
2.3.1.1.2.FIO2を必ずモニタリングし、設定値よりずれる場合は警報音を発生する。
2.3.1.1.3.警報の設定項目としては@分時換気量、A最高気道内圧、B呼吸回数、C低一回換気量、D低吸気圧を備えなければならない。
2.3.1.1.4.分時換気量が低下して警報音が発生する際には必ずバックアップ換気に移行する。
2.3.1.1.5.病棟で人工呼吸器を使用する場合は警報がナースステーションで聴取できるだけではなく、PHSなどを通じて、担当看護師に直接伝わる機構を内蔵する。 2.3.1.1.6.一回換気量は呼気換気量を実測する。
2.3.1.1.7.人工呼吸器を使用する前に回路を接続して、回路のリーク、流量計、PEEP圧、警報音などの事前チェックができるようにし、パスしない場合は呼吸器が作動しないようにする。
2.3.1.1.8.定期点検のスケジュールを明記し、点検時期には人工呼吸器のパネルに表示し、人工呼吸器内部にその履歴を保存する。
2.3.1.1.9.警報が作動した場合はその履歴を人工呼吸器内に保存する。
2.3.1.1.10.警報を消音化した場合やリセットした場合でさらに警報を発生する状態が続いている場合には2分以内に再度警報音を発生させる。
2.3.1.1.11.停電時にはバッテリーで駆動できるようにする。

2.3.2.人工呼吸管理の実施に関するガイドライン ・ 使用前には使用前チェックを行う(リークテスト、コンプライアンス測定、警報音の確認、ESTテストなど)。 ・ 加温・加湿器の設定および水位を確認する(人工鼻を装着する) ・ 換気様式はSIMVまたはPSVとする ・ MV、VT、PIP、などの安全範囲(アラーム)を設定する ・ VT、PSレベル、PEEP値、RRを設定する ・ 医師、看護師の勤務交代時には設定を必ず確認する ・ 患者の近くに気管挿管、J-Rなどの用手換気器材、および酸素と吸引配管を完備する ・ 人工呼吸器の設定を変更した場合は、指示者、実行者の(実施)記録が残るようにする(できれば人工呼吸器の設定とモニタリングのコンピュータ管理が望ましい) ・ 心電図モニターとパルスオキシメーターを必ず装着する。

2.4.評価システム:臨床指標(疾患名/患者転帰/装着日) 人工呼吸器関連医療事故を
@不具合、
AIncident、
BAccident
に分けて、その頻度を計測する。施設間比較を行うためには人工呼吸器の使用時間で標準化することが必要であり、そのため、延べ人工呼吸装着日数を分母とし、医療事故の発生回数を分子とした1000分率を用いて事故率を評価することも可能であるが、その精度は不明である。H2とAccidentは定例的に患者安全対策委員会(PSC)あるいはPRCに提出する。その報告書を必要に応じて、学会または患者安全推進センターは不具合に報告する。

2.5.法的規制:使用場所/要件/年間人工呼吸管理患者数/生命予後/ADL
2.5.1.報告の義務付け:特定機能病院は人工呼吸器の医療事故に関しては統一フォーマットに基づいて報告することを義務付ける。また、認定施設基準要項として学会への報告を義務付ける。
2.5.2.病棟での人工呼吸器の使用に関する制限:一般病棟における人工呼吸器の使用に際して、専門的な教育を受けた医療従事者が24時間体制で勤務することは不可能であるため、原則として、人工呼吸器の使用は禁止する。病棟内で人工呼吸器の使用が必要な場合は人工呼吸器や心電図、パルスオキシメータの警報をPHSなどを利用して、医療従事者に直接に伝達できる場合に限定する。
2.5.3.保守点検の明示化:施設内のMEまたは臨床工学技師は保守点検のスケジュールを毎月確認し、人工呼吸器の側面にそのリストを取り付ける。

2.6.人工呼吸器の適正使用に関する臨床ガイドライン 人工呼吸管理の適応と換気様式の選択およびその設定法に関するガイドラインの策定は学会の任務である。呼吸療法医学会ではARDSの呼吸管理に関するガイドラインを平成11年に策定している。その他、疾患別のガイドラインとして必要なものは、重症喘息発作、肺炎(細菌性、間質性)、COPDの急性増悪、心原性肺水腫などが含まれる。加えて、急性期肺障害に対するNPPVの適応に関するガイドラインの策定も望まれる。一方、在宅人工呼吸管理に関するガイドラインは呼吸管理学会で作成中である。関連学会または厚生労働省は人工呼吸器の安全使用に関するガイドライン策定の委員会または研究班を組織化することが望まれる。

2.7.教育システムの構築:呼吸療法医学会/呼吸管理学会 現在、日本麻酔学会、日本胸部外科学会、日本呼吸器学会の3学会で組織された呼吸療法認定士制度が発足し、2〜3年の臨床経験と2日のセミナー受講により、看護婦やMEに認定士の資格が与えられている。しかし、人工呼吸管理を医療現場で行っていない医師が多い、上記3学会の能力には限界があるため、その教育効果は不十分である。事実、セミナーのプログラムに人工呼吸器の安全使用に関する項目は入っていない。むしろ人工呼吸管理を医療現場で専門的に行っている日本呼吸療法医学会や呼吸管理学会にその任務を移行することが必要である。日本呼吸療法医学会は既に呼吸療法セミナーを毎年2回開催し、一昨年からは上級者セミナーを設置し、安全使用に関する教育項目も取り入れている。呼吸療法医学会も同じようなセミナーを年1回開催しており、両学会が合同で安全使用に関する教育セミナーを開催することが必要である。セミナーによる講習を受けなければ、人工呼吸器を操作してはいけないなどの規制を加えることやクレジット制導入の検討が必要である。

2.8.インセンティブの誘導 人工呼吸器に限らず、わが国には医療事故防止に関するインセンティブが不十分であり、多くの病院経営者は交通事故に遭ったような偶然の不幸と考えている。しかしながら、情報公開法の成立、アメリカ、イギリス、オーストラリアの想像を絶する年間医療事故件数の報告、医療訴訟と敗訴の増加などにより、医療事故対策は病院の生き残りの重要課題として考えられるようになってきている。欧米での医療事故対策は明らかに訴訟による金銭の損失、病院評判の低下による顧客の減少、認定基準の取り消しによる保険支払い停止など、経済的動機付けが最も大きい。 わが国も近い将来、同じような医療環境が訪れることは明白であり、そのような対策を今から立てることが必要である。しかし、このような対策が必要であることが理解できても、効果的な実行はされていない。その原因は病院内のリスクマネジメント(患者安全対策)を行うには特殊な教育が必要であることが理解されていないことが大きな理由である。製造業における品質管理は企業の根幹をなす部門であり、それなりの(教育)投資が行われている。一般には予算の10%程を配分していると言われている。また、医療事故対策は医療の標準的治療からの「ハズレ」を監視することのように思われるが、実は医療の質を向上させるなかで、初めて獲得されるということも理解されていない、つまり医療事故対策は医療の標準化と評価を前提とする。人工呼吸器関連の医療事故を軽減するためには、それなりの投資と戦略的な対応が必要であり、そのためには、EBMに基づく医療の標準化や評価システムの導入など医療の基盤整備が必要である。

3.政府の役割
3.1 規制
@ 新しい換気様式の許認可の厳格化:現在FDAでは人工呼吸器に新しい換気様式を搭載する場合は患者転帰を評価基準とした臨床研究を義務付けており、その有効性が認められない限り、その換気様式を人工呼吸器に搭載して販売することは認められない。翻って、わが国では欧米の人工呼吸器に搭載されているものであれば、機械的な安全性が確かめられると臨床使用が認可される。この甘い認可要件は医薬品とは大きく異なる。有効性が証明されない医療機器はむしろ害を及ぼす可能性が高いという原則で、許認可要件を見直す必要がある。
A 病棟で人工呼吸管理を行う場合の要項の制定:一般病棟での人工呼吸管理の使用を段階的に減らしていくため、病棟での人工呼吸管理の安全要項を確定する。心電図モニター、パルスオキシメータが人工呼吸器以外のモニタリングとして必要である。また、人工呼吸器からの警報はナースステーションを経由するか否かにかかわらず、直接に担当看護婦に伝達できる方法を完備する。また、無停電電源がない場合はバッテリー駆動が行える人工呼吸器を使用する。
B 総合的患者安全推進システムの確立:専門職集団(学会)、都道府県担当部局、患者安全推進センター(案)、厚生労働省担当部局、安全科学室を総動員した総合的患者安全推進システムを構築する。そのなかで、AccidentとH2の報告ルートを切り分ける。
C PRCの法的保護:Accidentに関する医療施設内での事故原因究明と改善策を検討する症例/システム検討委員会(Peer Review Committee)での検討内容の非公開制を確保する。

3.2患者安全推進センターの設置 行政、専門職、医療機器メーカー、医療を受ける側などを加えた患者安全推進センター(第3者機関)を設置する。センターの機能は以下のごとくである。
@ 医療事故報告の収集、分析、配布(DB化)と改善策の提起
A H2解析からの危険因子の予知と情報提供
B 新しい医療機器や新しい機能に関する臨床データの吟味
C HPを通した安全情報の配布
D 医療事故や安全推進に関する欧米や国内文献、学会報告DB化

3.3人工呼吸安全使用のガイドラインの制定:学会へ要請する、または研究班を組織する。

3.4施設認定の見直し
@ 医療機能評価機構の中に患者安全推進に関する要件を大幅に追加する
A 特定機能病院の認可基準に医療事故報告、H2、PRCを加える
B 卒後臨床研修指定病院の認可基準に患者安全推進教育の時間と内容を加える
3.5.経済的動機付け:DRG/PPS(DPC)を導入することによって、医療事故対策が病院経営に貢献する体制作りを行う。
シンポジウム抄録 「医療機器の安全管理に必要な臨床工学技士の役割」
神奈川県立衛生短期大学・教授
小野 哲章

1.はじめに
 臨床工学技士法では「生命維持管理装置の操作と保守」が臨床工学技士の業務として定められている。医療法の一部としての臨床工学技士法では、これらは「患者に直接係わる臨床業務」について定められていると考えるべきである。これについてはプロとしての自覚と技術を身につけるのは当然であるが、それ以外の「臨床工学業務」へも臨床工学技士は目を向けるべきである。

2.臨床工学業務
 「臨床工学」とは"Clinical Engineering (CE)"の日本語訳である。これは、「臨床に直接に役に立つ医用工学」を意味する。この臨床工学を戴した臨床工学技士は本質的には「臨床の場で臨床工学を担う技士」と位置付けられるべきである。 臨床工学すなわちクリニカルエンジニアリング(以下「CE」と略記することがある)とは、医用工学の技術と知識を駆使して臨床医療に様々なサービスを提供することである。すなわち、
@ 臨床の場に導入されるME機器・技術の工学的評価と最適機器・技術の選択(適切な機器の選択と導入)
A 臨床医療の量と質の向上に寄与するための工学的技能・技術の提供(いわゆる「臨床技術提供」)
B 機器・設備の安全性・信頼性の確保のための保守管理(日常点検・故障点検・定期点検と保守)
C 病院内医療従事者のME機器・技術に関する教育・訓練(院内ME勉強会・講習会) 研究
D 機器改良データのMEメーカへのフィードバック(メーカとの協力)
E 機器・設備の規格(JISや通達)の理解と標準化作業への参画
F 独自のCE研究、および臨床医療研究へのME的協力 などが病院における臨床工学業務である。
 厚生労働省より出された業務指針にも、「呼吸・循環・代謝に関する臨床業務」の他に、「保守点検関連業務」が定められている。臨床工学技士は正に「臨床の場で臨床工学を担う技士」でなければならないのである。

3.ME機器管理
 さて、実際の臨床工学業務は、生命維持管理装置および関連機器についての、その購入から廃棄(ライフサイクル)にいたる一連の「機器操作および管理」業務である。ここでは、これらの臨床工学業務のなかで、機器全体の管理について、機器のライフサイクル(図2)に沿って、臨床工学技士が行なうべき望ましい姿を述べる。

なお、操作機器の範囲については技士法で制限されているが、機器管理については、その適用範囲は制限されていない。

3.1 購入段階
 臨床部門からの新規機器導入要求を審査し、最適機種の調査・選定を行なう。この際、臨床工学技士は医学側(医療従事者)と工学側(メーカ、ディーラ)との通訳(インタープリタ)の役目を果たすべきである。
 必要に応じて、機器の試用テストも行い、性能、安全性、操作性等を検査する。とくに安全性に関しては十分な検査を行う。また、メーカの保守サポート体制についても十分に調査する必要がある。 米国には中立機関(ECRI)が発行する医療機器評価雑誌(Health Devices)があり、機器の工学的評価を行なって公表している。このような機構がわが国にも欲しい。
 なお、機器納品段階では、簡単な受け入れ試験を行い、所期の性能・安全性を確かめ、記録しておく。その後、臨床使用し、不都合の改善がなされた時点で検収する。

3.2 運用段階
 正しい運用は安全管理上もっとも重要である。取扱い説明書の指示どおりの操作や保守が必要である。そのために必要な教育・訓練をメーカと協力して機器操作者に行なう(臨床工学技士がメーカから技術的説明と訓練を受け、これを噛み砕いて機器操作者に伝え指導することが望ましい)。 機器の始業・終業点検は一義的には機器操作者の仕事であるが、その手順などは、取扱い説明書等を参考に、臨床工学部門で策定したい。
 日常的なトラブル(機器動作不良、雑音混入、リード線断線等)は臨床工学技士が対処する。取扱い上の問題(単純ミス)である場合が多いので、適切な説明・指導を行なう。 機器故障時は、点検と原因の究明までは臨床工学技士が行い、その後メーカ技術者と連絡をとり、修理を依頼する。

3.3 保守段階
 日常的な見回りや、使用状態のチエック、定期的な調整(機器校正や基本調整など)などは臨床工学技士の仕事である。 また、定期的に、チェッカを使った機器の性能・安全性の定量的な点検が必要であるが、機器について工学的知識と技術を備えた臨床工学技士が、病院ではこの任に当たるべきである。このためには、機器チェッカとチェックリストが必要である。 故障発見時には、リード線、センサなどの予備品の交換やユニットの交換などで対処できるものは、臨床工学技士が慎重に対処する。内部修理は特別な場合以外、メーカ技術者に依頼する。

3.4 更新段階 機器故障時や定期点検時に見つかった機器の故障や不具合で、修理によって元の性能・安全性に復帰しえない機器は廃棄されなければならない。この工学的判断を臨床側と相談しつつ臨床工学技士はすべきである。廃棄されたら、再び導入段階へ戻る(更新)。

4.今後の機器管理に関する重要課題 病院での機器管理のためには、適切な人材、適切な組織、適切な設備、適切な財政、および外部のからの支援が必要である。また、メーカとユーザの機器管理に関する役割分担の明確化も必要である。以下に、今後の臨床 工学部門の機器管理についての課題を列挙する。これらの確立がわが国の医療機器の安全管理に不可欠であることを医療機器に関わるすべての職種(医療従事者、機器製造者、行政担当者等)が認識すべきである。
@ メーカ・ユーザの機器管理や保守に関する役割分担の明確化が必要である。当面、メーカは取扱い説明書に責任範囲を明記すべきである。
A 「0次サービス(日常の正しい使用や基本的な機器調整、簡単なトラブル処理)はユーザ(直接機器操作者)の責任」であることを明確にする。
B 臨床工学部門は機器点検の1次サービス(日常点検、定期点検と保守、故障点検など)までの責任をもつ。その窓口となる臨床工学部門(全病院的にサービスができる組織)を、すべての病院に置くべきである。
C 臨床工学技士は臨床技術提供(業務範囲の機器操作)と機器管理(関連部署すべての機器)の両方の責任をもつべきである(「ME屯田兵方式」)。
D 機器管理の専門家・適切な指導者の養成が急務である。
E 機器台帳(機器カルテ、修理記録)や点検簿(チェックリスト)等の整備が必要である。
F メーカが提供する「機器点検マニュアル」が必要である。これには当然チェックリストも含まれなければならない。
G 廉価な国産の医療機器の定期点検用チェッカや測定器の開発が必要である。
H 臨床工学部門には「作業空間(電気工作室、点検整備室、倉庫)」が必要である。
I 病院の保守管理担当者のための機器点検研修・実習が必要である。メーカ保守セミナや学校での卒後教育などの活用も望まれる。できれば「研修の義務化」も検討すべきである。
J 医療機器には「安全性や基本性能のセルフチェック機構」の装備が必要である。
K 保守・修理の迅速化・確実化のために「ユニット交換よる故障修理機構」の確立が必要である。
L 「医療機器の点検制度」の確立が必要である。この制度には「車検」のような強制力を持たせる必要がある。
M 「機器管理指導機関(医療機器保守センターなど)」や「機器管理情報雑誌」が必要である。
N ユーザの横のつながりを持たせる「情報センター」が必要である。
シンポジウム抄録 「医療機器をナースが安全に使うためにどうするか」
藤田保健衛生大学看護学校・校長
齋藤 悦子

はじめに
 看護師の業務は、保健師助産師看護師法第5条、厚生労働大臣の免許を受けて傷病者若しくは褥婦に対する療養上の世話、又は診療の補助をなすことを業とする・・・即ち看護職者の知識、技術で主体的に行う看護行為が療養上の世話であり、医師の指示により看護職者の知識、技術で行うことができる診療の補助は、相対的医行為といえる。 医用工学の進歩により優れた医療機器が医療現場に導入され、かつては、手術室やICUなど特殊ユニットにしかなかった多種多様な機器が一般病棟にまで進出してきた。このことは、看護業務が治療の延長線上にあり、機器を使う即ち治療行為の一部を器械に任せながらケアをしている状況である。例えば、輸液ポンプ、超音波ネブライザー、人工呼吸器などであり、診療の補助行為が複雑になり看護師は高いリスクにおかれる機会が増加してきている。看護師が医療機器を安全に使うためには、機器のどのような点に留意して患者に用いるか、またその時どのように患者をケアしていくかが看護師にとって重要なことである。ここでは、事例の中から事故の原因を把握しその対策を事故防止の視点から教育への関連で述べてみる。 1.医療事故から学ぶ(失敗から学ぶことの重要性) 1)診療の補助行為、医療機器の取扱いの事例 =事例T= A大学病院で、未熟児の呼吸補助の管がはずれ、重度の障害を与えてしまった過誤である。 児は1993年(平成5年)10月、828グラムで生まれて以来、人工呼吸器を装着していたが、1994年(平成6年)8月、看護師が不在だった約20分の間に管がはずれ、児は心停止となり虚血性脳症に陥った。その原因は看護師が監視を怠っていたためと、両親が大学病院を経営する学校法人と事故発生時の担当看護師を相手に、総額約2億8,000万円の損害賠償を求めていた。1997年(平成9年)10月にB地裁で訴訟の和解が成立した。 和解条項には、一時金の6,000万円に加え、毎年700万円の看護費用を支払うことが盛り込まれた。 =事例U= Y市病院で人工呼吸器の接続部分がはずれたため、先天性代謝異常児が呼吸不全により死亡した事故について、看護師の過失が肯定されたケースである。 児は昭和63年6月に生まれ生後8ヶ月頃になってアイセル病という先天性代謝異常の障害が判明し平成3年11月入院した。以来、人工呼吸器を装着したまま療養中であった。平成4年11月19日午前、児を入浴させた時、人工呼吸のアラームのスイッチをOFFにしたうえで人工呼吸器をはずした。手動の道具で酸素を送りながら入浴をすませた。その後児に人工呼吸器を装置したもののアラームのスイッチをONにしないまま同日午前10時49分頃、児の病室をでた。その後、人工呼吸器の接続部がはずれ呼吸不全により死亡した。担当看護師が負っていた人工呼吸器のアラームのスイッチを入れておくべき注意義務は、極めて重大かつ基本的義務であった。本件判決は慰謝料 27
1,500万円の範囲でこれを認容した。 2)その他の器械機器に関する事例 (1)器械や機器の取り違いによる事故。 (2)器械や機器の不備−牽引中の金具落下によるけが。 (3)操作上の誤り−聴力検査中の音量調節ミスで難聴が悪化。 (4)器械や機器使用時の不注意−高圧酸素治療時の爆発や火災(使い捨てカイロの使用による)、MRI室内での金属の携帯や着用。 (5)誤作動−携帯電話の電磁波による機器の誤作動。 (6)モニターの見落としや判断ミス。 以上、事例を通して、活動義務を怠らないことや、観察・確認の重要性、看護技術の熟練の大切さなど看護実践に潜む危険性を認識することができる。また診療の補助行為の機器の使い方が完全に使用されないと、生命に対する重大な危険が生じる状況にあることを十分認識することが大切である。 2.事故防止にとり組む3つのポイント 1999年、日本看護協会から「組織でとり組む医療事故防止」のガイドラインが出され、以下の3点が述べられている。 1)組織の理念や目標として事故防止にとり組む。 2)情報の共有化を図り事故防止に役立てる。 3)事故防止のための教育システムを整え教育を行う。 ここでは、3)の教育について医療機器をナースが安全に使うため卒前(看護基礎)教育を述べ、卒後の新人研修の一例を報告する。 3.卒前(看護基礎)教育の現状 1)看護基礎教育における基礎看護技術教育 各学校で多く使われている氏家著「基礎看護技術」医学書院(テキスト的参考書)の医療機器についてみてみると、1993年に改訂され、その中で「診療に伴う技術」の共通基本技術として「滅菌と消毒」「臨床医療機器と看護」についての項目が新に設けられている。 その内容は、@臨床医療機器とは、AME機器の種類とその原理、BME機器の使用におけるナースの役割、CME機器使用後の援助、使用前、使用時、使用後、そして機械器具の消毒作用を含めている。いずれも認知のレベルが到達であろう。次に成人看護学技術の別冊参考書「臨床看護総論」をみてみるとその内容は、 @医療機器の原理と実際、A測定用ME機器B治療用ME機器についてである。各学校のカリキュラムの編成、教師の専門性などによりどこまで到達させているか明らかではない。 2)看護技術教育における看護・医療事故予防への取り組みの実態 2001年度厚生労働省看護研修研究センター(厚生科学研究費補助)より実態調査の結果がだされた。(自由記述203校) 看護技術教育における看護・医療事故の予防に関する各校の取り組みは多岐にわたっている。臨地実習では、目標の見直し、技術の到達度の見直しがされ、診療の補助技術の学習方法を明瞭化しようとする動きがうかがえる。特に事故予防の視点から診療の補助技術の学習方法は「見学」レベルに変更するという考え方と事故を予防して「実施」させるという考え方に二分化している。そのなかで、臨地実習オリエンテーションやカンファレンスの機会を通じて事故予防にかかわる内容を教授することに力が入れられている。また技術習得面では看護技術の到達度等の教育内容や方法の見直しがなされている。学内実習の方法をシュミレーションに切り替えた技術指導やテストの機会を意図的に増やし個別指導を強化している。以上のことから各学校で看護・医療事故予防を意識して看護技術教育に努力していることが明らかにされた。

4.看護師国家試験出題基準の見直しと教育内容の検討 平成14年第91回看護師国家試験で、医療事故を防止する視点での看護師の役割を意図した問題の出題があった。その後、平成14年4月17日、「医療安全対策検討会」の報告書の中に「国として当面とり組むべき課題」の項に「特に卒前教育において学生に医療の安全について確実に学ばせるため、国家試験の出題基準や卒前教育の内容に医療の安全に関する事項を充実させることが必要である」と出された。これを踏まえ現在保健師助産師看護師の「国試出題基準」の見直しが検討されている。また教育内容については、厚生労働省看護研修研究センターより「看護基礎教育における看護・医療事故予防にかかわるカリキュラムの構築」がだされた。 患者の「安全」を確保することは医療の実践の場における最優先事項であり、これを保障していくことは看護職の義務であり責任である。卒業後の看護研修と併せて看護基礎教育の資質の向上が迫られている。看護基礎教育の終了時における看護・医療の事故防止の知識・技術・そして看護倫理についての到達を明らかにする必要がある。このためには、各学校で事故防止の観点からのカリキュラムの編成と、ともに看護教員が事故防止に関する知識・技術・教育方法を身に付け看護・医療事故、リスクマネジメントを専門領域とする教員の育成が急がれる。

5.卒業後の研修(新人の現任教育)B病院の例 ME機器の安全な取り扱いについて、B病院看護部での新採用者の研修到達度は基本看護技術でありME機器に関連する項目は、新人の必須項目ではないという位置付である。 病棟の特殊性にあわせ現場で教育をするという方針であり現場教育が重要な役割を果たすことになる。 救命救急の病棟を例にとって、当病棟での具体的なME機器の種類は、人工呼吸器、電子体温計、鼓膜温計、自動血圧計、簡易血糖測定器、輸液ポンプ、シリンジポンプ、超音波ネブライザー、低圧持続吸引器、リフト式体重計、パルスオキシメーター、心電図モニター、十二誘導心電図、電気的除細動、動脈圧モニター、エアマットなどがある。 当病棟の医療機器使用教育状況(新人教育として1年間で到達)として、基本看護技術のほかに、病棟の特殊性を考え処置、検査などにME機器を網羅させ、原理、使用方法、準備、安全使用を教育している。又、難易度が高いME機器に関しては、経験者のフォローアップ体制で受け持ちとしている。 例)人工呼吸器はわかるが血液濾過装置に不安がある患者を受け持つ場合は、血液濾過装置患者を受け持ちの経験の多い看護師がバックアップし経験させていく。(重複する受け持ち体制)

1)当病棟での基本看護実践は以下の2点である。
@看護部での到達目標である新採用者の基本看護技術の評価
A病棟の特殊性をふまえた処置、検査項目の評価

2)到達期間 新人教育の1年間を目安として経験、実践していくが、その後は(2年目以降も)もこの実践度を活用し、自己を
高める努力をするとともに、その目安となるものと位置づけている。

3)指導方法 通常業務中に、先輩看護師(日替わり)が指導する。到達できれば、次のstepへ進む。
(4段階のステップアップ方式)
step0 手本を示す・説明・見学
   ↓
step1 準備がひとりでできる
   ↓
step2 手順に従い指導者と一緒に行える
   ↓
step3 指導者が見守る中ひとりで行える
   ↓
step4 準備から後片付けまですべてひとりで行える
 ステップ4を評価として以後その項目に対しては、指導を個別的には終了としている。

4)リスクを減少させるためのとり組み 現場の安全を確保するために実践していることは、以下の4点である。

1.電気的側面・・・蛸足配線の厳禁、生命維持装置には非常用電源への接続など
@ 準備段階での確認(入院準備する看護師) A 日頃の管理点検(看護管理者・チームリーダー)

2.機械的側面・・・始業点検、適切使用確認など
@ 始業前作動確認(臨床工学技士・入院準備をする看護師)
A 使用中の確認(受け持ち看護師)
B 適切使用の確認(看護管理者・チームリーダー)

3.人為的側面・・・危機回避能力、患者の状態アセスメント能力など
@ 専門的知識の教育
A キャリアにあった受け持ち配置(看護管理者・チームリーダー)

4.患者的側面・・・指導、理解、承諾など @ 患者自身がおかれた状況の説明(受け持ち看護師) A 使用器具の指導(受け持ち看護師) 当病棟の指導方法は基本的にはプリセプター方式をとりいれているが業務の中で、直接の指導はその日の先輩看護師に受け、内容によっては、重複する受け持ち体制で新人をバックアップしている。プリセプター方式のデメリットをカバーする方法であり、患者の安全を守る視点から有効であると考える。しかし教育の到達目標、内容、方法、評価を明らかにしていくこと、さらに、専門的知識・技術が求められる現場での継続学習を位置付けることが課題である。 おわりに 1.医療の安全の視点から教育を中心に述べてきた。医療の高度化、専門化、多様化により、看護職の役割は拡大してきている。看護基礎教育では、個々の基本的看護技術の到達がその範囲と考える。臨床実践能力は、臨床家として総合的な能力が必要になることから卒後の臨床研修の制度化が望まれる。

2.医療用具に関する安全管理については、@医療用具使用時の注意事項、A保守管理の重要性、B医療用具採用時の注意事項の3点である。これらを充実させるためには、医師を中心に臨床工学技士、看護師が職種間をこえ事故防止の視点から協働と連携がきわめて重要である。さらに製造業者及び行政との情報交換を密にすることが患者への安全を保証することになると考える。
 
ポスター発表抄録
医療の安全に関する研究会 第7回研究大会 ポスター発表

1)医療用具の製品識別と安全使用のための情報支援を行うPDAの研究調査
永井敦(名城大学都市情報学部)、酒井美静、酒井順哉(名城大学大学院保健医療情報学)
 医療現場で医療材料の受発注業務、医事請求業務を簡便にする方法として、バーコード付き携帯端末(PDA)の有効利用方法について検討した。今回、医療業界により標準化が進む医療材料の個装バーコード(UCC/EAN-128)が様々の表示仕様であっても、商品識別、ロット番号、滅菌期限を判断するソフトウェアを試作した。これにより、患者に使用する医療材料の取り違いや期限切れを防止する患者安全確認用のプログラムと、材料部やナースステーションで複数材料を連続的に読みとる際の迅速な在庫確認のプログラムの2種類を選択することで医療現場の業務効果が高まると推測する。

2)わが国の過去16年間の医学文献データベース及び日刊新聞報道にみる「看護」にかかわる医療事故
藤原奈佳子(名古屋市立大学看護学部)、宮治 眞(名古屋市立大学病院医療情報部)
 わが国における過去16年間(1986年-2001年)の医学文献(医学中央雑誌)および日刊新聞のデータベースから、医療事故を主題とする学術文献と新聞報道記事を抽出し、その中から「看護」に関与する物の出現頻度と内容を検討した。医療事故に関する学術文献は全分野で4,006件(597雑誌)であり、このうち960件(75雑誌)が看護にかかわるものであった。報道記事は613件でこのうち看護が関与した記事は26件であった。特に、近年は看護に関する内容の増加が認められた。

3)質の保障について 〜他産業に学ぶ〜
川路明人(医療法人尾張健友会 千秋病院薬局)
 医療だけでなく、世間を騒がす様々なことは、「当たり前のことが当たり前にできない」という点で社会不信を招いている。では「当たり前のことが当たり前に行う」にはどうすれば良いのだろうか。私は以下のように考えた。「当たり前のこと」=“マニュアル”ならば、「当たり前に行う」=“質の保障”である。 質の保障の具体例として、食品業界で「マクドナルド」の手洗い、「回転すし蔵(くら)」の時間管理について取り上げる。その中から学ぶべきことについて考察する。

4)病気の人を支える医療の裏方──私たちは臨床工学技士です
寺町教詞、清水芳行、野々垣常正(東海医療工学専門学校 臨床工学科)
 今から14年前にできた医療の国家資格です。 患者様の生命に直接関わる医療器械を操作することができる資格です。 大学病院で心臓手術をして亡くなった子がいます。人工心肺という装置を動かしますが、慣れない医師が操作して、適切でなかったとのことです。慢性腎不全のひとは人工透析で生きています。 私たちは透析液の調整や器械の具合をいつも見ています。その他多くの医療器械の保守・管理や安全教育をしています。これら医療機器を通して医療の安全を支えている様子をご紹介いたします。

5)薬剤過誤報道分析による事故防止対策
覚前有希子、半谷眞七子、松葉和久(名城大学薬学部薬学専攻科)
 2000年1月から2002年6月の期間に報道された薬物療法に関わるエラー94件の記事から、エラー予防対策を分析した。報道される多くの過誤は重篤な症状あるいは死を患者に与えていた。 主たるものは、間違った用法、間違った薬剤、間違った投与ルート、また、キーボードエラーによる用量の少数点エラーなどであった。一部の事故が患者自ら又は付添人による発見であった事実(27%)は患者教育が過誤防止の大きな対策となりうることを示唆した。また、小児患者が過誤被害者となる可能性が極めて大きい傾向にあった。

6)患者に役立つ医療安全チェックガイド作成の試み
酒井郁見、木村佳代(名城大学都市情報学部)、 酒井美静、酒井順哉(名城大学大学院保健医療情報学)
 我々は各医療機関から医療安全のためのリスクマネジメントマニュアルを収集するとともに、(財)日本医療機能評価機構「病院機能評価統合版新評価項目」および厚生労働省等のホームページより、患者に役立つ医療安全チェック項目を検討した。 収集したマニュアルは、職種別・事故事例別等、各医療機関により構成が様々であることがわかった。今回、医療スタッフ向けに作成されたこれらのマニュアルについて患者側から医療安全に役立つ項目を抜き出し、患者が病院に受診し、処置、検査、手術を行う際に参照すべきガイドブックの作成を行っている。

7)臨床工学技士が行なう患者安全管理(Patients Safety Management)の取り組み
北野達也(知多市民病院臨床工学室)
 当院では、臨床工学技士の就任以降、生命維持管理装置等の操作・運用について、より専門的に行なわれるようになった。さらには院内医療機器保守管理体制の確立、また、独自の院内教育を行なう傍ら“Patients Safety Manager&Negotiator”として事故を未然に防ぐとともに、組織横断的に取組んでおり、患者の方々が、より安全に安楽に治療を受けられるようになった。これらのことは結果的に治療拡大、大幅な経費削減にも繋がり、地域中核病院としての役割を果たすとともに医療の質を向上させている。今後、安全管理、病院経営の重要な担い手として高度医療専門職である臨床工学技士が各医療施設に配置されることをせつに願う。

8)ポスターセッション「医療被害防止・救済センター」について
加 藤 良 夫 ( 愛知大学教授・弁護士)
 医療事故を防止することと、医療被害者を救済することとは全く別個のことと考えられてきた。しかし、被害者の救済システムが整備されていないために、事故情報は沈澱しがちであった。医療事故を防止するための第一歩は、事故情報を力強く収集・分析し、生かすことである。 医療被害者の救済を図ると同時に医療事故を防止し、安全な医療を目指す第三者機関として、「医療被害防止・救済センター」構想を紹介し、意見交換したい。
  
医療の安全に関する研究会 総会議事録
議事録作成者 増田聖子
2002年6月22日(土) 午後3時から 於 名古屋市立大学病院5階会議室 出席者 島田康弘 加藤良夫 齋藤悦子 松葉和久 宮治 眞 吉田嘉宏 池田卓也 酒井順哉 堤 寛 寺町教詞 増田聖子 委任状出席者 94名 定足数を充足していることを確認

1.決算及び予算 平成13年度会計報告に基づいて齋藤常任理事から報告。
及び寺町監事から監査報告のうえ、承認。
平成14年度予算案について齋藤常任理事から報告。
理事会で研究大会費を40万円とし、予備費は835,531円と修正した予算案を承認。

2.役員案 山内桂子先生あるいはそのご推薦いただく方のご意向を確認することを条件にして理事に 加わっていただくことについて承認。 酒井理事に常任理事に就任いただく。
そのほかは別紙役員案のとおり承認。

3.分科会報告
医療機器の安全に関する分科会は、研究大会にむけて準備
その他の分科会については、特段の活動の報告はない。
今後のこの研究会のあり方、分科会の活動方向について、論議。
医療の質の評価のチェックポイント、患者からみた医療機関のチェックポイント、アメリカ政府機関が発表している患者に必要な20項目の日本語版を作成する。
医療機能評価機構のあり方、医療被害者救済防止のシステムの研究などについて提言するなど活性化のためにむけて論議。
活性化のためには事務局能力の強化・向上が不可欠、資金的裏付けも必要との意見も出た。
第6回研究大会の報告書については、堤理事からさらに準備し、6月中に発言者に原稿を送って、7月中に内容の確認をすすめる。
出版社についても、堤理事から連絡して、7月末までに選定する。
第7回研究大会には、販売できるようにすすめる。

4. 第7回研究大会について
酒井大会実行委員長から報告を受け論議。
プログラム及びポスター展示の公募について報告。 医療機器の展示は、廊下のロビーに机を並べて陳列(安全に意識した機器を優先して選択) 各分科会にポスターの展示による発表を呼びかける。
ポスター展示の手法については、今後検討する。
次期研究大会実行委員長 齋藤悦子常任理事にお願いする。
次期研究大会 2003年11月29日(土)に予定 会場は、名古屋市立大学あるいは名城大学を予定して検討する。)





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